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死神と過ごした一週間  作者: 黒田 冬児
9/9

追記…消えた後

「あれ、ここは…」



亜子さんの前から姿を消したとき、私の意識が消えた感じがありましたが、今目を覚ますと、殺風景な壁に囲まれた一室にいました。…ここは、地獄の…


「お、目が覚めたかい。お疲れだったね?」


「…はい」


扉が開いて入ってきたのは私の上司でした。彼はテーブルの上にコーヒーカップを二つ置き、一つを私に勧めてきます


「いやぁ…随分お疲れの様だね」


「…いえ、別に。それよりも驚いてます。急に身体が透けてきて…」


私はあのとき、確かに"消える"感じがしました。なのに今は、はっきりと身体が見えています。…


「そう、そのことなんだが…とりあえず、気にしなくてもいいよ?」


「…え?」


「死神は看取りの失敗は重罪、大概は存在を消されるのさ。でも、今現在はその答えを変えてもらったから、君はここにいる」


「…なぜ、答えが変わるのです?例外は無いように思えますが…」


「…そこさ。その話をするために君が目を覚ますのを待っていたんだ」


上司はコーヒーを口に運ぶ。そして一つ、息をはいて俺に向き直った。そして穏やかな顔で語りはじめました


「死神は、とても辛い仕事だ。人の死を見届けなくてはならない。そして、僕らはどこかで看取られずに死んでしまった"元"人間なんだ。だから、死ぬ予定だった人間が死ななくなったって言うことは喜ばしいことじゃないか、と思ってね」


「…」


上司の話は少し難しかったです。ですが、その話をする上司はとても優しい目をしていました。…確かに、私たちも昔は人だったんです


「それはどうやら上の連中も同じだったようでね。さすがに君を消すのはあんまりだ、となって。…そこで、君には別の形の処分をする、ということになったのさ。やっぱり失敗したという事実はあるから」


「…それは覚悟の上です。それで…その処分と言うのは?」


私がそう聞くと、上司は再びコーヒーを飲み、カップを置いて答えました


「…君には、地上に帰ってもらう」


「…え?地上に帰る…とは」


「蘇生、と言ったら分かりやすいかな?…人生のやり直し、となるんだよ」


「…そ、それはさすがに無理があるのでは?」


…あまりに唐突な答えに、私は整理がつきません。第一、私が生き返ってしまったら親や、今の世界が…


「そこは僕らの出番さ。少し大変だけど、記憶操作は難しくないよ。だって君が上で仕事をしているとき、依頼者以外にも接点を持っているだろう?その人たちの記憶を消したり、付けたりしていただろう?それと同じようなものさ。…さすがに看取り人の記憶は消えないとは思うけど…」


「…亜子さんの事ですか?」


「そうだね。でも…これが彼女の願いなんだろうから、良いんだろうけどね」


…私は、またあの日の光の下に…そして、…亜子さんの傍に…


「…だからさ、地獄君…いや、もう達也君かな?早く準備をしたらいいよ。少ししたら、転生への扉が開くからさ、今のうちにここの世界を見ておきなよ」


「…分かりました。では、後程」


私は上司に一礼し、部屋を出ました。…



「亜子さん…約束を、果たせそうです」




「お、来たね。…ん?その格好でいいのかい?」


「ええ、この格好くらいしか、持ち合わせがありませんでしたし」


転生の扉の前に私はやって来ました。格好は私の仕事の服を選びました。…これでも、ここの生活も悪くなかったですから


「そうか。じゃ、僕から餞別をあげよう。腕を出してくれるかな?」


「?はい…」


私は言われるがままに腕を出します。すると上司は私の腕にブレスレットをつけました。…それには半月のアクセサリーがついていました


「…これは?」


「魔法の腕輪、って言ったら少し変だけど…つけていたら、君にいいことが必ず起きるよ。そのためにもう半分の月を探したらいいよ?」


魔法の腕輪…上司らしからぬもののような気がして少し笑えました


「…分かりました、頂いていきます」


「じゃ、行ってきなさい?新たな門出へと、ね」


「はい!…今までお世話になりました」


私は上司に深々と礼をして、ここを出ました。そこに残された上司の顔は、今までで一番優しかったと思います


「…やれやれ、堅い後輩を持つと苦労するね…」

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