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胸倉を掴まれ、紡の制止があと一歩遅ければ殴られていたかもしれない咲夜は、自分の養子である十夜に怒ることはなかった。
咲夜の表情からはずっと重い真実を一人で背負ってきたこと、また同時に紡達に嘘をついてきたことへの罪悪感が感じられた。
きっとこの場に無関係な者が見ても、咲夜の表情からそう受け取れただろう。紡と違い、長年養子として側にいた十夜が一番分かっているはずなのに。ふと隣にいる彼を見てみると、彼は再び顔を俯かせたまま拳を握り締めていただけで、今度は殴りかかろうとはしなかった。
「十夜君、君が僕に怒るのも無理はないよ」
養子である自分を引き取ってくれた信頼する養父が、最大の隠し事をしていたのだ。決して間違っても、十夜に愛情が沸かなかったわけでも、心の底から信頼していなかったわけでもない。
それは養子ではない紡に対しても同じだ。咲夜にとって赤子の頃から見てきた二人は我が子のように愛おしく、どの親にも負けないくらいの愛情が沸き、同時に心の底から信頼していたのだ。
今ここでそれを明かしたとしても、二人に咲夜の本当の気持ちが伝わるのかどうかは怪しいところだが。
瞳に、心に罪悪感の色を交えながら、僕は真実を君達に明かした上で、最も重いタスクを背負わせようとしている、と言った。
今から言わんとしていることが何なのか、それが意味しているものが何なのか、ようやく紡にも分かった。
分かった時点で、十夜が先程殴りかかろうとしていた理由も納得がいく。彼としては、クローンであることは疎か知らず知らずのうちに背負わされた重いタスクを、簡単に飲み込めるはずがなかったのだから。
「クローンが暴走し襲撃をしている主な原因は、君達の血液によるものだ」
クローンの始祖である二人の血液は、他のクローンからすれば理性さえ奪ってしまうほどの毒になる。例え人間を襲う気などなくても、どちらかの血液を混入もしくは飲まされでもすれば、あの様な暴走状態になるということ。
これには二人とも唖然とするしかなかった。自分の中に流れる血が、そんなに恐ろしいものだとは知らずに生きてきたのだ。
「ちょっと待ってください」
話を続けようとした咲夜に、紡は思わず割って入った。自分達の血が原因で暴れるクローン達。だが、一つの疑問が残る。
「私達に流れる血が今回の事の発端なんですよね。でも、私達は普通の人間から複製されたクローンです。中に流れる血が一度複製しただけで、毒になるんでしょうか?」
最もな疑問であり質問だった。
一度複製しただけで、血液が他のクローンにとって毒になるなんて聞いたこともなければ、信じられるわけもなかった。他害の毒になるなんて、それこそ胎児の時に科学操作を受けなければ可能になんてならーー
ない、とまで考えた紡は閃いて十夜を見た。同じく十夜も顔面を蒼白にさせてこちらを見ていた。普段の白い顔をさらに蒼白にさせているところから、同じことを考えていたと推測できる。
嫌な予感と縋るような気持ちで、最後に咲夜の顔を見た二人は、深く項垂れた。彼の顔にはまさにその通りだ、と書いてあったからだ。
「君達の血液を調べてもらったことで判明したんだ。人間には害はないけど、クローンには害となる毒。恐らく胎児の時に、奏さんと斗真が施した処置なんだろうと僕は思う。もし近い将来、クローンが人間を脅かすことがあれば、この毒を持って彼らを止められるように、ね」
「じゃあ、止める方法というのは……」
そこまで話して、口を噤んだ。いや、噤んだのは自分でここから先は言いたくなかったから。ただ、それだけのことだ。背負わされたタスクがどんなものなのかが見えてきてしまった。
見たくもない、気付きたくもない、知りたくもない。口を噤んだ紡に代わり、咲夜は淡々と、そうだよ、と答えた。
出来ることなら、この先を言ってほしくない。突如突きつけられた真実と重いタスクは、今の紡や十夜の不安定な精神状態ではとてもじゃないが受け止めきれないし、背負いきれない。
そのことを咲夜が気付いていないわけが、知らないわけがない。だが、運命というのは時として残酷だった。
「僕は、止める方法があるとすらのなら。それは、君達の犠牲以外には考えられないと思っている」
だからこそ一瞬の迷いも躊躇もなく、続け様に発せられた言葉には多大なショックを受けた。




