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死神と過ごした一週間  作者: 黒田 冬児
5/9

4日目…忍び寄る影、惑う人影

「…おはようございます、亜子さん」


私は普段通りに亜子さんの病室へ足を運びました。…ですが、亜子さんはこちらに背を向けてこっちを向いてくれる気配がありません。…はて?


「…亜子さん?」


「…朋ちゃんが…」


「…」


どうやら、渋井さんが亡くなった事を聞いたらしいです。…こういうときはどういう顔をしたら良いんでしょう


「…達哉は、知ってたの?朋ちゃんが今日死ぬって」


「…ええ。ついていた死神から伺いました。昨夜で終わり、と」


「…なんで教えてくれないの?」


「…話してしまえば亜子さんは笑顔で送り出していただけましたか?ご友人の死を」


「…それは、無理かも」


「それに、いずれ亜子さんにも訪れるんですよ。…幕を引くときが」


「…」


亜子さんは怒っていました。…やはり黙っているべきではありませんでしたか


「…亜子さんへ、渋井さんからです。『友達になってくれてありがとう』と」


「…朋ちゃん、泣いてなかった?」


「…いえ、最期は笑顔でした」


「…」


亜子さんから怒りは消えてました。…人と言うのは、難しいですね




「…達哉」


「…はい」


それからしばらく、私は亜子さんの傍で待機していましたが、亜子さんが声をかけてきました


「…達哉の仕事って、見学できないのかな?」


「…は?」


「だから、その最期を看とるって言うの、どうやるのかを知りたいの。知っておけば怖くなくなるかなって」


「…それは難しいですね。私が仕事をする様を見せるのは構いませんが…生憎私は今他の仕事は兼務していないゆえ」


「そっかー…」


…やはり怖いのでしょうか、見せてしまえばさらに恐怖をあたえてしまいそうですが…


「なら、達哉の世界に行くことは出来ないの?」


「…私のですか?」


これは少し意外でした。…私の世界に行くと言う発想は無かったです


「…それをするとなると、亜子さんには少々危険が伴いますよ?」


「え?何で?」


「言うなれば亜子さんは仮死状態になり、魂で付いてきて頂きますが、生きた魂は死神にとっては生活の基礎となります。となればやはり狙われてしまうのです。…私から離れ、刈り取られてしまうと二度と肉体には戻れず死んでしまいます」


「…!!」


「私としては死期が早まっただけゆえさほど問題ではないですが…亜子さんはまだ、未練がありましょう?」


「…それでも行ってみたいかな。だってそんな体験、普通じゃ絶対に出来ないし」


亜子さんは心なしか楽しそうです。…覚悟もおありな様ですし…


「…分かりました。では手配を致しましょう」




「さて、では参りましょう」


「…本当にあたし、寝てるね」


それから少しして、亜子さんには一度寝ていただき、少し魔法を用いて魂を引き抜きました。亜子さんは今この状況も楽しくて仕方の無いご様子です


「…開け」


私は近くの空間に地獄への扉を呼び出し、亜子さんを促します。…さて、大冒険の始まりです


「…いつもこんなことして帰ってるの?」


「いえ。私は夜中であれば闇に紛れさえすれば帰ることは可能です。ですが亜子さんはそれが出来ませんので、今回はこの形を」


「ふーん…なんだがSFって感じだね」


「そうかもしれませんね」


亜子さんは扉をくぐり、地獄の道を歩いている道中も相変わらずでした。好奇心が抑えられないようです


「…あ、町が見えてきたね」


「我々死神が住む町でございます。…亜子さん、私の傍から離れないように」


私は亜子さんに念をおしました。すると亜子さんは私の手を握ってきました


「…亜子さん?」


「これなら迷子にもならないよ?」


「…そうですね。では、この手は離さないよう」


「はーい」




「…あれ、地獄君じゃないか?帰ってきてたの?」


「…1341番ですか。」


「しかも亜子ちゃんも一緒かー。お久し振りー」


「…どうも」


町中を歩いていると、1341番に出くわしました。彼は私たちを見るなりにやつきだしました


「あれー?仲良く手を繋いじゃって…もしかして、できちゃった?」


「違います。今回は社会見学の様なものです。亜子さんたってのご希望なのです」


「へー、魂を引き抜いたのかー。地獄君、意外と尽くすんだね」


「それが私の責務ですから」


私は少し睨むように1341番を見ると、彼は少し苦笑いを浮かべてました。…仲良くしたいのでしょうか


「亜子ちゃん、気を付けてね?まだ寿命もあるんたから」


「…ありがと」


亜子さんはあまり1341番とは話したくなさそうな感じです。やはりお友達との一件が尾を引いてるようですね


「じゃ、僕は行くよ。じゃーねー」


「…帰りましたか」


「…」


「…さて、亜子さん。参りましょうか」


「…うん」


そして私たちは町中をさらにすすんでいきます。地獄には昼がなく、常に街灯が点灯して私たちを照らしています。…ですが、どことなく今日は人影が多いような気がします


「こんなに死神っているものなの?」


「…いえ、中には迷える魂だったり、既に隠居した方だったり…」


「隠居?そんなことも出来るんだ?」


「私たちにも見た目は老化しなくても命はすり減りますから、いずれは魂を狩れなくなるんですよ」


「へー?…でもまるで渋谷みたいだね?」


「…少し変ですね、とりあえず私の家に向かいましょう」


少し気にはなりましたがこのままここにいるわけにはいかないので自分の部屋に向かう事にしました




「…なんか、質素だねー」


「あまりここにいることは無いので…」


私の部屋に着くと亜子さんは私のベッドに腰をかけながら言いました。…基本使いませんからね


「…とりあえず、少し待っていただけますか?先程の人だかり、何か気になります」


「うん、分かったー」


「冷蔵庫の中に食べられるものがあるので、食べたければ良いですよ」


「うんー」


とりあえず亜子さんを部屋に残し、私は事務所に向かいました…




「…259番です」


「…あれ?今日は早い帰還ですね」


事務所に戻ると上司が少し疲れた顔で出迎えてくれました。…嫌な予感がします


「今日は随分ヒトが彷徨いてはいませんか?」


「あぁ…どうやら今日はあるしたっぱ死神が連れてきた魂に逃げられてね。探してる最中なんだ」


…考える限り最悪のタイミングで来てしまったようです。こんなときに亜子さんがバレたら…


「出来れば君にも探してもらいたいんだが…」


「すいません。今日はもう少し仕事がございます故…」


とりあえず私は踵を返し部屋に戻りました。すると亜子さんは机にシュークリームを並べて頬張ってました


「…んぐ、お帰りー」


「…亜子さん、申し訳ありませんが今日は帰りましょう。物騒な状況です」


「…え?…そっか、なら仕方ないね?」


亜子さんはあっさり了承してもらいました。そして亜子さんの手を再び取り部屋を出た時でした。…周りを死神に取り囲まれてました


「…」


「259番。その女…生きた魂だな。なんでお前と一緒にいる」


「…」


まずいですね…どうやら亜子さんが逃げた魂と思われてるんですね…


「…達哉…? 」


亜子さんが不安そうな表情で見上げてきます。…


「259番。その女を引き渡せ。さもなくばここで消す」


死神たちは懐からナイフや銃を取り出しました。…仕方ないですね…


「…亜子さん、すいません 」


「え?何が…?」


私はとりあえず亜子さんにお詫びを入れます。そして…亜子さんを抱き抱えました


「…え!?」


「…貴方達の相手は出来ません。その魂はこのお方とは違いますゆえ」


「…だとしてもだ。うまそうな魂なら渡してほしいさ」


「いいえ、それは断固受け入れかねます。…ですから、ここは失礼…っ!」


「!?」


私は亜子さんを抱き抱えたまま大地を蹴り死神たちの頭を飛び越えました。そして着地してすぐに走り出します。…扉までは何とか追い付かれずに行きたいものですね


「た、達哉っ…!?」


「申し訳ありません亜子さん。何としてでも現世に送りますから!」


「そ、それは良いけどっ…重くない!?」


「いえ、むしろ軽すぎるくらいですよ!…っと 」


足元に銃弾が飛んできました。…むやみに狙っても当たらないでしょうに、手慣れが居ないのはありがたいですが


「…達哉っ…!」


亜子さんは私の胸に顔を埋めて震えています。…


「…さぁっ!」


そして何分か走り続けて、扉に辿り着きました。とりあえず亜子さんを降ろし…


「亜子さん、とりあえず中へ。さすれば身体に戻れます」


「…う、うん」


亜子さんは扉を空け急いで中に入っていきました。…本来ならこのままでも宜しいんですが…追ってきたら面倒です。私はネクタイを少し緩め、背中から刀…『黄泉渡』を抜きます


「…259!!何故逃がした!?もしやお前が…」


「その通りです。お客様のご要望にお応えしたのですよ」


「…紛らわしい。それにそうだとしてもこうなる可能性はあったんだ。…無駄な労力使わされた責任、とってもらわないとな?」


「…こんなお見苦しい場所、亜子さんには見せられませんね。…少し狩らせていただきますよ、お仕事を邪魔された…報いです」




「…ん…?」


「お帰りなさいませ、亜子さん」


「…え、達哉?」


時刻はもう夕方、亜子さんはようやく目を覚ましました。…少し戻るのに時間がかかってしまったようですね


「あれ?でもわたしの方が先に…」


「私は実体は本来ありませんから、当然戻ってくるのも早いんですよ」


亜子さんは困惑の表情で私を見てます。…ふふ…


「それより達哉、その怪我…」


「はは…やはり私はあまり喧嘩は得意ではありませんね」


他の死神との戦いは…亜子さんにはどうなったかは言えませんが、返り血などを浴びてしまったのであちこち傷を負ってしまってました


「…喧嘩…ごめんね?あたしが見に行きたいって言ったから…」


「いえいえ、これも私が迂闊だったゆえですよ。…これからどうされます?」


私は顔についてる血を拭いながら亜子さんに聞きます。すると亜子さんは少し驚いた後に、笑って答えてくれました


「…お話ししよ?少しだけだったけど、色々気になることがあったからさ?」


「はい、喜んで」




残り3日

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