第七説 むせる火炎、交わり合う戦い
前回のORIGIN LEGENDは。
愛、それがなんたるかを語るゴモリー。愛、それがなんたるかを理解できないレイガ。愛は最大の武器であり弱点。それを突破し、ゴモリーを倒したのであった。
ゴモリーとの戦いから数日が過ぎた。レイズはしばらく何もせず、あの目のまま過ごしている。自分の道を再確認するにはこれが良いらしい。一つ思ったことは、魔族は本当に敵なのかどうかである。サラは操られ、オーガは意識がなく、ゴモリーは自らその血に染めた。しかし、これまで戦ってきたのは改造された人間だ。サラも言っていたが、魔族の中にも戦いを好まない者もいることだ。ならば魔族全てが敵ではなく、魔王さえ倒せばいいのではないか、という考えに至っている。
「まあ、この考えが妥当だな」
「……魔族称号…………」
しかし、魔王に辿り着く前に必ず魔族称号を持つ者が邪魔をするだろう。
「そんときゃ叩くだけだ。俺たちに敵なんていねえ」
「それもそうね。……で、情報を持ってきたわ」
この数日の間、サラは魔族の情報屋から仕入れていた。主に魔族称号に関することだ。魔王の情報を得ることは難しい。
「おう、サンキュー」
「整理するわね。まず、魔族称号の数は十。世界中に伝わっている御伽噺から名前が来ている。オーガ、ゴモリー、ここまでは戦ったわね。そして私はリリス。次にイフリート、ティアマト、バハムート、シパクナー、アポピス、ベルゼブブ、そしてサタン」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。何? それが十の称号か?」
「ええ」
レイガはあることに疑問を抱いていた。
「サタン……」
「ん? どうかしたのレイガ」
「サタン?」
「昔……」
サタンは、確か魔王に使われる名だ。昔読んだことがある。
「なるほど、確かにそうだな。サラ、なんでサタンは魔族称号の一つなんだ?」
「わからない……魔王そのものじゃないの?」
いや、と否定してレイズは続ける。
「魔族称号は、改造人間に与えられる称号なんだろ?」
「確かに、その通りだわ。現に私もそう」
「……考えられることは二つだな。魔王そのものが改造人間なのか、または魔王クラスの改造人間がいるということ、だな」
「後者……」
もし後者であれば、魔王と同時に相手せねばならんというわけか……できるならば前者であってもらいたいものだな。
「そうだな……後者ならそいつは魔王と一緒にいるはずだ。言い換えれば影武者のようなもの、か」
「それに魔族称号は十が十というわけではないから、サタンがいっぱいいたら絶望的だね」
「ああ……。でも、それでも俺はぶっ倒す! まずは残る魔族称号をぶっ潰す! どうせ邪魔されるくらいならその前になァ!」
と、意気込むレイズだった。二人も頷く。そう、魔王への道はこれしかないのだ。
「そうと決まれば魔界へ行こう。時間はな……なんだァ⁉︎」
突然、家が燃えはじめた。急いで外に出ると、村中が燃えている。
「何が起きているの⁉︎」
「くそっ!」
燃え広がらないように水属性最高峰のクリスタルを放つ。
「うげっまじかよ」
火は氷漬けにならず、広がる一方だ。ならば、と言い更にその上を編み出すレイズ。
「ブレイブクリスタルだ!」
本来、天地の勇者の魔術は技名の前にアルティメットが入っている。これは略されているので本当はアルティメットブレイブクリスタルである。非常に長い名前だ。究極勇敢結晶だと格好悪いとレイズは考えているのでこのままやっている。彼の考えはよくわからない。
「よしっ! これならどうだ!」
ブレイブの範囲は村全体を覆った。
「奇麗……」
火の氷、か。奇麗だな。
「んな悠長なこと言ってらねえけどな。来るぜ」
彼らの目の前に四メートルくらいの男がドシンと大きな音を立て、降りてきた。
「フシュゥゥゥ……やるな、お前」
「何者だ、と聞きたいところだが大体わかってるぜ。炎使いってこたぁイフリートだ」
「ほぅ、どこから情報を得たかは知らないがその通りだ。俺の名前はイフリート。よろしく頼む」
「頼まれねえよ。村を無茶苦茶にしやがって」
「……俺は裏切り者の村を焼いただけだ。次は裏切り者そのものを殺す」
サラはそれを聞きレイガの後ろにさっと隠れた。
「サ……リリスのことか」
「いかにも。その裏切り者が情報を提供しているのであれば、早く殺さないといけないからなァ」
「へぇ、そうかい。じゃあ俺たちは狙ってないのか?」
「俺の任務外だ」
「そいつはどうも」
レイズはサラを水の縄で縛り、突き出した。
「ちょっ、えっ、嘘でしょ⁉︎」
「そいつがリリスだ。俺たちは見逃してもらうぜ」
「確かに、見逃してやろう」
「誰が裏切り者よ! 人でなし!」
突然のレイズの行動に混乱するサラ。
「助けて! レイガ!」
レイガは何一つ言わなかった。
「やだ……」
二人はイフリートを過ぎ去り、後にした。
「ヤァァァァッッ‼︎‼︎」
「死ぬがいい」
イフリートが大きく息を吸い、火炎を吐く瞬間。
「ガボッ⁉︎」
首が捻り、あらぬ方向に火炎は飛んで行った。
「えっ……?」
目を閉じていたリリスは状況を理解していない。
「ぃよぉ、さっきぶりだなぁ」
レイズが蹴っていたのだ。
「お前……!」
「敵を騙すにはまず味方ってね。基本的な戦法だろ?」
「私……理解……」
私は始めから理解していた。サラは阿呆故に気付かなかったようではあるが。
「ひ、ひどい! 最低!」
「だけど、これで俺達を信じられるだろ? お前は裏切るけど俺は裏切らない」
「なっ……そんな無茶苦茶理論聞いたことないわよ! あと私は人間なんだから魔族の裏切り者でもなんでもないわ!」
「カッカッ。まあそう怒るなって。それとさっきの悲鳴、可愛かったぞ」
「趣味悪いわ!」
「お前ら……俺をおいて何をくっちゃべっている……」
「おおっと、怒らせてしまったかな〜?」
遠くを見渡すようにイフリートを見下す。
「お前、ふざけているのか!」
これもレイズの策略だった。これまで大物のように話していた者全てを小物にさせる、また同時に怒りで思考を巡らせないようにしているのだ。これを愚行戦術と彼は呼んでいる。
「へっ、俺は大真面目だぜ。むしろこれが俺の本領発揮ってやつよ! 更に更にィ! 出血大サービスだァ! 未来永劫伝説の神々を祀られし器ァ! 真たるは勇者ァ! 冒すは天地ィ!此処に顕現せよ! 伝説神ンンッ! 神格化ァッ‼︎」
神格化すると急激に態度が変わり、あの目となる。
「調子乗りすぎじゃ……。⁉︎」
サラもようやく察した。
「お喋りは終わりだ……行くぞ」
「ようやく五月蝿いのが終わったか。俺を怒らせたことを後悔するがいい!」
イフリートは身体中を爆発させ、周囲一面を吹き飛ばす。
「村が……」
「力比べか。いいだろう。フンッ!」
力の限り地面に拳を打つ。するとバックリと地面が割れ、温水が噴き出す。
「まあ、ざっとこんなものだろ」
「それがどうした!」
突っ込んでくるイフリートだったが、レイズは不敵に笑った。
「そろそろお前も気付くべきだぜ。俺のやること一々が作戦だってな」
「まさかっ……」
温水はイフリートに絡みつく。
「ガッ!」
「俺は水使いなんでね、水は自由に扱える。無から水も作れるけど、精神に負担が掛かるしな。こうやって楽させてもらうのさ」
「なめるなァ!」
なんとか振り払うが、また絡みついてくる。
「おいおい、水はそんなんじゃ消えないぜ?」
「グゥゥゥ! かき消してやる!」
沸点まで持って行き、蒸発させる。それが成功するとレイズに殴りかかった。
「ガハッ!」
レイズは笑いながら地面に伏す。
「父!」
「大丈夫⁉︎」
脚でレイズを潰そうとするが、相変わらずレイズは笑ったままだ。
「何がおかしい!」
「……あんまりお前がバカすぎてな。ちったあ頭使え。たとえば、伏せるとかさ」
「何ッ⁉︎ グァッ‼︎」
後ろから氷の柱がイフリートを突き刺す。
「どうやって……!」
「蒸発させただけじゃ意味ねえよ。氷点にすりゃあ氷になる。言っただろ、自由に扱えるって。もしかして、蒸発させたのは自分の力だと思っていたのか? 俺が沸点に持ち込んだだけだよ。それと、その汚い足をどけな」
たまらない激痛により、イフリートはふらふらとよろける。
「やれやれ、魔族称号はバカしかいないのか」
残っていた水で汚れを洗い、即座に乾かす。
「こういう使い方もできる」
「ま、待て」
「待たない。俺は三流じゃない!」
持っていた火成岩を投げつけ、マグマに戻す。
「ブレイブ……ブレイズ……うんうん、なんかいい感じだ」
と、意味のわからないことを言っているレイズだが、すぐに意味がわかる。
「ブレイズクリスタル」
次に発動した魔術はマグマをクリスタルにすることだった。
「ただ火成岩投げつけるだけじゃダメージは見込みそうにないんでね。肥大化させ、更に、お前の弱点となる水属性を付加させたわけさ」
「ガァァァ!!!」
全て貫き、動きすら封じたのであった。
「ゥゥゥゥ……」
唸り声を上げ、意気消沈したイフリート。レイズは油断していなかった。
「……来いよ、本体。わかってんだよ」
「やはり…………」
ドロリとイフリートは溶け、そこから真っ赤な小さなモノが現れた。
「まだ子どもだったか」
「危険……」
あの男、危険。表面温度が太陽に近い。
「おいおい、まじかよ。良く体が保てているな」
「俺の体を見たことを後悔するんだな」
「そいつはどうも」
と言いつつ氷の剣を何本も作り出す。そして投げつけると届く前に消滅した。そして大爆発を起こす。
「なっ⁉︎ あいつ蒸発させただけじゃない⁉︎」
それだけではなかった。水素丸ごとを破壊したのである。
「嘘だろ?」
「いや、破壊した。素粒子レベルにな」
「さすがにそっからは再構成できない……はっ! やばいぞレイガ!」
「……!」
「気付いても遅い!」
光速で近付き、腹に拳を当てる。
「ガァァァァァッッッ‼︎‼︎‼︎」
「レイズ!」
腹は穴が空き、血は消し飛ぶ。
「焼け……る……」
絶体絶命だった。素粒子レベルに分解されてはレイズの言った通り再構成ができないのだ。故に回復が不可能。
「死ね」
核はもぎ取られ、分解されていく。
「鳳凰神、神格化! 父をよくも!」
咄嗟に神格化したレイガ。太陽の熱を帯びた彼だったが、無駄に終わる。
「ガハッ……何故……」
いつの間にか後ろにいたイフリートに光の槍で刺されていた。
「何故、太陽の力が効かない……」
「太陽などというちっぽけな恒星に頼っているなんてな……」
ズガッと抜き取られ、核もまた破壊される。
「嘘、でしょ……」
「お前達はこれで終わりだ。魔王に近づくことなどあり得ない。勇者? 笑わせる。ただの器に用はない。ここまで全て遊んでやっていたことに気づかなかったとは、愚か者だな」
あまりに呆気なさすぎた。命とは一瞬で尽きる物などだと嫌でもわからされる瞬間であった。
「これにて任務「完了」……⁉︎」
声が重なる。イフリートは辺りを見回すが、サラ以外誰もいない。しかし、サラの声ではなかった。では誰だというのだ。
「お探し物ならここにございますぜ」
突如の蜃気楼により二つの影がぼやけて見える。
「……」
パチパチと拍手をするレイズ。
「お前の技、見させてもらったよ。感心、感心。ま、その程度でやられる程俺はおつむは弱くはない」
「君の頭脳も所詮は浅知恵だと言うわけだ。実戦経験も少なかろう」
「なんで生きているんだ!」
「なんでって、そりゃあお前が破壊したのは偽物に決まってるじゃないか」
「父はいつもの水の像、私は攻撃される瞬間に表面だけを残して脱出した」
「なら声は! どうやって!」
イフリートは不可解な事が多すぎるため、対応できない。
「声だけ時空間転移術で移し、あたかも話しているようにしていただけさ。簡単な原理よ」
「バカにしよって……!」
「私たちが無策で動くわけがなかろう。この戦い、賢い者が勝つ」
「よって俺たちの勝ちだ」
「まだ、まだ終わらねえ! いや、俺が今すぐ終わらせる!」
戯言を、とレイズは言った。そして二人は口を揃えて言う。
「絶対零度」
「絶対熱」
二つの相反する温度を放った。絶対零度とは、ゼロケルビンの事であり、絶対熱とは一プランク温度のことだ(ここでは一プランク温度以上の温度で物理的に無意味だとしているため)。
「なっ、バカな⁉︎」
返す間も無く文字通り消滅したイフリート。
「中々手強かった。この技を初めて……だ……⁉︎」
「ッ‼︎」
二人は、意識を失い、うつ伏せで倒れた。
次に目を覚ましたのは六時間後だった。
「やっと起きた……」
「いつつ……まだ頭が痛い……」
「……」
当然だが、二人の神格化は解けている。
「なんて無茶を……もうあの技は禁止よ」
「ああ、かもな。凄まじいくらいの精神力を使った。本来あり得ないレベルのモノを作り出したんだからな。そりゃこうなるか」
「でも、ああやってしないと勝てない相手ってことよね」
「ああ。まだ魔族称号はいる。げほっ、これ以上強い相手がいるとは、先が長いな」
しばらく咳き込むレイズ。吐血するほどにだ。
「休むところがなくなっちまった、くそ」
「近くに町もないし困ったわね……」
はぁ、と溜息をついてふと彼女は思いついた。
「仲良くしてた魔族の人とどうにかしてくれないか頼んでみるわ」
「どうなのかね……まあ、他にアテもないし頼む。とりあえず移動するか……いてて、こりゃ勘弁」
「回復不可能……」
精神の回復は不可能だな。天地の勇者も弱点がないわけではない。
「それじゃ、行きましょう。今度こそ魔界に!」
かくして彼らはいよいよ魔界に突入するのである。
次回予告(1/28予定)
母なる大地とはまさしく彼女のことだろう。竜として伝えられた彼女は、真なる姿を顕す。夜明けの時は近い。
次回、ORIGIN LEGEND 第八説 俺に親などいない




