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西暦二〇四五年ーー九月十六日、午後二十二時。二人は礼服を身に纏い、街の中央部に取り壊されずに建っている元研究所の前に立っていた。黒のプリーツスカートが夏風に揺れる。残暑が残っていて、蒸し暑い。
街の要だった大手の製薬研究所。かつては昼夜に関わらず、絶えず明かりが点いていたのだろう。今は閉鎖されているため明かりは灯っていない。建物の全貌も月明かりでやっと視認できる状態だ。
「暗視スコープをつけろ」
十夜から手渡されたサングラス式の暗視スコープを掛ける。視界が緑色に染まり、光の加減を耳掛け部分にあるボタンで調節する。これでだいぶ見通しが良くなった。
「準備はいいか」
「うん」
正面入口の前を通り過ぎて、裏口の社員専用口に回る。予め咲夜から手渡されていた社員専用のセキュリティカードをカードリーダーに通して中に入った。
暗視スコープ越しに研究所内を見渡して、赤外線の類がないことを確認する。閉鎖されたからといって、全ての警備体制が切れているわけではない。ごく一部の機能が生きていたりする。
警戒しながら、リボルバーを片手に廊下を進んだ。進んだ先に出たのは研究所のエントランス。受付カウンターの背後にある左右に分かれたエスカレーターと中央にあるエレベーターが見える。電気自体が通っていない今、動くことはない。カウンター横の壁に提示された所内の案内マップで情報管理室を探す。
「十夜、あったよ。……六階みたい」
「そうか」
この研究所は屋上を含めて全部で七階建てだ。六階の図にある「データー管理室」と書かれた部屋を指差した。警備体制が機能していないとはいっても、最悪の状況を想定してここからはなるべく会話を控える。
彼が手振りで行くぞ、と合図をする。それに倣って、紡は止まったエスカレーターを上り目的地を目指した。
目的地である六階に着く瞬間、二人はエスカレーターの出入り口の所で立ち止まる。
(警備ロボット……!)
廊下の先を確認しようと覗き込んだ二人の目に映ったのは、道を塞ぐようにして立っている警備ロボット。
さすがに危険と感じたのか、顔を引っ込める。警備ロボットといえど、侮れない。最新鋭の科学技術で作られたロボットの形は人間そっくりだ。侵入者とあれば容赦なく射撃を行い、殺すことだって躊躇しない。体術は国の自衛隊よりも強い。
十夜が手振りで自分が攻撃をする、その隙にデーター管理室に入れ、と伝えてきた。紡はその作戦を聞いて、かぶりを振る。とてもじゃないが、快く引き受けられる作戦ではない。
確かに彼の言う通り、どちらかが囮にならなければデーター管理室には入れない。しかし、警備ロボットの強さはお世辞でも伊達じゃない。一人で倒せるのなら、苦労はしないだろう。
かぶりを振った紡を十夜はスコープを外して睨みつけた。その鋭い視線を浴び、紡はおずおずと頷くしかない。本当は抗議したいところをぐっと抑え込む。速まる鼓動と呼吸、場を占める緊張感で張り詰めた空気を全身で感じる。スコープ越しに彼が指折りでのカウントを始めた。
(三、二、一……GO!)
一斉に飛び出す。警備ロボットは十夜が惹きつけ、紡は彼の安否を心配しながらその脇を通り抜ける。一気に廊下の突き当たりまで走り抜けた。背後で聞こえる射撃音に振り返りたい衝動を抑えて、データー管理室に忍び込んだ。
無事にデーター管理室に入り込んだ紡は、ライトを点けて口に咥えた。暗い室内を照らし出しながら、目当ての機密情報を探す。急がなければ十夜が危ない。
棚に残っているデーターがないか探すも、どの棚にも残っているデーターはない。扉越しに聞こえる射撃音に焦りを感じていた時、丁度手を置いたデスクの上で何かに触れる。
もしやと思ってライトで照らしてみると、それは今では見ないフロッピーディスクだった。




