そうか、お年玉は自分でつかむもんだったんだ!
とある公募に応募しようとして、踏みとどまったお話です。
僕のばあちゃんは遠い所に住んでいる。
ちょっとおちゃめな人よね。って母さんは笑う。
夏は兄ちゃんと二人、お正月は両親も一緒にばあちゃんの田舎へ遊びに行く。
夏は広い畑で採れたて野菜やくだものを毎日食べることができる。トマトやキュウリは丸かじりしても甘くて美味しい。
いつからか兄ちゃんは早起きしてばあちゃんと畑に行くようになった。
「裕太は良く手伝いすっからあたしゃお前の大ファンだ。テレビに出てんかってばあちゃんのアイドルやで」
ばあちゃんはこけしのように目を細めにっかり笑って兄ちゃんの頭を撫でる。兄ちゃんもまんざらではなさそうだ。
お正月は手作りのおせちで迎えてくれる。そして毎年父さんから僕たちと一緒にお年玉をもらう。
「おありがとうござ~い。年一回のお楽しみだわい。んでは、これはそのおすそわけじゃ」
そうして僕と兄ちゃんに封筒を差し出すばあちゃん。封筒には名前と一緒に大きくポチ袋と書いてある。下手なお習字みたいにおっきい字だ。兄ちゃんの名前は漢字で僕のはひらがな。小学生になってもそれは変わらない。
一昨年と去年、僕は兄ちゃんの中身をこっそりのぞきこんでちょっとだけがっかりした。同じ小学生になったのに、僕のお札の枚数が一枚少ないからだ。
今年はもう期待していない。兄ちゃんは中学生になってしまったから差がもっと大きくなるのは確定だと思う。
夏休みになってすぐ、僕たち家族四人は大きな遊園地に行った。僕はお年玉貯金でばあちゃんにキャンディ缶を買った。兄ちゃんは少しお高めなヌイグルミ。兄ちゃんは野球少年になり練習ばかりで田舎へ行けなくなったから、それを持って僕だけ田舎へ行ったんだ。
「畑仕事で手が汚れていてもキャンディならお手軽に口に入れることが出来るって思ったんだ」
僕は早起きして畑へ行きばあちゃんと一緒にキャンディを食べながら土だらけになった。ばあちゃんは兄ちゃんがいなくて残念そうだったけど、畑にいると元気いっぱいになる。
「今年の颯太は裕太に負けとらん。大きくなったのう」
そういって僕をほめてくれたけど。
「でもさ、僕はいつまでたっても弟だよ。お年玉だって兄ちゃんの方が必ず多いしさっ」
僕はつい愚痴ってしまい、ばあちゃんに、
「それはしょうがないのう」
と大声で笑い飛ばされてしまった。
その年のお正月。
おばあちゃんはいつもよりたくさんのおせちを作って待っていた。そして父さんからお年玉を……やっぱり僕は兄ちゃんと同じにはなれなかった。
「あたしゃ、今年は特別なお年玉にしたよ」
ばあちゃんはそう言うと僕のお土産だったキャンディ缶をとり出した。中身は空っぽなはずなのにちょっと重たそうに両手で抱えている。中には一円玉、十円玉……五百円玉もいっぱいいっぱい……小銭がたくさん入っていた。
「一人一回だけのつかみ取りじゃ、順番はやっぱり裕太からさね」
なぁんだ、そうしたら兄ちゃんがほとんど捕っちゃうじゃないか。
缶は片手を入れるのがやっとくらいの大きさで、奥行きはあるけれど、兄ちゃんの手は僕より大きいからたくさんつかめちゃうじゃないか……。ばあちゃんのアイドルはやっぱり兄ちゃんらしい。
兄ちゃんは変な顔で僕とばあちゃんを見ていたけど、「じゃ、お先に―」と缶に手を入れてごっそりと……あれっ? あれれっ? 兄ちゃんは顔を真っ赤にして踏ん張っているんだけど手全体が入らなそうな……指先が曲がらない?
「もう、限界だぁ」
兄ちゃんは指でつまめるだけつまんだようだけど、思ったより缶の中身は残っている。
「ほれっ、今度は颯太の番じゃ」
ばあちゃんが片目をつぶってニンマリと笑っていった。
僕の手は兄ちゃんより小さくて手首まで缶の中に入っちゃって……。指先でジャラジャラとかき集めぎっしり握りしめ……思いっきり手を引き抜いた。
僕がつかんだ小銭の枚数は兄ちゃんよりずっと多くて五百円玉が何枚もあって――。
「おー、颯太、大漁じゃのぉう。よかったのぉう」
僕はそんなおちゃめなばあちゃんがやっぱり大好きだ。
(おしまい)