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八月十六日、紡は咲夜と直々に話をして蝶に入る旨を伝えた。予想通りというか、咲夜の反応は芳しくなかった。それもそうだろう。十夜のようにしっかりと基礎から戦闘訓練を学んできているのであれば、咲夜としても簡単に首を縦に振ることは出来る。
だが紡は普通の女子高校生だ。今まで平和に暮らしてきた女子高校生が蝶に、しかもよりによって主力メンバーのパピヨンになりたいだなんて。無謀といえば無謀だ。しかし咲夜は紡の強い決意の前に、首を横に振ることは出来なかった。
「はぁ……分かったよ。そこまで言うなら、許可するよ。バディは十夜君だ。後、決して無茶はしないことを約束してくれるかい、紡君」
「はい、分かりました」
こうして、紡は咲夜の許可を得て正式に蝶に所属することとなったのだ。渡された黒の礼服を身に纏い、銀のカフスを袖口に着ける。上のジャケットの内側にある取り外し可能なホルダーには、リボルバーが装丁されている。
向かう先は十夜がいるという射撃練習場だ。十夜には咲夜がネルヴォイで既に連絡をしているとのことなので、急いで地下一階にある射撃練習場に向かう。
地下一階の射撃練習場では丁度十夜が射撃をしていた。ランダムに現れる的の中心を難なく撃ち抜いていく。防音壁に大きく反響する発砲音に耳を塞ぎながら、紡は十夜の元に近づいた。十夜は視界の端で紡が近づいてきたのに気付くと、射撃を終えてヘッドホンを外す。
「きたか」
そう言うや否や、彼は練習用に置かれているリボルバーを手に取ると、紡に差し出した。紡がリボルバーを手にしたのを確認した十夜は、一言、構えてみろ、とだけ言った。これはレクチャーをしてくれるという解釈でいいのだろう。紡は的に向かってとりあえず構えてみせる。
「肩に力が入っている。もう少し力を抜け」
言われて肩に入っていた力を抜いた。構えは肩の力を抜け以外はOKだったらしい。彼は何も言わずに紡の背後に回ると、リボルバーを構えた紡の手に自分の手を重ね合わせる。端から見れば、十夜に抱き締められているように見える格好に、紡は困惑した。
「ちょっと、こんな格好でするの?」
自分よりも遥かに背の高い十夜を見上げながら、さりげなく格好について指摘をしてみせたが、意外にも十夜は無表情のまま頷いた。
「……なんだ、緊張しているのか」
「当たり前でしょ。銃を握るなんてこと、普段の生活じゃそうそうないんだから」
本当はそれだけではないのだが、このことを彼に言ったところで改善される気もしない。仕方なく、このまま射撃のレクチャーを受けることにした。
「いいか。狙うのは、相手の急所の少し上だ」
構えた腕を的の中心より少し上へと向けられる。
「最初から当てろとは言わない。中心ばかりを狙って撃つと、すぐに狙いが外れる。だから本来の狙いから少しずらすだけで、当たる確率は変わる」
そこまで言うと、撃ってみせた方が早いと言わんばかりに紡の指と自分の指をトリガーに掛けて、迷うことなく引いた。銃口から物凄い勢いで銃弾が発射され、火薬の匂いが鼻につく。放った銃弾は、見事なまでに的の中心を撃ち抜いた。
銃弾が的の中心を撃ち抜いたのを見届けた十夜は紡から離れて隣に立つ。無表情は変わらずだが何も言わないところを見ると、次を指示していることくらいは分かった。要するに、自由に撃ってみろ、ということだ。
(やらなきゃ、いつまで経っても上達しないままだよね)
一つ深呼吸をすると的に向かって構えた。狙いは的の中心より少し上。よし、いける。紡はトリガーを引いた。銃弾は紡の予想した軌道を辿ーーらず、銃弾は的を大きく逸れて壁に当たる。
「あれ?」
予想とは違った軌道を辿った銃弾に首を傾げながら、もう一発撃ち込んでみるもやはり違う軌道を辿ってしまった。
「……腕。それから目を閉じてる」
軌道が逸れる原因が分からない紡に、十夜はすかさず指摘する。
「え?」
「発砲による反動で腕が持っていかれている。それから、撃つ瞬間に目を瞑っている。だから当たらない」
「分かった。ありがとう、十夜」
表情を変えることのない十夜の指摘を聞き入れ、射撃練習を続ける紡。練習のお陰か、お昼頃には完璧に中心とまではいかないが、近い位置を撃ち抜けるようになっていた。




