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現の蝶  作者: 鮎弓千景
action1 現在:西暦二〇五〇年
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action1/22 忘れた記憶⑵



 ある程度歩いてきたところで、紡は壁に手をついたまま息を吐いた。本部を出てから、紡の足取りはだいぶ良くなってきたが、疲れ方は半端ではなかった。


 滴り落ちる汗を拭う。目指すのはあの場所。全てを知ることが出来るあの場所を思い浮かべて、歩く速度が上がる。


 「はぁっ……あと、もうちょっと!」


 疲れた体を支えるため、コンクリートの壁に手をついた。真っ直ぐに伸びている道の先を見据えて、自分に喝を入れる。


 残りは後三百メートルだ。途中自販機で買ったスポーツドリンクを口にする。夏真っ只中である日に、こんな格好で外を出歩けば汗だくになるのは当たり前だ。


 一応、蝶の制服は特殊素材で作られているため温度変化には対応できる。夏場には涼しく、冬場には暖かく。手の甲でもう一度汗を拭ってから、紡は目的地へ向かった。


 目の前には元々は研究所だったらしい建築物がある。周りを大小様々な建築物が囲み、その間を縫うように道がはしっている。


 建物は扇子を広げたような形をしており、屋根は緩やかなカーブを描いて、一寸のズレもなくぴったりと形に収まっているドーム状の建物。紡が向かっていたあの場所とはーー集会ホールだった。




 入口は正面の一ヶ所だけ。集会ホールはイベント時や臨時集会時にのみ使用する場所のため、本来なら今日は閉まっているはずである。頭の片隅ではそんなこと分かりきっているにも関わらず、紡は堂々と正面からの侵入を試みようと入口の前に立った。


 完全にシステムダウンしているのであれば、センサーが感知しないため入口が開くようなことはない。しかし、入口は待っていたと言わんばかりに左右に開き、紡を迎え入れた。


 「ここに……全てが」


 システムダウンしているはずのセンサーが感知したことに驚かず、一言呟いて入口から入る光を背に、明かりの落ちた闇の先をただ見つめていた。


 知りたいと思ってやって来た。その気持ちに嘘偽りはない。でも足はなかなか一歩先に踏み出そうとしない。動かない足を見やると、今さらながら震えていた。ここまで来たのに、真実を知ることが怖くなってきたのか。


 拳を作り、惨めに震えている太ももを殴る。鈍い痛みが太もも全体に広がった。痛みに顔を顰めたが、背中に負った傷と比べれば大した痛みではない。


 殴ったことによるものか、足の震えはなくなっていた。これなら行ける、前に進める。紡は今度こそ闇の先に向かった。




 集会ホールには地下へと通じる隠された階段があった。一ヶ月前のラボでの光景と似ているな、と思いつつ、ぼんやりと明かりに照らされた階段を降りて行った。そこは地下であるというのに、天から陽の光が降り注いでいるのではないかと間違うほど、明るい。

 地下に降りた紡が最初に目にした光景は、とても信じられないものだった。


 大木の周りには、おそらく研究所の名残であろう建物の瓦礫が積み重なっている。中には赤く黒ずんだ染みがついているものもあった。これらを目にした瞬間、紡の中で真っ先に浮かんだのは“今まで見てきた夢”だった。


 (間違いない……あの夢と同じ風景だ)


 隅から隅まで見渡さなくても、目の前の大木と周りに積み重なる瓦礫を見れば、それだけで充分夢の光景であることは証明されていた。紡は大木を見据えると、緩慢な足取りで根元に近づく。


 早まる鼓動と突然鳴り響くノイズ。近づけば近づくほどに、ノイズは周りの音さえ受け付けないくらい強く鳴り響く。

 やがて大木の根元に来た紡は、ゆっくりと視線を足元に移した。


 「あぁっ……!」


 瞬間、紡はその場に膝から崩れてしまう。埋まっているものと、その者の名前のプレートに、心だけではなく頭の中まで激しく揺さぶられた。


 水面の波紋が大きくなる。小舟に乗っている自分はバランスを取るどころか、平静になることさえ出来ない。生じた波紋に耐え切れず小舟が大きく傾き、紡は水面へ振り落とされた。


 その時、紡の脳内に溢れ返る水のごとく忘れていた過去が蘇ってきたのだった。




 ーーaction1【完】ーー




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