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現の蝶  作者: 鮎弓千景
action2 過去編:西暦二〇四五年
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 《グレコール・ヨハン・メンデルは遺伝に着目した。親の性質(形質)を子は引き継いでいっていることに何らかの物質が関わっているのではないかと考えた。幾度となく研究を重ね、一八六五年ーーメンデルは遺伝は親の表れやすい性質が子に表れるとされた「優性の法則」、二つの遺伝子が一つずつ分離して子孫へと残る「分離の法則」、個別の遺伝子がどのように子に分配されるのかを表した「独立の法則」があることを見つけ出し、これらを『メンデルの法則』とした。

 この法則の発表により、誕生したのが遺伝学である》


 「人類の神秘、ね」


 そこまで読んで紡は書物を閉じた。タイトルには「偉人が発見した人類の神秘」と書かれている。今の時代にはない書物を机に置き、ベッドへ寝転んだ。外の音に耳を傾けてみる。耳に水滴が落ちる音が入ってきた。どうやら雨が降っているらしい。枕元に置いたネルヴォイへと手を伸ばした。


 二〇四五年ーー日本は科学と医療が飛躍的に進歩した。世界のトップクラスの科学国として乗り上げた日本には、多くの物が溢れ返っていた。ネルヴォイもその一種だ。


 一九七〇年代に、日本で初めてショルダーホンというものが登場した。日本における携帯電話の始まりである。そもそも携帯電話の歴史は古く、第二次世界大戦中にアメリカ兵が使用していたトランシーバーが携帯電話の起源となったのだ。


 その後、何度も開発が施されモバイルホンが誕生し、それは人々に多大な影響を与えた。こうして今日に至るまで幾年にも渡る開発を繰り返してきた携帯電話は、ついには超小型化される。


 ネルヴォイ。これが五年前に生まれた携帯電話の超小型化版である。ネルヴォイの誕生により、情報化社会は大きく成長としたといっても過言ではない。


 「何か面白いことないかな」


 大して期待もせず、ネルヴォイを左眼に装着する。目の前にいくつかのタッチパネルが表示されるが、中身を特に見ることもなく、次々と画面の端へ流していく。


 「あ……」


 一つのパネルで手を止めた。そういえば、一つだけあった。面白いというにはあまりにも不謹慎だが、奇妙な事が。


 「また被害者が出たんだ」


 記事をスクロールさせながら呟く。クローンによる連続襲撃事件。昨年の八月に初めて発覚した。当初はただの事故として取り上げられていて、事件への関与は一切無しとされていた。しかし、その日を境に次々と同様の現象が起きてしまい大きな事件となってしまった。


 「クローンだからって、差別しなくてもいいんじゃないのかな」


 ベッド上で仰向けになりながら、記事を読み進めていく。事件が起こってから今年で一年になるが、未だに解決の糸口は見つかっていないらしい。この街には、数こそ少ないがクローンがいる。理由は、政府が出した政策だった。


 『クローン生成による少子化対策』。クローン技術で子供を作るというものだ。元よりクローンは、人間以外の動物に使用されてきた技術だった。人体へのクローン技術の使用は全世界で禁止されてきたことだったのだ。

今までは、だが。


 二〇三八年、日本の少子化は重度化。超高齢化社会に突入してしまった。この事態に頭を抱えた日本政府は、クローン技術による子供の生成を政策として考案したのだ。


 もちろん当初は日本だけではなく、全世界のトップから批判を浴びた。批判の理由としては、クローン技術を人体へ使用することは、オリジナルにも周りの人間にも大いなる混乱を招くことになりかねないし、古来からの生命の倫理を覆すことになることからであった。


 しかし、ここで折れる日本政府ではなかった。政府は今の日本がどの程度まで少子化が進んでいるのか、クローン技術により少子化が改善される可能性指数がどれだけのものなのかを専門家とともに、全世界へ具体的に提示した。


 結果時間はかかってしまったが、全世界からの許可がおり、今年の春にこの政策は可決され、多くの子供がクローン技術により生み出されたのだ。


 政策の甲斐もあってか、少子化は徐々に改善されてきている。若者が増えて日本は安寧だ。誰もがそう思っただろう。クローンによる襲撃事件が起こるまでは。


 それは国民達に多大な衝撃を与え、クローン技術によって生まれた子供達は、皆白い目で見られるようになった。立派な差別の始まりだ。今更差別だなんて、馬鹿馬鹿しい。


 歴史で昔、部落差別があったことを習っている紡にとって、世間や周りの大人達が年が一回りも二回りも違う子供に対して差別をしているのが納得出来ない。否、納得したくないというのが本音だ。




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