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死神と過ごした一週間  作者: 黒田 冬児
4/9

3日目…私たちの仕事

「…」


3日目。今日も朝早くから私は亜子さんの病室にやってきました。亜子さんは今日はもう起きていました


「あら、起きていましたか」


「二回続けて寝ぼけてたからね。毎回寝顔を見られてたまるかー!」


「…殊勝な心がけてございます。…では、今日はいかが致しましょう」


「今日は…むー、…どうしよっかなぁ…」


亜子さんは少し悩んで…やがて口を開いた


「今日は病院で過ごさない?」


「…左様ですか?」


これは意外でした。病院…ですか


「…分かりました。ではそのようにいたしましょう」


「なら早速、行きたいところがあるんだけど」




「…お久し振り、元気?」


「…あ、亜子ちゃん…戻ってきてたんだ…」


やって来たのは別の病室でした。そこで亜子さんは病院で出来たお友達の所にやってきました


「うん、戻ってきてたんだよ、朋ちゃん」


彼女の名は渋井(しぶい) (とも)。この子もどうやらは病院生活がながいらしい。そして…


「…地獄君じゃないか、しばらくだね」


「…私には心当たりはありませんが」


「死神界屈指のイケメン、1341番だよ」


彼女にも死神がついていました。彼は医者のような格好で朋さんに付き添っていました。…


「亜子さん、私は少し彼と席を外させていただけますか?」


「え?…あ、あの人…知り合いなの?」


「えぇ。それに亜子さんも久方ぶりのご友人との再会なれば、私たちはお邪魔でしょう」


「別に邪魔じゃないけど…分かったよ?」


「ありがとうございます」


そう伝え、1341番と外に出ました


「…貴方、居たんですか」


「そうだよ、気付かないとは驚きだなぁ」


「業務中ですから、気付かないですよ。特に貴方の様な人はね」


1341番は前から人間界に入り浸っているせいで見ない死神だ。だが彼が看取った人間は皆満足そうに死ぬことから評価は高い。私とは別のジャンルで評価されている


「手厳しいな、地獄君。さすが"看取り屋"のエースだ」


「うるさいですよ」


「それにしても意外だね、その地獄君とあろう人が若い女性に憑くなんてね」


「これも仕事ですから」


彼の言う通り、私は基本末期の男性患者ばかりでした。だがこれに関しては上からの指示なので仕方がありません


「で、地獄君?君のお客様は後どれくらいなんだい?」


「…4日です」


亜子さんは今日が3日目です。まだまだ先は長そうですが…


「そっかぁ、じゃあ、これから増えてくるな、ワガママが」


「…そうでしょうね。まぁ無理じゃない範囲で希望してますが…」


「それに比べりゃあうちの客はあんまり希望がなくてね、お陰で暇だよー?」


「…その、渋井さんの残りは?」


聞かれたので今度は聞き返しました。すると、1341番は笑いながらこう答えました




「今日が最後。明日の朝に"最期"だよ」




「…っ!?」


…残り一日。となると、渋井さんが最期に望んだのは…


「…渋井さんは、貴方に友との再会を望みましたか?」


「うん。彼女も病院暮らしが長くて、ほとんど外に友達は居なかったんだって。でもこの病院で亜子って子と仲良くなれたから、最後にもう一回会いたいってね」


「…」


これは偶然ではなく、仕組まれた当然でした。でも…亜子さんがそれを知ったら、どうでしょう?…血の気が引きました


「…貴方は、私が居るのを知って…」


「いや。だからこそこうなっては不味いよなって僕も思ってるよ。先に逝くこっちはともかく…」


死を拒絶されると私たちは職務失敗となり罰が課せられます。様々な刑がありますが、最悪は存在を消されてしまうこともあるそうで…


「…今日はこのことを、絶対に亜子さんに伝えないでください。いいですね」


「そりゃそうだ。伝えても僕にも得はない」


私は1341番に口止めをして戻ることにしました。…亜子さんは、この現実を受け止められましょうか…




「…あ、お帰り達哉。話は済んだの?」


「ええ。実に久し振りに同職に出会えましたので…話がふくらみました」


「…でもその人はいないみたいだけど」


気づけば私だけ戻ってきていました。なんでも「僕はあまりなつかれてないからね」だそうで、主の元をよく離れるそうです


「彼はもう少し、と。渋井さんはよろしかったのですか?」


「…はい、彼は前からそうでしたから」


渋井さんは少し苦笑していました。彼の言う通り好かれてはいないようです


「…なんの話をしていたのですか?」


「ん?達哉には分からない、女の子の話だよ?」


「左様ですか、でしたら私はお話の邪魔に…」


そこまで言って再び離れようとしたとき、


「…あの」


渋井さんに声をかけられました。…見ると、少し言いにくそうに話してきました


「…お昼、一緒に食べても良いですか?普段は…一人、ですから…」


「?…別に構いませんよ。亜子さんもそれでよろしいですか?」


「うん、普段はうるさいけど、達哉がいればだいじょうぶだよね」


「…よかった」


渋井さんはほっとしたような顔をしていました。…1341番は、そういう根回しをしてないのでしょうか?確かに力を使っている形跡は…


「…いつもは、十六夜さんが見守ってくれて…でも一緒には食べてくれなくて…」


「それは…食べにくいね」


「でも、出てくるご飯が十六夜さんが来てから美味しくなりました。真っ白で何も無いこのお部屋に…一緒にいてくれる人がいるだけで…」


渋井さんは薄く笑みを浮かべていました。…干渉しないのもまた優しさ、なんでしょうか。余生を気兼ねなく過ごさせる為に…


「でも私はやっぱり一緒に食べてくれた方が嬉しいかな?達哉は絶対一緒に食べてくれるんだよ?」


そこで亜子さんは自慢するように渋井さんに伝えました。…私のやり方で、亜子さんは良いようですね


「…死神さんは…好き嫌い無いんですか?」


「え?…どうでしょうか。生前の記憶はありませんゆえ」


「…あの死神さんとは違いますね」


「…」


死神によって生前の記憶がある人がいると聞いたことがあります。…ですが、そんなもの必要なんでしょうか


「…あの人は、昔からトマトが駄目だって言ってました。だから私のご飯にもトマトが出たことはありません 」


「朋ちゃんもトマト嫌い?」


「いえ、ですけどあの人が嫌いなら無くてもいいかなって思いますよ」


「…好き嫌いは駄目だよね、達哉?」


「そうでございますね」


そして、時間は流れて太陽が沈んだ頃…


「…じゃあ、私、これから検診だから」


「そうなんだ、じゃあ、またねー?」


「お邪魔しました」


とりあえず私は亜子さんの車イスを押して病室を出ました。…これが、渋井さんとの最期の時…


「…達哉?どしたの?」


「…いえ、何でもありません。さぁ、帰りますよ。あまり遅いとお身体に障りますから」


「はーい」




「…はーい、朋ちゃん。友達は帰ったのかい?」


「…あ、十六夜さん」


「どうだい?最期のお話は?楽しかった?」


「…うん。ありがとうね。引き合わせてくれて」


「なぁに、朋ちゃんが望むことはちゃんと叶えるって言ったでしょ?」


「…もう、心残りはないよ」


「…そうか」




「…ふぁぁ…」


「お疲れですか?なんならお休みになっては…」


亜子さんの病室に戻ってきてから少し亜子さんと談笑していると時間は日付が変わる手前になっていました。とりあえず亜子さんに毛布をお掛けして寝かしつけました。…普段ならそのまま地獄に帰ろうかなと思う所ですが…ハットを被って病室を出ました。…行く場所が、あります




「…1341番、渋井さん。お邪魔します」


「…おう」


「…」


渋井さんの病室に足を運びました。そこには短刀を構えた1341番と、暗がりで分かりませんが真っ白な渋井さんがいました。…声に力が無いところを見ると、かなり弱っているようでした


「…私も立ち合わせていただきます」


「へぇ…いいんじゃない?朋ちゃんはいいかい?」


「…」


渋井さんは何も答えませんでしたが、1341番は続けました


「じゃあ…渋井朋、貴女の命、今日これまで」


「…はい。ありがとうございました。今日まで1週間、短かったけど、楽しかったです」


「…渋井さん、亜子さんへ最期にお言葉を伝えましょう。…何かございますか」


私がそう聞くと、渋井さんは月夜の光に照らされながら、笑顔で答えました


「楽しかったよ、すごく。…友達になってくれて、ありがとう」


「…つつがなくお伝えいたします。では…"幕"を」


「…お休みなさい、朋ちゃん」


そして…1341番の持つ短刀が渋井さんの心臓部に刺されました。…肉体には傷つけず、寿命を終わらせるために


「……」


刺された短刀は消え、そこには横になった渋井さんが残りました。…もう、二度と動かない渋井さんが…




残り4日

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