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現の蝶  作者: 鮎弓千景
序章
3/45

***



 外は豪雨だった。

 降り続く雨の音は大きく、雨脚が強いことが分かる。時折、空を明るくさせる雷は、明かりのついていないこの部屋を一瞬の間だけ照らし出した。


 部屋の隅に座り込んだ彼女は、轟く雷鳴に体を強張らせた。大気が震え、窓ガラスは音を立てて揺れる。


 「   」


 彼女は俯かせたままの顔を上げ、変わらず座り込んだままで何かを呟いた。その声は強くなる雨脚に、轟く雷鳴に掻き消される。


 暗闇が支配する部屋の片隅で、ただ彼女は視線だけを動かした。光のない空間に一通り目をやる。


 再び大気が震えたと思ったら、凄まじい轟音が聞こえ、数秒遅れて雷が落ちた。

 強烈な光が彼女の姿を照らすが、顔は見えず、代わりに長い黒髪と白い肌が露わになる。


 一度目の雷から間を開けず二度目の雷が落ちる。今度は彼女の顔を浮かび上がらせた。


 血色のない白い頬、形のいい唇は色を失って少し乾き、瞳は赤い。深く、濃い血のような色をした瞳。

 生きているようだが、その風貌は生きたまま死んでいるように見えた。



 しばらく経って雨音が小さくなったのを合図に、彼女はやっと腰を上げた。そうして窓辺に近づくと、開けたままだったカーテンを閉める。


 部屋の明かりをつけると、長い間暗い中にいたせいか、視界が白く染まった。光が目に染みるような感覚は苦手だ。


 目が明るさに慣れたところで、彼女は部屋を見渡した。必要最低限の物しか置いていない自室は、何とも殺風景で。


 年頃の女の子が持っているような小物もなければ、化粧道具もない。理由は簡単。“必要性を感じない”から。


 両開きのタンスの前に立つと、自動で開く。中にある服に袖を通した。

 白シャツに黒の上着、ネクタイ、黒のプリーツスカートにタイツ、ヒール。ほぼ全てが黒一色だ。


 長い黒髪をバレッタで止め、袖口に銀のカフスをつける。白い肌に黒の服はよく映えていて、切り揃えられた前髪と赤い瞳がその存在を引き立てていた。


 強い決意の面差しで机の上に置かれたホルダーを手に取り、部屋を飛び出す。ヒールが床に当たる度に、音が静かな廊下に反響した。


 「待ってて。すぐに行くから」





 ーー現の蝶ーー



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