action2/14
「見つけたか」
声に振り返ると、ドアに寄りかかるようにして立っている十夜がいた。礼服の所々が破れている。ライトで彼の姿を照らし出した紡は、その姿に顔を強張らせた。いや、正確には顔を顰めた。
彼の礼服の所々に付着する赤茶色の何かの液体が視界に映ったからだ。
一瞬、彼が見た目よりも実はひどい怪我を負っているのではないかと疑ったが、鼻につくオイルの匂いですぐにその疑いは掻き消された。
「どうした」
「大丈夫? ……顔色、良くないみたい」
恐る恐る問い掛けた。破れた礼服の下から覗く白い肌にはおそらく傷一つついていないのだろうが、紡が心配したのは彼の顔色の悪さだった。ライトで照らし出した彼の顔は血の気がなかったのだ。普段から白いのが、輪をかけて白くなっている。
「お前は、余計な心配をしなくていい」
彼はそう吐き捨てた。先の戦闘中に何があったのかは知らない。ただ、紡は彼のその顔に苦悩の色が浮かんでいるのを見逃さなかった。詰め寄ってみるべきだろうか。しかし、このまま詰め寄ったとしても、また以前のように拒絶されるだけだ。
「そう、大丈夫ならいいよ。それより、警備ロボットはどうしたの?」
部屋に漂い始めた不穏な空気を変えようと、早々に話題を切り替える。十夜は視線だけをドアの向こうに向けた。紡は何も言わずに彼の脇を通り過ぎて廊下に出る。
廊下には警備ロボットが倒れていた。左胸部からオイルが漏れているのを見ると、彼が核を破壊したことがよく分かる。
街の重要機関に配置を許されている警備ロボット。限りなくそのシルエットは人間に近いとされている。ロボットには中枢部と呼ばれる核がある。核の場所はロボットによって違い、この系統のロボットは左胸部に核があるタイプだ。人間と同じく急所部分。不意打ちならば気づかれずに破壊することは可能だが、対面した場合はまず難しい。
倒れているロボットを前に、呆然とするしかない。彼の実力はそれなりに知っているが、撃破困難とさえ言われた警備ロボットをこうも倒してしまうとは。再び表現し難い実力の差の壁が突き付けられた。
「おかえり、十夜君、紡君。無事にデーターを回収してきてくれたみたいだね。ありがとう」
紡からフロッピーディスクを受け取った咲夜は、自室に戻ろうとしない二人を見て大凡の心境を理解した。回収してきてくれたフロッピーディスクに保存された機密情報。咲夜が長年探し続けた情報である。どんな情報なのか、気にならない者はいない。
実は閉鎖されたあの研究所に、未だに機能し続けている警備ロボットがいることを咲夜は知っていた。知っていながら二人に向かわせたのは、二人なら必ず回収してきてくれるという確かな確信があったからだ。結果、彼の予想通りに二人は回収してきてくれた。
「これが気になるって顔してるね」
フロッピーディスクをちらつかせながら問い掛けると、二人は無言で頷いた。気にならないわけがないとは踏んでいたものの、明かすべきかどうか悩む。今、明かしたところで彼らがそれに耐えられるかどうか……。かといって、ここで明かさずに帰してしまえば、今後明かすタイミングを逃してしまい兼ねない。
「このディスクには、ある技術で最初に生まれたクローンの情報が入っている」
咲夜は機械にフロッピーディスクをセットした。昔では主流だったパソコンで読み取ったデーターをネルヴォイに転送して、二人に送る。
「君達は知らないだろうが、今の政策が世界的に可決される前に、日本は既にクローン技術による人体生成を行っていたんだ。その時に生まれたのが、ある研究者の体細胞を基盤に造られた、二人の赤ん坊。与えられたコードネームは、アダムとイヴ」
ーー分かりやすく言わせてもらえば、これは君達に関するデーターだ。
その言葉に、二人は驚愕をする。紡は顔から血の気が引き、唇を震わせている。無表情以外の表情を見せることがなかった十夜でさえ、突きつけられた事実に自失呆然の状態である。咲夜は二人の反応に胸を痛ませつつも、事実を伝えることを止めはしない。
「これは、十七年前のことだよ」




