第四説 唸れ、我が魂! 激動せよ! 神格化!
前回のORIGIN LEGENDは。
毒使いに強襲されるレイズ。段々と身体が蝕まれていくが、天地の勇者の力を使い、それから脱する。さぁ、反撃の狼煙を上げよ。
また伝説神が囁いてきた。
『我、汝ト一ツニ。名ヲ神格化』
神格化、それは神と融合する状態を表すこと。要するに神が顕現するのだ。
「わかった、行くぜ、伝説神! ウォォォォッ‼︎ 神格化ダァッ‼︎‼︎」
右手を振り上げ、気合を込める。服が装飾されていき、髪が伸びる。力はいつも以上に感じ取れ、何もかもが上手くいくように思えてくる。
「これが、神格化……」
『その通りだ。行くぞ、レイズ』
これまで断片的にしか読み取れなかった神の声が、自分の言語として脳内に伝わる。神格化はただ強くなるだけではない。
「姿が変わった⁉︎」
「見せてやるぜ、俺の力を!」
「くそ、こんなところでッ!」
敵は毒を指先から飛ばしてきた。
『右十センチ、下三センチで回避』
言われるままレイズは動く。すると飛んできた毒はそのまま空を舞い消滅する。
「あの速さで、紙一重で回避するなんて」
「紙一重? 何言ってんだ。俺はわざとそうやって避けてんだ」
「だったら!」
今度は大量に飛ばしてきたが、既にその場に彼はいなかった。伝説神が未来予知を行い、必ず飛んで来ないところへ指示したのだ。そこは空中だ。
「どこだ!」
「ここだッ!」
自由落下からの拳骨で彼女を倒す。
「ガハッ‼︎」
そして頭を抑えつける。これは得策ではないように見えた。
「全身毒人間の私に……そんなことしていいのかしら」
髪の毛から毒が滲み出てきた。が、彼には効いてないようである。
「そこまで俺はバカじゃない。あらかじめ手に水の膜をひいておいて、身体に届かせないようにしている」
「な……!」
「さて、話そうか。お前は誰なのか。誰の差し金なのか。言わないなら……こうするからな」
頭を押さえつけたまま、片方の腕で彼女の腕をあらぬ方向へと持ち上げようとする。
「や、やめろ!」
「別に言わなくてもいい。すぐさま殺す」
これまでに見たこともない彼の本当の姿が現れた。その眼差しは、これまでは暖かったが、今は冷たく、殺人鬼と変わらない。
彼女は、彼が言っていることは本気なのだと察し、降参した。
「ややめて……く、ください……」
「落ちるのもそう時間は要らなかったな」
そう言い、彼は解放した。瞬間、彼女は起き上がり、彼の喉元へ腕を伸ばそうと思っていたが。
「おっと、動くなよ。動いたら水圧で吹き飛ぶぞ」
「えっあっ」
時すでに遅し。彼女の右腕は無くなっていた。
「ァァァァッ‼︎」
「ほら見ろ」
そのおぞましい光景からか、彼女の気は失った。
「はぁ……」
彼は、彼女の腕を元通りにする。そして担ぎ、宮殿へと入って行った。
『彼女は操られている』
移動中、伝説神が呼び掛けてきた。まるで全てを知っているかのような口振りだ。
「……」
彼は黙っていた。そうして、静かに神格化を解除した。
地上の宮殿には人はいなく、一対一で話が出来そうであった。
彼女は気が付くと、またあれを思い出し、自己嫌悪に陥りそうになったが、右腕があることを認識し、混乱する。
「起きたか。その腕は治しておいた」
「何故……」
「お前はお前じゃないからだ」
「何を言っているんだ!」
一応、拘束具を使い、手足を封じてはいる。ガチャガチャと物音を立て、鬱陶しそうに眉間に皺を寄せていた。
「簡単に言えばお前は操られているから、だ」
「はァ?」
「今それを解いてやるから、我慢しろ」
彼女に近付き、服の中に手を入れ、胸を直に触る。
「なッ! 何をするんだ!」
「だから解くって言ってるだろ。心臓にそれがあるんだよ」
手の細胞を分裂させ、彼女の体内へと送り込む。天地の勇者は、細胞一つ一つに意志を持たせることができるため、今どこにいるのか把握できる。やがて心臓に到達すると、黒い何かが感じ取れた。
「これか」
心臓に触れると、声にならない声が彼女から発せられる。
「誰か助けて……」
白目を剥き、唾液が飛び散る。
「だから助けるって」
黒い部分を刺激すると、より強い力で彼女を動かそうとしてきた。
「これならどうだ」
細胞は更に分裂し、黒の中に入り込み、爆発した。これには黒も耐えきれず、力を失ったようだ。
「あとは取り出すだけだ。吐くけど覚悟はいいな? 死ぬよりかはましだろ」
「ひッ!」
食道に穴を開け、細かになった黒を入れ込み、押し上げる。穴は彼の細胞が代わりとなり、これを塞ぐ。
喉にそれを感じると、彼女は胃に残っている消化しきれていないモノまで吐き出した。それを地面に落とさないようにするため、彼は水の袋を作り、彼女の口に当てる。
「オヴェェェ……」
「よくがんばったな」
彼女から離れ、指を再構成させ、コップを持ってくる。そこに水を入れ、彼女に持たせた。
「あとは嗽で終わりだ」
全てが終わると、また彼女は眠りについた。
後始末、つまり袋に入ったゲロであるが、消滅させる事で解決した。
さすがに日も暮れ、親の帰りが遅く、心配になったレイガが地上に上がってきた。
「誰……」
レイズの目は元に戻り、一人の父親として振る舞う。
「喜べ、お前の新しい母親だ」
「……父……母……唯一……」
父はかつて母は唯一しか存在しないと言ったはずだ。
「冗談だよ冗談」
「悪、冗談」
悪い冗談だ、やめてくれ。
「で、こいつなんだがな、操られて俺を殺そうとしてきたんだ。こんなんで死ぬ俺ではないが、情報が知りたくてこうしている」
「今日……無」
今日はもう起きないだろう。無意味ではないか? 明日にでもまた。
「じゃあこうする」
大量の冷水を頭からぶちまけた。途端に起きるとジッとこちらを見てきた。
「悪かったな。これから夕食だ。お前もどうだ?」
「誰がお前のなんか」
もう操られていないとはいえ、この行動をするような奴とは一緒に食べたくないものだ。
「でも、腹減ってるだろ」
お腹が鳴り出し、紅潮させてしまう。
「体は正直ってやつだな。さ、行こうぜ」
ムスッとした表情で彼の後を着いていった。
「……」
やれやれ、意地悪な父だ。ああは成たくないな、と心の中で侮蔑したレイガだった。
夕食に入る前に、客人だからもてなせとリヒトに伝えておいた。なので今日は豪華なものであった。
夕食を済ませると、どこか申し訳なさそうにしていた彼女だった。
「申し訳ないと思うなら話すんだな」
「わかった、話す」
抵抗する意味がないため素直であった。
「まず私の名前は、サラ。操られてたときはリリスとか呼ばれてた」
僅かだが、操られながらも記憶はあったようである。
「この毒は改造されたときに入れられた。で、私をこうした張本人は」
無意識のうちにレイズは固唾を呑む。敵がもし神龍のような存在だったら太刀打ちができない。これに対し緊張しているのだ。
「裏世界の王」
今までに聞いたこともない名前だった。疑問に思ったレイズは話の途中ながらも聞こうとする。
「裏世界? 悪いが何だそれは」
「簡単に言えばこの星の反対側に位置する大陸のこと。そこの王。そこの住民は人型だけど、肌が紫で体長は低身長か高身長で両極端」
「反対側……帝国も位置するが、そうのか?」
「まぁ、そうなるわね。でもそこじゃない。厳密に言うと、私達は魔族と呼んでいる」
「魔族……なら、魔族の王で魔王か」
「そう、魔王。説明が下手だったね。丁度表世界と裏世界の狭間に住んでいた私達は魔族に攫われ、そこで改造された。改造された人達は称号を与えられた。その称号の一つが確かリリスなのよ。私の称号ね。そこからはあんまり記憶がないんだけど、多分この戦いが初めて。これまで魔族は動いてなかったんだけど、本格的に表世界を侵略しようと思ってるんじゃないかしら」
「何故今になってそのことを」
「天地の勇者が現れたに決まってるじゃない。貴方達が国造りするのに十年以上かかっているように、魔族も侵略の準備をするのに十年以上かかってるのよ。魔族からすれば十年は人間の一歳分にも満たないしね。余裕を持って進めてるのよ。後、考えられるのは帝国に威圧をかけるくらいじゃないかしら。帝国も帝国で何かしら動くはずだからそれをやられる前にやるという考え」
「詳しいんだな」
「ま、狭間に住んでるから魔族の情報は敏感になってくるわけよ。何も魔族全てが人間に敵対してるわけじゃないし」
「なるほどな。で、今回は俺に向けた刺客がお前だったというわけだ。だが奴も詰めが甘かったな。サラの記憶まるごと消し、そこに嘘の記憶を入れ込んでおけば、サラを助けたとしても俺は嘘の情報に踊らされ、罠に嵌めることができたというのに」
勇者のくせに考えることは外道で魔王以上だ。
「あ、あんたゲスね」
「なんなら今からやろうか? お前の記憶を消し、俺を殺したという情報だけを与え、奴に報告させる。そして不意を突いて奴を殺す。……ま、冗談だ」
「あんたは趣味の悪い冗談が好きなようね」
「ブラックユーモアというやつだ。ところで、称号を与えられたとかいったな。他にもいるんだろ?」
「いることはいるけど……そこらへんは記憶が曖昧になってるから何があるか知らないわよ。少なくとも十はあるんじゃないかしら。もちろん、リリスも私一人じゃないはず。十が十人じゃないということだけは留意しておいて」
「……わかった。事は深刻だな。全員助けないといけないしな」
「それが勇者の義務というやつかしら」
「かもな……だが、俺は別に義務だからやるとか、そんなことは思っちゃいねえよ」
スイッチが入り、レイズは語り出した。
「俺達は苦しみを背負って生きてきた。だから、俺はできる限り苦しみを人に背負ってほしくないために動く。勇者なんてものはそこにはない。それがたとえ自己満足だったとしてもな」
このたとえ自己満足だとしても、という考えは代々受け継がれていく。
「……でも、あんたが余計に苦しむじゃない。そこまで他人のことを背負いたいの?
」
「ま、わかんねえだろうな。それが生きがいなんだから。他人を助けることが苦なんて思ったことはない」
「ゲスなのか聖人なのか……」
「勇者だよ。あえて言うならな。とは言っても、これも称号でただの神を入れる器にしかすぎないんだけどな」
彼はそうやって笑って言うが、目は全く笑っていなかった。サラはそれに気付いていたが、何も言わなかった。
「話が逸れてしまったな。悪い悪い」
「もう話すことはないわよ。で、あんたは行くんでしょ?」
あぁ、と彼は言い、話しだす。
「もちろん。その魔王とやらが人間を苦しめるんだったら、それを懲らしめる。それだけさ。うん、あれだ。勧善懲悪ってやつ。勇者らしいだろ?」
「どうかしら。ゲス思考に至ってる時点でそれは成立しないと思うけど」
「違いないな」
ここまで黙っていたレイガが口を開く。
「笑止。父、私……行く。……」
「ん? 何か言った?」
サラはレイガの事情を知らないので頭を傾げる。
「ああ、レイガは音声機能障害なんだ。連続で話すことができない。悪く思わないでくれ。ちなみに今のはくだらない、早く話をまとめろ。父よ、私も行く。父の足らない部分は私が補おうってね」
「今のでそんなに……ていうか毒舌なのね」
「毒……」
毒使いに言われたくないね。
「くくっ、レイガは俺に厳しいんだ」
「真面目……魔王、準備、出発」
そろそろ真面目な話をしたらどうだ? 例えば、いつ魔王を討つのか。それを準備するのはいつからか。そしていつ出発するのか。
「っ、そうだな。その通りだ。俺はやっぱダメな奴だな。……ふぅ、じゃあ出発は明日だ!」
「えっ、何⁉︎ 何の話⁉︎」
「魔王のところ……めんどくせえ魔界だ! 魔界に行くんだよ! 明日な!」
「ぇ、ぇぇぇええええ‼︎‼︎‼︎」
「早……心……父……無」
あまりにも早すぎる。心の準備というのがあってだな。とはいっても、父は準備など必要無し、か。
「ああそうだ。明日行く。だから今日はさっさと寝るんだぜ。サラも客室に泊まっていけ。……ま、直接行くわけじゃない。まずは彼女が住んでいたところにいく」
「はぁ、こんなことになるなら話すんじゃなかったわ。……いいわ、行く。それじゃあ、また明日」
そう言って彼女は部屋から出て行った。外にリヒトがいたので案内してもらっているようだ。
「よし、じゃあ俺たちも寝よう。また明日」
二人はそれぞれの部屋に行き、すぐさま寝た。
夜は明け、魔界へと向かう一行の姿があった。普段は明るいが、時に冷酷になるレイズ。機能不全がために話すことはあまりないがその本性は鋭い男、レイガ。この二人に振り回されそうな予感がするサラ。この三人の旅が、今始まろうとしていた。
次回予告(1/17予定)
小さなモノ、大きなモノ。光と闇。所詮は表裏一体なのだ。形は違えど本質は同じ。
次回、第五説 恐怖! 巨人となった改造人間!




