第二十説 病(ココロノササエ)
前回のORIGIN LEGENDは。
新たな力、レイガリングを手にした彼は天地の剣と同時に扱えるようにするため鍛錬を行う。だが、その調子は決して良い方向に向かうはずもなく。
鍛錬を始めて一日が過ぎた。寝ておらず徹夜である。今だ安定せず、本当にこの方向性で良いのか迷い始めていた。寝るということは重要だ。頭の整理をする事ができる。寝ていない彼の精神はマイナス方向へと向かっていくばかりだった。
「こんなんでは駄目だ! 俺は一体何の為にこんな事を……。サラを助けるためじゃあねえのか? だったら、こんな事してる暇があるなら今すぐにでも……!」
あの目は継続しているので口調も戻っていない。彼は自暴自棄になりそうだったが、鳳凰神はまだ大丈夫だと諭すだけであった。
「もう二度と失いたくないと誓ったのに……」
彼はますます父親にそっくりになっていた。だがそれには、彼は快く思うことではなく。
「ふん、こういうことを言ってっとまるで親父だぜ。口調まで似てきやがった。……そもそも何でこんな性格になっちまったんだ。親父が俺に取り憑いているのか? このおかしな目も親父だ。もしいるんだったら答えてくれ!」
もちろん返事はない。その代わり鳳凰神が答えた。それはただの気のせいなのだと。彼は認めたくなかった。自らこのような真似をするとは思えない、と。
悩む彼にリヒトが朝食を持ってきた。
「独り言が大っきいわよ。ほらこれ持ってきたから一回休みな」
持ってきたのはサンドウィッチだった。彼は受け取ると溜息を付きながら座る。
「悩んでいるなら一人でなく誰かに頼ればいいさ。例えばあたしとか。幾らでも聞いてやるわよ。レイズも迷っていた時はあたしがビシッと言ってやったもんよ」
「……わからないんだ。俺はこのままで良いのか。これであいつを救えるのか。それに奴を倒せばこの世界の生物が死ぬ。俺は一体どうすれば良い」
サンドウィッチを食べ終えたリヒトはふぅ、と間を置いて話し始めた。
「……一つ言えることはあるよ。レイズがあの時言っていた事。『成るように成るものだ。起こってしまったものは仕方が無い。ここで立ち止まるぐらいだったら、突き進むしかねえんだ。それが俺の生き方だ。何もせずただ後悔するのは御免だ、俺はやるぞ。最期まで』ってね。これでどれだけの地底人が救われたか。あいつがいなきゃ今もあの場所に閉じ込められてただろうよ。もしあんたが無意識にレイズの真似をしようってもんなら、この言葉通り成るように成れって話だ」
「別に俺は親父のようには……だが、成るように成れ、か」
「それと一度胸に手を当てて整理してみな。何故、あんたが父親のような目と性格になってしまっているのか」
それを言われ、彼は目を閉じた。広い草原にレイズと彼がいる事を思い浮かんだ。
「父さん」
まるで瞑想ではなく実際に起きている事かのようだった。目の前に父親がいる。触れられる。その感触がある。
「ん? なんだレイガ。どうかしたのか」
「父さんは私に取り憑いたのか?」
「いきなり何言ってんだよお前は。……ふっ、お前って思い込みが激しいからな。きっとそれは気のせいだ。お前が話せないと思っていた事も気のせいだった。今はお前は俺みたいになりたいと思い込んで目と性格を似せようとした。けどな、レイガ。お前は俺にはなれねえ。お前はお前だ。俺に似せることをやめてお前自身の良さと強さを持てば本当の力を得ることができる」
「ずっと、私がああ成るのは父さんのせいだと思っていた。だがやはり私自身に問題があったのか。私自身の良さと強さ……誰にも真似できない力」
「……ま、そういうことだ。ったくわざわざ死者の世界から助言を与えてやってんだ。頑張れよ。俺は見てるぞ」
「死者の世界? それはどういうことだ。今実際に話しているというのか? これは私の妄想ではないのか?」
「あっ、やべ! このこと言ったらあいつに怒られちまう! とりあえず妄想じゃねえってことだけははっきりしておく。それ以上は何にも言えねえ。じゃあな、レイガ。お前の戦い、楽しみにしてるぞ」
「待ってくれ! 父さん!」
その瞬間、目を見開いていた。ボヤけていたが段々元の世界に戻ってきたのを認識する。
「一体何だったのだ……」
「おかえり。整理は済んだかい?」
彼女の声で気を取り直した。口調が戻っている。目も恐らくそうだ。
「ああ。私は私自身の道を切り開く。それが阿大気に勝つ方法。あと一日ある。リヒト、今日の夕食はご馳走を頼む。私は鍛錬に磨きを掛ける」
「はいよ、そうでなくっちゃね」
早速彼女は厨房に行った。彼はもう一度目を閉じ、もう迷わない、父の真似をしないと心に決めた。
そして今日を終え、しっかりと寝ることでいよいよ阿大気のいる空間に突入しようとしていたのであった。
次回予告
ORIGIN LEGEND 第二十一説 侵




