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「驚いたな」
一階の食堂で昼食を食べていると、向かい側の席に座っていた十夜が突然そんなことを言い出した。紡はパスタを口に運びながら、彼を見る。先程の言葉とは裏腹に表情は微塵も驚いた様子は見られないが、彼なりに驚いているつもりなのだろう。口に運んだパスタを噛んで飲み込み、ナフキンで口についたソースを拭った。
「何か驚くようなことあったの?」
彼が何に対して驚愕しているのかが分からない紡は、単刀直入に聞いてみる。聞いてすぐに射撃の上達の早さ、と返ってきた。
「普通はみんな、あれぐらいまで上達するんじゃないの」
「いや。普通は一週間かかって、やっとあれぐらいまで上達する」
そうなの? と返す。彼からは、ああ、と返ってきた。真っ直ぐに見つめ合う蒼と焦げ茶の瞳。やがて彼の方が目を逸らした。小さく、普通じゃ考えられない上達ぶりだ、と呟いたのを紡の耳は捉えた。お皿に残ったパスタを食べきり、丁寧に口を拭った後、食後のお茶を飲みながら十夜を睨みつける。
「何? それじゃあまるで、私が人間じゃないみたいじゃない」
(褒めてるのか、それとも貶してるのか)
ジト目で睨みつけてくる紡の視線なんて十夜は気にしない。寧ろ睨みつけられる覚えがない。本人としては褒めたつもりではある。どうやら二人の会話間のキャッチボールが上手くいっていないようだ。だが、それに本人達が気付くことはない。
その後、夕方までみっちり射撃の練習を行った。
「うー……腕が重い」
みっちり射撃の練習を行ったことによるものか、腕が鉛のように重い。紡は自室のベッドに寝転がりながら、腕を揉みしだく。十夜のレクチャーを受けて射撃の腕は今日一日でかなり上達した。
最初は発砲による反動で腕を持っていかれてばかりいたが、次第に反動の影響を受けなくなり、腕も持っていかれなくなった。そこからは驚くほどに上達した。連続射撃で十枚中八枚、見事中心を撃ち抜けるほどまでにだ。
さすがの十夜もここまで上達するとは思っていなかったらしい。物覚えの早さと感を掴む早さ、運動神経だけは昔から良かった。勉強はまあまあの成績だったが。
(学校のクラスの皆は、どうしているんだろう。ちゃんと夏休みを楽しんでるかな。夏休みが明ければ私が退学しているから、驚くだろうな。それに、智子の死についても)
夏休み明けに事情を知らされるクラスの皆のことを考えながらベッドに寝転がっていると、極度の疲れからか微睡んでくる。訓練服だけは脱ごうと思い、微睡みから無理に体を起こした。少しふらついたが、新しい服に皺はつけたくない。寝間着に着替えると、限界だというようにベッドに倒れ込み、お風呂は明日の朝でいいかと思いながら睡魔に抗うことなく眠りについた。
その日から十夜による基礎体力訓練や体術の訓練が行われた。体術を行うには、まず基礎体力が基盤となる。体力がないことにはいくら体術がお手の物でも、いざという時に体力切れ、つまりはスタミナ切れになってしまう。ランニングはもちろん、腕立てや腹筋などといった筋力トレーニングを毎日一時間、後の時間は体術と射撃の訓練に費やした。
体術の訓練に関しては、終わる頃には体中が痛々しい痣だらけである。体を動かす度に全身を稲妻が走ったかのような鋭く激しい痛みが襲った。それでも泣き言は言わず痛みに歯を食いしばり、紡は十夜と体術の訓練に取り組む。はっきり言って、体術は体格差が何よりもものを言う。
高校生の男女では体格差が大いに違いすぎる。体格差が違うために生じるのが、手足の長さだ。




