五日目…変化、目に見える形に
「…ん…」
「…あ、お目覚めですか?」
今日も亜子さんは少し遅めの起床となりました。亜子さんは目を擦りながら寝ぼけたように返事してきます
「…相変わらず寝起きに来るねー…」
「いつもと同じに来ていますよ。…さて、今日はいかがなさいますか?」
私はいつもと同じように亜子さんに希望を聞きます。すると亜子さんは近くにあった携帯を手に取り、何かをし始めました。…?
「んー…」
「…?亜子さん、一体何を…」
「…今日は普通のお出かけしたいなー?」
「普通のお出かけ、ですか?」
「うん。ご飯食べてー、遊んでー」
「…了解しました。ではお支度のほどをよろしくお願いします」
…亜子さんは何を調べていたのでしょう…?
「…うーんっ、今日もいい天気だねー?」
「そうでございますね」
「こうやって歩けるのも、達哉のお陰なんだよね?ありがとう?」
「いえ、それが私の勤めですから」
「…」
亜子さんは少し渋い顔をしました。…期待にそぐわない返答でしたか
「…今日はねー、ここ!」
「…?ここは何ですか?」
私は亜子さんとある店の前に来ました。名前は…『angel hearts』…?
「んふふー、メイドカフェだよ?」
「…冥土カフェですか?」
「なんか変な誤解してない?」
「…誘うカフェとはまた斬新ですね、死神が商売でもしているのでしょうか」
私の知ってるものの中にその様な施設はありません。亜子さんは私の返答にお腹を抱えて笑いました
「達哉、それはいくらなんでも無茶すぎるよー」
「…私の勉強不足でした」
「いやいや、達哉が知らないのも無理ないよ?だって出来たの最近らしいし」
「そうなのですか。…ここでよろしいのですか?」
「うん!入ろう!」
「仰せのままに」
亜子さんは私の手を引きながら中に入ります。どうやら機嫌も治ったようでなによりでした
「「いらっしゃいませ、お嬢様、ご主人様!!」」
「…」
「えへー、すごいでしょ?」
入ってくるなり変わった服装の女性たちに迎え入れられました。…やはり死神の装束にどこか似ています。もしや亜子さんをたぶらかし、魂を持っていくつもりでしょうか?
「…亜子さん、ここは本当に危険はございませんか?」
「何言ってるの、メイドさんたちは皆いい子だよ?」
「…とてもそうには見えませんが」
「あ、亜子じゃん!」
そんなとき、不意に後ろから声が聞こえました。振り向くとそこにはまた変わった服装の女性…亜子さんと同い年の様な子がいました
「…もしかして、聖?」
「そーそ、覚えててくれたんだね?…でも、この人誰?」
「あ…」
亜子さんは答えにくそうな顔をしていました。…それはそうでしょうね
「お初にお目にかかります、私、達哉というものです。ゆえあって今日は亜子さんの付き添いに」
「…病院の人?」
「まぁ、そんなところです」
「ふーん。…私は須藤 聖。亜子のクラスメイトだよ。よろしく」
髪は栗色で少しウェーブがかかっている、いかにも最近の女性らしい方です
「でもびっくりだよ、亜子、最近調子悪いって聞いてたからさ」
「う…まぁね。でも今日は少し調子良いから…」
「ま、病院の人もいるなら大丈夫か?ゆっくりしてって?」
「うん」
そういい須藤さんは立ち去ります。…亜子さんは一つ溜め息をついて私に向きました
「ごめんね?…さすがに死神とは言えなくて」
「…おかしいですね、私の存在に疑問を抱くとは…」
彼女の近くには死神の様な姿はありませんでした。…死神がいれば私の存在が歪に見えたりもしますが…
「とりあえず、ご飯頼もう?」
「…はい」
「お待たせしましたご主人様、お嬢様!モエモエオムライスでございます!」
「…」
待つこと数分、メイド服(亜子さんに教えて頂きました)を来た色白の子がお皿に乗ったオムライスを持ってきました。…なぜかハートマークをケチャップで書かれていました
「可愛いー!」
「気に入っていただけましたかお嬢様?」
「…」
とりあえず私はいただくことにします。スプーンを…
「あ、ご主人様?あーんしてあげますよ?」
「…え?」
すると私からスプーンを取り上げ、オムライスを一口大にすくい、私の口元に持ってきました。…私は不意に来たそれを口にいれます。…普通のオムライスですね
「どうですか?」
「…お、美味しいです」
「…ふふ」
「亜子さん?何が可笑しいんですか?」
これはおもてなしなんでしょうか?
「ふぇー…お腹一杯だねー」
「それは良かったですけど、あれはとても人をもてなしてるようには思えませんね…ジャンケンしたり、オムライスに絵を描いたり…まるでお遊びです」
「それも一つのご奉仕なの!今度私に同じことしてくれてもいーんだよ?」
「慎んでお断りします」
メイド喫茶を出た私たちは公園で少し休憩をしていました。他愛のない話を繰り返していますが、相変わらず亜子さんは上機嫌です
「…亜子さん、そういえば先程お会いした須藤様とは仲がよろしいのですか?」
「どっちかと言われればね。あまり学校行ってなかったけど、聖はそんな私も友達って言ってくれたし」
「…何故彼女は、私の存在に疑問を抱いたのでしょうか…?」
「…?気になるの?」
「それは、はい。私の存在はあくまで仮初め。ですがそれが悟られぬよう外部環境への干渉を行っているのですが…それがあの方には効いてなかったご様子で」
「んー…でも聖が変わった人なのは昔からだよ?」
亜子さんは笑いながら話しています。…そんなときでした
「…?」
こちらに一台のトラックが向かってきています。普通に車道を走っているので何も問題無いはずなのですが…何か違和感を感じます
「?どうしたの、達也」
「…亜子さん、私は死を司る者です」
「??…死神さんでしょ?」
「…こんなとき、本来なら…止めてはならないのですが…」
「…何を言ってるの達也?」
亜子さんが少し困惑した顔で私を見ています。その間にもトラックはこちらに接近しています。私たちは歩道にいて、あちらは車道。…なのに…
「…私も、存外甘い様です」
「…?」
そして…
「…!?」
トラックは急に進路を変え、歩道に乗り上げ突っ込んできました。亜子さんも気づきましたが、このままではぶつかってしまいます。それが意味するのは…死。ですが…!?
「っ!?いたっ…」
私は亜子さんを近くの植え込みに突き飛ばしました。…私はトラックの進行方向に佇む形となります。トラックは全く止まる気配も無く突っ込んできます。
「!!達也あっ!」
「…私が看取ると言う事実を変えさせはしません。亜子さんにはまだ時間があるんです。それを有意義に過ごさせるのは…私の、務め!」
私は懐から黄泉渡を取り出します。…運転手には申し訳ありませんが…
「唸れ、黄泉渡!!!」
私が振り抜いた斬撃はトラックを真っ二つにし私を避けるように過ぎていきました。亜子さんはそれを呆然と眺めています
「…うまく、いきましたか。助かりました」
「達也っ…!」
黄泉渡を仕舞うと、亜子さんが横から飛び付いてきました。顔を見ると少し涙目のようです
「…なんで、こんな無茶するの!?私、結局死ぬんなら…!」
「苦しんで死ぬことは私が許しません!!」
「っ!?」
「…あ…も、申し訳ありません」
私はとっさに顔を背けます。…私は何故、怒声をあげてしまったのでしょうか
「…怖かったよ…?」
「…そうでしょう、死とはそれほど怖いものなのです。ですが、私が看とるなら別です、私がそれを払って見せます」
「…ありがとう…」
「…ただいま戻りました」
「…お、259番か。…ずいぶんお疲れだな?」
あのあと亜子さんを病室に戻し、眠ったところで私はこちらの世界に戻ってきました。仕事場に戻るといつもの様に私の上司が待っていました
「…ええ」
「…まぁ、君がミスをするなんてらしくないからね、無理もないか」
「…ミス、ですか?」
…私は耳を疑いました。今日私は何を…
「今君の受けている、榊原亜子さ。…死に損ねたみたいじゃないか」
「死に損ねたとは…手厳しいですね。ですが後2日あるではありませんか。ここで死ぬのは違うのでは…」
そこまで言ったところで、上司は笑い出しました。…何が面白いのでしょう
「…ふふ…いや失敬、だけど結局死ぬのなら早く終わらせた方がよかったでしょう」
「クライアントが望んでいないのであれば、その障壁は取り払うべきと私は考えました」
「…そうか。…なら、君の手帳を見てみなさい」
そう言い残し、上司は去っていきました。…私は言われた通りそれを見ると、亜子さんの情報のところに信じがたい情報が乗っていました。…厳密に言えば…『情報がなくなって』いました…