2日目…変化する日々
「…おはようございます」
「…おはよー…朝早いね…」
「時間は有限です故。…こう見えても大分遠慮したんですよ」
午前8時、私は亜子さんの元にやってきました。…2日目ですが、亜子さんに変わった様子はありません
「今日は如何致しましょう?」
「…ふわぁ…。とりあえず…病院からは出たいかな…」
「外出ですか。では今回は前回より遠出を致しましょうか?」
私はとりあえずの案を提示してみた。やはり病院は彼女にとっては良い場所では無いようです
「…遊園地に行きたいな」
「遊園地、ですか?なら手配を…」
「でも、わたしは車椅子だからなー…」
そう言われればそうでした。…困りましたね
「アトラクションをご所望であれば…私に考えがございます」
「考え?」
「動物園なんて、如何ですか?」
「うわぁー…本当に動物園だー」
「伊達に看取って来ていませんから、ここら辺の土地勘も少なからず身に付くんですよ」
私と亜子さんは動物園にやって来ました。あまり遠出が出来ないので小さい動物園に来ましたが、亜子さんはお気に召していただけているようです
「猿に熊にキリンに…こんなところあったんだねー」
「さらに、こう言うところは観覧車とかがあったりもするんですよ」
「だからあえてここにしたんだね?」
「亜子さんは外界との触れ合いが少なかったと私は思います故の選択です。お気に召していただけますか?」
「外界って…そんな大袈裟なものじゃないでしょ?」
亜子さんは肩をすくめて見せました。…本当に彼女は明るいですね
「まぁ、来たことは確かに無いけどねー」
「それでは、参りましょうか」
私は亜子さんの車イスを押して進みだしました。まずはよくあるキリン、象などの大型動物のコーナーです。意外とお客様との距離が近いのが売りだそうで…キリンがこちらに顔を倒してきてます
「うわー…近いねー?」
「そうでござ…うぷっ!?」
「顔舐められてるー」
「…つ、次に参りましょう」
次は象です。この子もまた随分人懐こい子で近くに来ました
「この子も寄ってきたねー」
「ぶふぁっ!?」
「水かけられてるー」
「…わ、私が何をしたというのですか…」
「あっはははー」
「…次に参りましょうか」
そして色々見て回り、最後を飾るのはここの目玉、羊パークです。白いモコモコが所狭しといます。亜子さんは…
「…入っていいのかな?」
「どうぞ。それが目玉とのことですので」
亜子さんの車イスを柵の中へ通す。そして私は一旦柵の外に出ました。それを見た亜子さんは不安そうな顔をしました
「ち、ちょっと達哉?」
「ちゃんとここにいますよ?…私がいるとその子達が寄ってきません。なので、ね?」
「う、うん…。ほ、ほーら、羊さーん?」
亜子さんが呼び掛けると、それを理解してか羊たちが集まり出しました。亜古さんを興味津々に見ています。それを一匹一匹、怖がりながら触っています
「ふわふわ…可愛いねー」
「…」
笑顔がお昼の陽射しを浴びて輝いていました。…連れてきて良かったです
「…ごちそうさまでした!」
「お粗末様でした。お口に合いましたか?」
「うん!おいしかったよ?」
お昼は近くにあった休憩所で取り寄せた軽食を頂きました。さて…これからは動物園に隣接する遊園地に向かう事になっています。亜子さんの体力が心配ですが…だいじょうぶそうですね
「では、いきましょうか」
「うん。レッツゴー!」
亜子さんの言葉に合わせて車イスを押します。さすが平日だけあって遊園地にほとんど人はいません。貸し切りの様な状態です。…亜子さんの身体を考えれば好都合ですね
「それでは亜子さん、何か興味があるものはございますか?」
「んー…あれかな?」
指を指した先にはメリーゴーランドがありました。中々可愛いチョイスです
「分かりました。では…」
とりあえずそこまで向かいます。そして施設の中に入って…
「達哉?」
「…二人でお願いします」
私は係員の方に二人と提示して進みます。そして馬の乗り物に…
「…え?」
「失礼いたしますよ」
「…ひゃあっ!?」
とりあえず亜子さんを抱き抱え、馬にのせます。その後ろに私が乗って、亜子さんが落ちないように押さえました
「た、達哉?私、重くなかった?」
「何を仰いますか。亜子さんは軽かったですよ。…ほら、動き出しますよ」
「…う、うん」
するとゆっくりと機械が回りだしました。亜子さんは顔を俯かせて、何やら恥ずかしがっている様子。…一緒に乗るべきでは無かったのでしょうかね
「…申し訳ありません、亜子さんを困らせるつもりは無かったのですが」
「べ、別に困ってないよ?それより、次はあれが良いかな?」
「…ミラーハウスですか?」
それは普通の遊園地には無い、園長の遊び心らしいです。亜子さんはそこがいいと言うので私も付き添います。施設の中にはいるとそこは一面が鏡で道が作られていて、不思議な光景が続いていました
「…でも、達哉はここには映らないんだね」
「え?あ、はい。私が見えるのは亜子さんと私の力が及んでいる人故…」
そう言うと、亜子さんの表情が曇ってしまいました。…何かまずいことでもしてしまったでしょうか
「…亜子さん?」
「達哉は、私には見えてるし、触れるし。こんな鏡に映らなくても、私の近くに達哉がいるの」
「は、はぁ…?」
「…出よう、達哉」
「…かしこまりました」
「最後はこれ、観覧車だね」
「そうですね。乗せるのに苦労いたしましたが…」
「だ、だってまた急にお姫様だっこするから…」
「でもそうしなければ乗れないじゃありませんか」
「それは…。…いいや、とりあえず乗れてるし」
私たちは今、観覧車の中です。亜子さんは私の対面に座ってました。当然車イスは無いのでその場からは動けません。…どうやらそれが落ち着かない様でしきりに足を振っていました
「ここからは町が一望できるんですね、夕日が射し込んで紅く照らされてますよ、亜子さん」
「上から見たらこんな場所に、あたしは住んでるんだね」
「そうですね。…良い景色ですか?」
「そうだねー。前の私なら絶対に見れない景色だよ」
「そうですね」
「…~♪」
亜子さんは景色を眺めています。というより…目に焼き付けているようでした。そして観覧車は一周し、地上にもどってきました
「…大分暗くなりましたね」
「そうだねー。…お腹もすいたし、帰ろっか?」
「そうですね。では行きましょうか」
こうして二日目が終わりました。…これが本当に亜子さんが望んだものか分かりませんが、この人の笑顔で、何かが得られてる気がします
「…259番、帰参しました」
死神たちが集う世界、亜子さんが眠るのを見届けると私は帰ってきました。今日の報告をしなければならないからです。私の前にはガッチリしてるが気の優しい私の上司がいます
「ご苦労様。今時の女子の相手は大変ではないかな?」
「いえ。むしろ榊原様には勉強させていただいています。…友との楽しい一時と言うのでしょうか…」
「ははっ、死神らしくないな、地獄君。君ほど無情に死を看取ってきた者は居ないと思ってたのに」
「…そうでしょうか」
「気を悪くしないでな?むしろそういうのは歓迎さ。死神は悪、敵というイメージは魂を簡単に回収できなくなる要因になるからね。君も変わるといいよ」
「…そうですか」
「とりあえず、今日もご苦労様。明日も頑張ってね」
「はい」
そうして報告を終え、部屋を出た。…私が、変わった…ですか…