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作者: windy cristal

こんな夢をみた。

 大雪だった。黒い厚手のフェルト地のコートを着て、吹雪の中を歩いていた。家へ帰る途中なのだろう、前をみると、いつもの風景が白いまだらにつぶされて、見慣れた山がぼんやりと黒い塊にみえた。帰る家はそこのふもとにあるから、坂を上らねばならない。畦道は降り積もる雪で、坂道と田畑の境目をあいまいになっていた。一歩踏み外せば、白い底なし沼に落ちてしまいそうだ。

 そのまだらの道を、四、五人が一列になって歩き、自分を追い越した。自分と同じ学校に通っている人だというのは、着ている制服としょっている鞄で分かった。彼らはコートを着ていないどころか、傘をさしていない。こんな吹雪の中なのに、彼らの服は白くなっていなかった。それに対し、自分のコートは既に雪で白くおおわれていた。手で払っても、すぐに雪が積もってしまう。自分の存在に気づくことなく、一列に並んだ彼らの姿は、いつの間にか吹雪の中に消えていった。

 自分は傘を持っていなかったから、フードをかぶっていた。前を見ようとしても、たたきつけるような吹雪で足元しか見えない。遠近感がつかめず一歩一歩確かめながら進むしかなかった。雪を踏みしめた感触が長靴を介して、冷たさでしびれる足裏に伝わった。背中にしょったかばんの重みもあってか、膝あたりまで沈みこんでしまった。足を引き抜こうとしてもう一方の足に体重をかける。

 ずず、とさらに深みにはまって太ももの中間までしずんでしまった。ここまでくると雪の中を、濡れること必至で進まねばならない。立ち止まりたかったけれど、これ以上立ち止まったら、きっと吹きつける雪に覆われて動けなくなってしまうだろうと焦った。早く帰りたい。温かい家の中で、柔らかい布団にくるまっていたい。

 しかし、今は柔らかくても冷たい雪の中だった。踏みしめれば固くなり、溶けて重くなる。なかなか足は動かない。坂道はだらだらと続く。きっと、まだ半分も上っていないだろう。後ろを振り返ろうとしたけれど、怖くてできない。先程まで感じなかった背中のかばんが、歩みを進めようとするたびに重くなっていくような気がした。

 ぼた雪に自分の頬を殴られる。雪はすぐに溶けるが、同時に自分の体温も奪ってゆく。頬がひきつって痛い。目を開いても、風景は白いまだらがあるだけ。フードで耳を隠しているからか、吹雪の音は聞こえない。自分の足音も聞こえない。しかし耳全体が切れそうに痛い。

 一歩一歩が進まない。進んでいるのか、それともその場で踏みとどまっているのか、それも分からない。分厚いフェルト地のコートが、黒から白に染められていく。自分と風景との境が見えなくなってしまいそうだった。必死に前へ進もうとしてあがこうとも、一色に塗りつぶされる力には及ばないようだった。この世界に異色は許さぬといわんばかりに、白いまだらが自分めがけて吹雪いてくる。

 そういえば、先程の一列の集団はなぜ何事も無かったかのように歩けたのだろうか。コートも着ていなかったのに、雪の嵐の中を平然と歩いていたあの集団。真っ白になっていく心の中でふと、それが鮮やかな色彩を持って浮かび上がった。自分がせっぱつまっているときになぜか、他人のことを心配してしまう感情も。不思議だと思った瞬間、その色彩が急に不気味に思えてきた。その色が心を塗りつぶそうとして広がってゆくのを防ぐために、笑いたくなった。けれど頬は凍えてしまったかのように、思うように動かせない。

 道を外れたのか、そもそも道などあったからすら分からない。曲がった覚えはないけれど、白く塗りつぶされた塊が、自分を吹雪の向こうで嘲笑ったような気がした。


中学校のころ、実際に体験したこと。どうして豪雪時に帰宅命令出すんだろうって昔は思ってました。そして、人は、なぜ予期せぬ時に笑ってしまうのでしょうか。そして周りがそれを笑っているように思えるのはどうしてでしょうか。

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