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現の蝶  作者: 鮎弓千景
action2 過去編:西暦二〇四五年
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action2/16




 赤子達がカプセルから誕生してから三日経った後、二人が抱いていた不安は現実的なものとなった。


 夜、仮眠室でそれぞれ寝ている二人の耳に爆破音が入ってきたのだ。すぐさま跳ね起きて、保育器がある保管室に向かった。


 背後からは爆破音、そして発砲音も聞こえる。爆破による熱風が背中に吹きつけるが、振り返っている余裕はない。


 素早く保管室に滑り込んだ奏と斗真は保育器毎、赤子達を使われていない倉庫の床板を剥がしてそこに隠した。


 万が一の事態が起こった時のためにと、密かに床板の下へ施した専用の機械を保育器に繋げる。ランプが点灯したのを見届けて、中にいる赤子達の無事を確認する。


 これは赤子達が死なない程度に保育器の中の温度を調節し、一時的なコールドスリープ状態を作るものだ。例えラボの電源が全てカットされたとしても、内臓されたバッテリー使用のため影響はない。


 『これで、よし』


 床板を元に戻し、最低限の処置を施した斗真は奏の方を振り返る。奏は斗真が処置を施している間、当初からの打ち合わせ通り二人の友人である彼に連絡を入れておいた。

 ただ一言保育器のある場所と赤子達のことをよろしく、と。


 まだネルヴォイが生み出されていない時代、連絡手段は掌に収まる大きさの小型端末のみだった。メッセージが送信された表示を見てから、奏は斗真を見た。


 そして端末を思い切り床に叩きつけ後、近くに転がっていた廃材である鉄パイプで入念に叩き壊す。


 データー復旧が不可能なまでに叩き壊した二人は、どちらともなくお互いをしっかり抱きしめ合った。自分達にやれることは全てやった。後は、彼に一存するだけだ。


 頭の中では分かっているはずなのに、とてつもない後悔の念と悲しみの念が心を占めていく。


 『出来れば、あの子達の成長をずっと側で見守ってあげたかったね』


 それだけが心残りだと言う奏を見て、斗真は悲しく微笑んだ。気付けばあれだけ辺りに響いていた爆破音は止んでいる。耳が痛くなるような静寂を乱すように、多くの足音がこちらに向かってきているのが聞こえた。


 その音も保管室の前で止まったかと思うと、ドアが蹴り破られ銃を持った男達が次々と中に押し入ってきた。


 互いに抱きしめ合っていた手を退かし、入ってきた男達に向かって隠し持っていた銃を発砲した。しかし、二人の意識はそこで途絶えてしまう。


 何故なら、二人が銃を発砲した瞬間に合わせて、男達が一斉射撃を行ったからに過ぎなかった。


 銃弾の雨をこれでもかと食らい、全身を蜂の巣にされて既に息絶えている奏と斗真の亡骸は、銃弾の雨が止むと同時に床に倒れ込んだ。体中に空いた穴という穴から止めどなく溢れる血は、二人の白い白衣を赤く染める。


 こうして、二人の科学者は自らの分身を残し、口封じを兼ねて他の科学者達が依頼した殺し屋達の手によって命を奪われた。




 名の知れた二人の科学者が命を落として依頼完了とばかりに殺し屋達が引き上げた後、一人の男がラボにやってきた。青みがかった髪を風に揺らし、銀縁眼鏡を掛けた黒い服を身に纏った男だ。


 男はラボの中に入ると、端末に受信したメッセージに書いてある通りに、真っ直ぐに保管室と呼ばれた部屋を目指した。

 手榴弾でも使ったのだろうか。所々が焼け焦げた長い廊下の一番奥に保管室はあった。


 開け放たれたというよりも、寧ろ強行突破のために壊されたドアのない入口を潜り抜けて、中に入る。中に入って真っ先に目を惹いたのは、床に横たわる二つの遺体。


 遺体は見事なまでに蜂の巣だ。その弾丸全てが体を貫通している。親しかった知人の亡骸を前に、男の頬を涙が伝った。


 『……奏さん、斗真。貴方達は最後の最後まで立派でしたよ』


 男は二人の亡骸にそっと手を合わせる。せめて、安からに眠ってくれることを願って。そうして手を合わせ終わると、男は立ち上がって使われていない倉庫を開けた。


 確か、メッセージにあったのはここだったはずだと思いながら、指紋を残さないように手袋をして床板を退かす。


 外した床板の下に並べられた保育器が目に映った途端、急いで機械を停止した。コールドスリープ状態であることを瞬時に理解したからだ。振動し続けていた機械は止まり、コールドスリープが解かれる。


 男の耳を劈くのは、二人の赤子の元気なまでの泣き声だった。保育器の中を見ると、どうやら男の子と女の子の赤子だということが分かった。男はまるで壊れ物のように二人の赤子を抱き上げると、優しく抱き締める。


 『君達だけでも無事で良かったっ』


 抱き上げた途端に、耳を劈く程の泣き声がぴたりと止まった。知人の代わりに赤子達を見守り育てていこうと、強く決意する。


 黒い服を身に纏った男の背には、白い蝶が描かれていた。当時はまだ設立されたばかりの組織だったが、十数年後には誰もが知っている名のある組織となる。


 その男こそ、現在の蝶の本部長である九条 咲夜だった。後に咲夜の手によって保護された赤子達は、それぞれが違う場所で育てられる。十夜と名付けられた男の子は咲夜の元で、紡と名付けられた女の子は咲夜の手を離れ施設へ。


 男の子には両親がいなかったことを伝えて自分の養子に。女の子には自分が両親の知人であること、両親が科学者であり、実験中の事故で亡くなったことを伝えた。


 当時の政府の奴らや二人を間接的に殺した科学者達の目を誤魔化すためには、仕方なかったのだ。


 いつか、本当のことを打ち明けられる日が来るまで。事実を一人で背負い込んだ。

 そして時は流れ、それぞれ別の場所で暮らしていた二人の赤子は歳を重ね、巡り合うことになる。


 全ては女の子ーー紡が暴走したクローンに襲われ偶然にも通りかかった十夜に助けられて、本部に運び込まれた時に始まった。

 出会いは偶然ではなく、必然である。




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