第十八説 気(アトモスフィア)
前回のORIGIN LEGENDは。
再び出現した邪神を倒し、彼は、彼の過去をサラに語った。
翌日、支度をしていた彼は、異変を察した。世界がほんのわずかではあるが、歪んでいる事に。次元の歪みだと彼は踏んでいる。サラにその事を話し、準備を急がせた。
「邪神達は着実に侵攻を進めているようだ。残念だが、旅は中止のようだな」
「そうですか……ですが世界の危機に悠長な事は言っていられませんね。……これで準備完了です。いつでも出られますよ」
「良し、ならば早速行くぞ」
そう言って外に出ると、既に世界が黒く染まっていた。空気は重く、肺に負担が掛かる。毒を吸っているような感覚だ。更に体全体に重みがある。
「遅かったか……いや、どうやら近くにいるみたいだな。異常なまでの殺気だ。これまでの邪神とは比べ物にならない」
「大丈夫なんですか? 今までのもかなり強かったと思うのですが、それ以上ですか?」
「問題ない。これまでの邪神は所謂、雑魚というものだろう。私が過去に戦ってきたものよりずっと弱かった」
技を封じられた時程の絶望感と比べれば当然そうだろう。
「そ、そうですか。えっとぉ、頑張って下さい?」
何と言えば良いのかわからなかったサラはとりあえず応援の言葉を掛けた。
「……お出ましだ」
サラの言葉は彼の耳には入っていなかった。意識は敵にある。
新たな邪神は顕れたと同時に咆哮することで周囲の自然を破壊し尽くした。彼は咄嗟にサラを庇う。それで背中が焼けるが、すぐに直し次の攻撃を警戒する。
「君の名を聞こうか、その大きく、猛々しい邪神よ。ただの名無しの邪神ではないはずだ」
「……我こそ肆大邪神が一柱、阿大気。天地の勇者よ、我が力にひれ伏すが良い」
いきなりの肆大邪神のお出ましだった。何故このタイミングでこれが顕れるのかがわからないが、出てくるということは確実に彼を殺す気である。
「肆大邪神……では、邪神の上の存在だというのか」
「いかにもその通り。我が送った尖兵は尽く無惨に散ったため、我が直接出向くことになった。使えない玩具だった」
尖兵とは、魔族、そして名もなき邪神のことだ。阿大気は思ったよりも痺れを切らすのが早かった。
「尖兵。やはりあの吸収装置は君の仕業だったわけだ。……それを玩具と呼ぶとはな。君に情けをかける余地はなさそうだ。どちらかが死ぬまで戦う」
「どういうことですか? 尖兵とは前に戦った邪神のことではないのですか? それ以外に何かあるですか」
サラは彼が魔族と戦ったことは知っているが阿大気が仕向けたということまでは知らない。
「悪いが今は詳しくは言えない。戦いに集中させてくれ」
「は、はい」
彼の凄みに思わず口を閉じてしまったサラは巻き込まれないように逃げ出した。それを見て彼は安心したのか、更に表情を険しくした。
「戦いは一瞬で終わる……我の勝利でな」
「何ッ⁉︎ ガッ……!」
息が出来なくなった。まるで宇宙に飛ばされた感覚だ。身体中の空気があらゆる穴から抜けて行く。それだけではない。出るもの全てが出そうだった。
「我は空気そのもの。貴様の周囲の空気は無くした。これで終わりだ。仮にそれを回避し、我を殺したとしても空気の概念が消え世界中の生物が死に至るだろう。……こんなもの、最初から我がすれば良かったのだ。天地の勇者はまるで無敵だ。だがそれは無限の再生での見せかけに過ぎない。行動を封じるだけで止められる。さて、これで一分が過ぎたが気分はどうだ? 話すことは出来ないか」
彼は脳もやられていた。正常な判断が出来ない。例え神格化をして阿大気を殺すとしよう。奴の言う通り空気の概念が無くなり、生物が死滅する。所謂、詰みという状況だ。
ぐたりと彼は倒れ、体液が飛び出す。
「「阿大気の真たる力には無力……。さて、饗が食べ損ねた女を頂いて帰るとしよう」
「ァ……ェ……」
待て、それを言うことすら侭ならない。阿大気は逃げていたサラを捕まえ、消えようとした。
「レイガ様ァァァァァッ‼︎」
サラの悲鳴が飛ぶ。
大丈夫だ。私が私である限り私は不滅だ。この身、果てぬ。彼はこう言いたそうな目で彼女に訴えた。
阿大気が消える瞬間、彼の肢体は飛び散った。彼の血がサラの顔に当たり、青ざめ、絶望に染まる。
核すらも霧散した。彼の再生は追いつくことは無かった。
と、ここまでは阿大気の想定範囲内であった。核が無くなったのであればもう一度与えれば良い。天地の勇者に対して神の御加護が絶える事はない。核が突如出現し、体を再構成させた。
彼は何故生きているのか初めは理解できなかったが、鳳凰神がそれを教えた事により把握する。
そしてあの目となり、あの口調で独り言をしだす。
「ハッ、成る程な……どうやら邪神達よ、お前達に勝ち目はないようだぜ……もう二度とお前を失う訳にはいかねえ。必ず取り戻す」
ただ、再生はまだ不完全でその後気絶した。
阿大気による結界内。
「貴様は三日後に喰らう。この三日で更に絶望を増し、我が糧となれ」
サラは手足を縛られていたが、幸いにもそれ以外に何もされることはなかった。阿大気は人間に興味はない。欲するのは黒く染まった魂だけ。
この三日間の猶予を与えた理由として、彼の死を実感させることにある。まだ夢を見ているかもしれない。その希望すらも砕くために三日を与えたのだ。
彼女は何の抵抗も出来なかった。涙を流す事すらも。虚ろ目をし、口を半開きにしてまるで廃人のようだった。
世界は一瞬にして一変する。希望は絶望へと急変する。昨日まで笑っていた君は今日悲しむ。
次回予告
ORIGIN LEGEND 第十九説 剣




