最終日…そして
「…うそ…だぁ…」
さっきまで握れていたはずの、達哉の手。その感覚は無くなっていた。 さっきまで見えていたはずの、達哉の身体。今目の前にあるのは殺風景な病室の白い壁だった。…本当に、さっきまではそこに居たのだ。亜子が好きだった、達哉が
「…どんな、形でも、せっかく、せっかく逢えたのに…こんな、こんなたった一週間で…」
思えば、本当に奇跡な一週間だった。死んだはずの友人が死神となり、自分を迎えに来た。そしてその猶予の間、彼は本当に自分の前でいろんな事に付き合ってくれた。きっと自分が死ぬまでそうなんだろうと思っていた
「…こんなお別れって、無いよ、達哉。…申し訳ないって思うんだったら、ちゃんと最期まで一緒に居てよっ…!!」
叫ぶ、泣く。でも彼は戻っては来ない。…それでも私は泣いた
「…ふぅ、やれやれ。地獄君も随分好かれたもんだね。…そして、私も甘い上司だ。さすがは私も元人間って所かな。…さて、ちょっとばかり似合わないけど仕事をしようかな?」
月日は流れて半年後、私は退院する事が出来た。担当医からは「まさか、本当に完治するとは…本当に、よく頑張ったね」と泣きながら喜んでくれた。そして母と一緒に病院を後にした
「良かったね、亜子。お母さん嬉しいわ」
「うん、本当に良かった。…」
私は病院を見ました。…達哉はまた、新しい看取を受けているのだろうか、もしかして、あのまま消えてしまったのだろうか…
「…亜子、お母さん今日は腕によりをかけた料理を作るから、少し外を歩いてきたら?」
「うん、分かったー」
…私は少し外に出て、公園にやってきました。…ベンチに座り、ボーッとしていると、黒いスーツをまとった男の人が近づいてきました
「…榊原亜子さん、だね?」
「…え?」
「…警戒しなくても良いよ、私はちょっとした仕事をしてるもので…ちょっと、良いかな?」
「…」
彼は笑顔を作りながら私の隣に座りました。そして私の手元に何かを置きました。…半円のブレスレット…
「何ですかこれ」
「それは、君の望むものを見つけてくれる不思議なブレスレットさ。その月の半分が見つかったとき、君に幸せが訪れるんじゃないかな?…探してみなよ」
「え?何を言ってるのか分からないですけど」
「ふふ…まぁ頑張ってね」
謎を残して彼は歩いて行ってしまいました。…よく見ればこの半月、結構きれいです
「…そんなの、見つかるものじゃないよね…」
「亜子、お帰り」
「ただいま」
一週間後、私は学校に登校できるようになりました。着いてすぐに聖が迎えてくれました。…クラスメイトも温かく迎えてくれて、私は幸せです。…これも、達哉のお陰、なんだよね
「…亜子?」
「…ん?」
「…具合悪い?保健室行く?」
「だ、大丈夫だよ?」
「…んー、久し振りに学校で疲れたなー…」
下校の道中。私はゆっくりと歩きながら町中を歩きます。…人の手元に目がいってしまいます。…半月の片割れのブレスレットが見つかったら、幸せ…
「…危ないですよ」
「…きゃ!?」
そんなとき、誰かに手首を掴まれて引き戻されました。すると眼前に車が通っていきました。…危なかった…
「あ、ありが…」
私は振り返って引っ張ってくれた人にお礼を言おうとしました。…が、私の言葉はこれ以上出てきませんでした。…手首には半月のブレスレットがつけられていて、黒のスーツに身を包んだ男の人、そして…
「…あ、ぁあ…」
「…なんですか、まるで死んだ人を見るような反応ですね。…と言っても、確かに私は死んでいましたか?いやいや、失敬しました」
私に爽やかな笑顔を向けてくれている、懐かしき声の響き…
「…泣かないで下さい、亜子さん。私は…帰ってきましたよ。貴女との約束を守るために。そして、達哉として貴女の傍に居るために」
私は…溢れる涙を止められないながらに、精一杯の言葉を言いました。…幸せって、このこと…だったのでしょうか…
「………お帰り、達哉……!」
「…ただいま、亜子」