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フロッピーディスクには二人の科学者から採取した体細胞を基盤として生まれた、二人のクローンの情報が入っていた。
その科学者の名は弓槻 奏・斗真。そして彼らの体細胞から生まれた二人のクローンの名は、紡・十夜。影ながら見守り、育ててくれたのが咲夜。理解できた情報はこれだけで充分だった。
「……私達は、奏さんと斗真さんのクローンだったんですか?」
いち早く理解をし、混乱の海から這い出た紡が咲夜に震える声で尋ねる。咲夜は静かに微笑んだだけだった。無言の肯定に、今まで自分を人間と信じて疑わなかった紡の中で、何かが壊れて再構築されていく。
激しく押し寄せてくる真実の波に、自分は逆らうことすら出来ないのだと感じざるを得なかった。ディスクには、奏と斗真の写真も記録されていた。よくよく見ると、確かに紡と十夜と同じだ。
自分の癖も何一つない長い黒髪も、焦げ茶色の瞳も、クールな印象を思わせる切れ長な睫毛も、整った顔立ちも。十夜の蒼い瞳も、綺麗な黒髪も。全てがそのまま反映されている。
クローンは生みの親というよりも、体細胞を提供した親と同じ容姿で生まれてくる。その事実をディスクに記録された写真という形で突きつけられてしまっては、もう飲み込むしかない。
話をしている間、咲夜が紡と十夜を愛しそうに、けれども悲しそうな表情を浮かべて見ていたことには気付いていた。例え性格は違えど、生前の二人の姿そのままだからだ。
「コードネームのアダムとイヴは、君達がクローンの始まりであるからつけられたものだ。正直、僕は好きじゃない」
そこで一旦言葉を区切り、彼は紡と十夜に視線を移して瞳を閉じた。何かを思い出すかのように少しの間黙っていたが、すぐに瞳を開けて言葉を紡ぐ。
「僕にとって、君達は大事な知人の忘れ形見であり、同時に愛しい我が子みたいな存在だ。だからこそ、今からも。そしてこれからも。君達のことをコードネームで呼ぶつもりは一切ないよ。君達には、奏さんと斗真が与えてくれた、立派な名前があるんだから」
彼はこちらが見ていて胸が痛くなるくらい寂しそうな笑顔を浮かべた。それから三人の間には沈黙が訪れる。
「どうして」
しばらくの沈黙が続いた後、静寂を破るように十夜が低く呟いた。呟きに合わせて、紡も咲夜も彼を見る。彼は、深く顔を俯かせたまま拳を握り締めていた。
「どうして……今になって、真実を教えた?」
顔を上げたその瞳には怒りが見える。横から見ている紡にも、彼が怒っていることに気付くくらいだ。普段が無表情で何を考えているのか分からないことはあったが、ここまで怒りを露わにする十夜を見たのは初めてだった。
「室長、答えてくれ。どうして、今、真実を教えたんだっ」
怒気を含んだ声でもう一度問い掛けた十夜は、回答を示さなかった咲夜の胸倉を思い切り掴んだ。まさか、このまま勢い任せに咲夜を殴りはしないかと心配していた紡は、様子を見ることにしていた。
しかし、次の瞬間には十夜の腕にしがみつくことになる。稀有だけで済めば良かったのだが、そういうわけにもいかず。十夜が咲夜を殴ろうと腕を振り被ったからだ。
「離せ」
紡は間一髪のところで十夜の腕にしがみつき、最悪の状況を防ぐことが出来た。止められた十夜はというと、彼女に邪魔されたことが余程気に入らなかったらしく、氷のように凍えた瞳で腕にしがみついている紡を睨みつけた。
「離さない。離したら、咲夜さんのこと殴るでしょ。殴らないって言うまで、私はこの手離さないから」
それが嫌なら、咲夜さんじゃなくて先に邪魔な私を殴ればいい、と真剣な表情で付け加えた。これで揺らいでくれれば、落ち着かせるチャンスがあると思ったからだ。もちろん、殴られる可能性が高いことを百も承知の上で。彼女の真剣な表情と言葉の前に、十夜は揺らいだ。
「……分かった。殴らない」
一歩も引かない紡と、同じく殴るといって一歩も引かない十夜。先に折れたのは十夜の方だった。咲夜の胸倉を掴んでいた手を離し、腕も下ろす。それを見届けてから、恐る恐る紡はしがみついていた手を離した。




