第十七説 邪(ジャシンハナゼジャシントヨバレルノカ)
前回のあらすじ
邪神に襲われた二人は何とか陸に辿り着く。
一晩外で過ごした二人は、結局寝付けず、目に隈ができていた。特にサラは疲れて倒れそうである。
「大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫、です…………はっ⁉︎」
「いや、大丈夫ではないな。何故寝なかった。俺が見張りをすると言ったというのに」
「き、緊張して眠れなかったのです! ……うっ」
ばたりとサラは倒れ込んだ。そしてスヤスヤと眠り出す。
「寝てしまった、か」
彼女を抱きかかえ、安眠出来るようにすると、彼もそのまま寝て行ってしまった。
次に起きたのは夕暮れだった。慌てて起きた彼は溜息を付き、未だ寝ている彼女を見て少しだけ笑った。
彼女が寝ているうちに彼は簡易的なログハウスを造った。これで雨風が凌げる。そして彼女をそこに連れて行き、自らは森の探索へと行った。
「何もないな。あるとしたらあの大きな山だな。人さえいればどうにかなるというものの……」
一先ず彼は食料を集めた。果実はある程度実っていたのでしばらくそれに関しては困りそうにはなかった。
食料を小屋において、もう一度出ようとすると、彼女が起きた。
「あれ、ここは……」
「起きたか。食べ物はそこに置いてある。適当に食べていてくれ。俺は村を探す」
「はぁ、はい」
しばらく空を飛んでいると殺気を感じた。近くに何かいるのだろうか。
「誰だ、姿を現せ」
空中で止まってそれを言うと、殺気の正体が現れた。また、人型邪神である。
「また君か……」
「我、汝とは初遭遇だ。何を勘違いしている」
姿は似ているとはいえ性格そのものは違った。
「前とは違う邪神……どうやら似たような姿をした邪神が至る所にいるようだな。だが、私の前に立ちはだかるというのであれば全て倒す。さぁ、来い」
「無論、言うまでもない」
空中での戦いが始まった。邪神は一気に距離を詰め寄ってくる。彼は引かず激突する。取っ組み合いになると邪神は口から光線を吐き出した。彼は頭を失うもすぐに再生させ邪神の手を握り潰す。
「汝の力、面白い。我が主の命に値するぞ」
「そうか、ならば全力で相手しよう」
彼は一旦下がり、数多の火球を作り出し一度に放つ。邪神はこれを耐え抜き再び間合いを詰めてきた。
「邪神たる所以、見よ」
世界中から黒い線が伸び、邪神に集まってくる。
「何をする気だ!」
「邪神とは本来、生物の邪な精神によって誕生する。一番なりやすいのは嫉妬。……その思いを今我に吸収し、汝に解き放つ!」
溜めに溜めた黒き力が解放されると彼は喰らい、吹き飛ばされて行く。木々を破壊し、森の五分の一は無くなっただろう。
轟音に気付いたサラは彼に何か合ったのか心配になった。
「鳳凰神様……どうかご無事で……」
倒れた彼に近づく邪神は警戒していた。まだ余裕がありそうな顔をしていたからだ。
「汝、何故その顔をする。あれだけの嫉妬を喰らって何故笑っている。汝とは、天地の勇者とは一体何だというのだ!」
彼はゆっくり立ち上がり、顔を引き締めこう言う。
「私にはわからないんだ……人の嫉妬など。昔からそういう感情には疎い。天地の勇者だから、などではない。私自身がそうなのだ」
「こうなってはもはや物理攻撃で核を破壊するしかあるまい!」
「そうはさせない。私の神格化によって君を……」
神格化した彼は目をアレにして口調を変えながら続ける。
「お前を葬り去る。そして俺はもっと強くなる! この世界の邪神を根絶やしにしてやる!」
邪神でありながらも背筋が凍る勢いだった。その気迫は勇者の、神のそれではない。単なる殺戮を狂喜する者でしかない。
「行くぞ‼︎ 究極にして神と龍を与えられし勇者の力! とくと見やがれ!」
究、極、神、龍の宝玉を嵌め、小細工抜きの一閃を繰り出した。森は完全に整地され、邪神も消滅していく。
「やれやれ……もう少し骨のあるやつはいねえのか……」
事を済ませた彼はサラのいる小屋に帰って行った。
小屋に戻るとサラが飛び込んできた。
「鳳凰神様ァァァ‼︎」
「なっ⁉︎」
彼に抱き着くと泣きながら喋る。
「心配しましたよ……全然帰って来ないし、森はなくなるし……一体何があったんです!」
「いや、その……また戦っただけなのだが……」
「戦った……また巻き込まれたんですか? 体は大丈夫なんですか?」
「問題ない……。そうか、君は全く私のことを知らなかったな。この機会だから話そうか」
その日、彼は夜まで自らの事を話し続けた。勇者、神、邪神、等、何故戦うのか何故戦わなくてはならないのかを。サラは頭を抱えていた。とんでもない人についてきてしまったのだと。
「でも、後悔はしません。貴方が居なければきっと私は既に死んでいましたから」
「長話に付き合ってくれてすまなかったな。……そう言ってくれると助かる」
「それで、これからどうしましょうか。当てもない旅は辛い気がします」
「一度国に帰るか……いや、まだ帰るわけには行かない……どこかに人の住んでいる地域さえ見つかればどうにかなるものだと思うのだが……」
「それなら、私の力で探しますよ」
彼女は突然魔法陣を作り上げ、詠唱した。すると地図のようなものが浮かび上がり、近くに人がいるのを探知出来るようになっていたのだ。
「魔法陣……よく知っているな。ただの巫女ではないのか?」
「私だってやる時はやるんですよ。さ、これで次の目的地が決められますね」
そうだな、と彼は頷きある地点を指した。
「ここに行こう。きっとまた邪神が襲いかかってくるかもしれない。それでも俺はそれを倒し、強くなる。それが旅の目的でもあるからな。明日には行こう。今日はおやすみだ」
少し不安だった彼の目はやる気に満ちた。
「はい、おやすみなさい」
肆大邪神、阿大気は嗤う。これより世界の終末を行う、そう言いながら。
次回予告
「我こそ肆大邪神が一柱、阿大気。天地の勇者よ、我が力にひれ伏せ」
「私が私である限り私は不滅だ! この身、果てぬ!」
「レイガ様ァァァァァッ‼︎」
「阿大気の真たる力には無力……!」
「ハッ、成る程な……どうやら邪神達よ、お前達に勝ち目はないようだぜ……!」
次回、ORIGIN LEGEND 第十八説 気