第十六説 始(ココカラガホントウノタタカイ)
前回のORIGIN LEGENDは。
集落の巫女を偽の鳳凰神から救った彼は、その偽物である饗を倒す。村では彼を崇めるようになった。そして彼は巫女のサラと共に再び旅に出るのであった。
集落を後にした彼とサラ。二人は海を渡ろうとしていた。
「懐かしいものだな。船に乗るのは久しぶりだ」
それもそのはずで実に二十年以上振りである。普通の人間ならば物心もないはずなので初めての体験だと言ってもいいだろう。
「私は初めてです。ずっと巫女のための修行と禊をしていましたから」
「悪いものではない。天気さえ良ければな」
天気は快晴である。当たり前だ、天気は彼が操作しているのだから。
「ふっ、私が晴らしたい時は晴らすまでだがな」
「さすがは鳳凰神ってところなのでしょうか」
「そうだ。さあ乗るぞ」
船に乗り込むと、汽笛を鳴らし、錨を上げ出港した。
「風が良い」
甲板にいる彼は目を閉じてそよ風を感じていた。サラは部屋の中にいる。
しばらくうとうとしていると突然船が揺れ出した。
「……!」
衝撃により眠気を覚ました彼は揺れた原因を突き止めようとした。天候は変わっていない、波が大きくなったわけでもない。
「一体どういうことだ」
再び揺れる。この時彼は確信した。意図的に揺らされていることに。
「船底に何かいるというのか⁉︎」
海を覗くと突然黒い人型が飛び出して来た。
「なっ!」
突撃してきたそれを避けて、態勢を整え直す。その人型は船に乗り込んできた。
「君は一体……」
「我は邪神。概念であり概念でない」
「邪神、だと。そうか……また、新たな戦いが始まるのか」
何かを悟った彼は完全に臨戦状態だった。
「我、汝を封じるためこれに馳せ参じる」
「封じる……?」
「やがて世界の終焉を迎える」
邪神は話す気は毛頭ないみたいだ。
「……ならば、私がここで食い止める!」
とはいうものの彼はサラが気掛かりだった。彼女が巻き込まれないか心配なのだ。丁度サラが現れる。
「サラ、ここは危険だ!」
「大丈夫です! ここで見てますから!」
本当に大丈夫なのかはわからないが、一先ず邪魔をされる心配だけはないなと安心する。
「汝、行動せぬなら先手を取るまで」
人型邪神は操舵室に向けて暗黒物質を放った。
「きゃあ!」
サラは思わずしゃがんだ。
「操舵室が……!」
跡形も無く操舵室は消える。そして邪神は特有の結界を張った。
「これで陸に逃げることは不可能」
「時空間転移術が使えない……」
「汝の持つ力を滅することが我が使命」
この邪神はただの邪神ではなさそうだった。これまでに見たこともないタイプである。黒い剣を作り出し、構える。
「そうか……だが、私だけならともかく他の人を巻き込むなどという愚行に及んだ時点で、私は君を許さない……!」
二人は衝突した。火花を散りばめ、何度も何度も打ち合う双方の剣。お互いに隙はなく懐に入ることはない。常人では見えないほどの速さで動いている。
「何が起きているの……」
サラは人間だ。目の前に繰り広げられている非日常を、彼女は理解できそうになかった。
奮闘虚しくも邪神の無尽蔵なスタミナに打ち負けた彼は倒れ、足で抑えられる。
「ガハッ‼︎」
「力を滅する」
その言葉の通り能力を奪われて行く感覚に陥る。彼は苦しみの差中、魔族との戦いを思い出していた。あの時も能力が使えなくなっていった。そして、一人を失った。
「もう、二度と失うのはごめんだ……!」
「戯言を」
「私は、二度と己の無力さ故に犠牲者を出すという愚かな真似をしたくはない! ……力を貸せ、鳳凰神! 神格化!」
神格化したことにより邪神を吹き飛ばした。
「馬鹿な⁉︎」
突然の出来事に邪神ですら困惑する。実は彼には既に神格化をできるほどの体力と精神力は残っていなかったのだ。一体彼の何がそうさせるというのだ。
立ち上がり、目を閉じた彼は、こう言う。
「俺は、こんなところでへたばるわけにはいかねえ! まだ旅は始まったばかりなんだ!」
目を見開くと、あの目となっていたのだ。そして口調は父そっくりである。
「まさか、憑依……レイズの魂を宿したというのか」
邪神によると神格化ができたのはレイズが力を貸した、ということだ。
「何わけわかんねえこと言ってやがる。来いよ、俺は今最高にキレてんだ。ああそうだ、サラ。悪りぃな。ちょっと奥に行っていてくれないか。ここからは見せられねえ」
「えっ、えっとわかりました……」
危険を察したのか、サラはそこから去って行った。
「邪神よぉ、俺はお前たちが大嫌いだ。いつも邪魔しやがって。お前たちが俺の旅の邪魔をするというのであれば、全て壊す!」
彼は究、極、水の宝玉を剣に嵌めると叫んだ。
「究極水・ブレイズストリーム! その力強い意志と気高き魂よ、今此処に再び顕し、敵を蹂躙せよ!」
剣を床に突き刺すと波が荒れ出し、邪神に襲いかかる。
「……!」
何かあると判断した邪神は避けようと空中に逃げようとするが簡単に捕まってしまう。
「無駄だ!」
やがて水は氷となり、ガチガチに固め、動きを封じる。
「これでは……!」
「あぁ、これで終わりだァッ‼︎」
水を火に変えて究極火にすると彼そのものが燃え出す。
「究極火・レイガブラスト!」
バック宙をして下がり、そして邪神目掛けて跳んだ。まるで鳳凰のような形を取り、邪神を貫通する。
その後、爆発となり、甲板が吹き飛んだ。だがこれで邪神は消滅し、戦いに終止符を打つことができたのだ。
「戦いには勝てたが、船に大損害を与えてしまった」
操舵室は邪神の仕業ではあるが、他は全て彼がやってしまったことだ。何故ここまで損害を受けている船が沈まないのかはわからない。彼が浮かすようにしたのかもしれない。
彼はここからどうやって移動するのかを中に入って考えているとサラが来た。
「終わったんですか?」
「終わった。今はこれからどうすべきか考えている」
結界は残っており、時空間転移術は使えないままだ。操作不能なこの船で一体どうやって陸に辿り着く。想像上の試行錯誤を繰り返した結果、彼は考えを諦めかけていた。
「あの……」
そこでサラは提案した。より小さな船を作れば良いと。幸いにも乗船しているのは二人だけである。残った木材を用いて筏を作り、それで陸に行く。
「なるほど……知識不足だった。早速取り掛かろう」
「手伝います!」
三十分もしない内に筏ができた。二人はそれに乗り移ると船を焼き、沈める。彼は必死に櫂で漕ぎ、日が沈む前に陸まで行こうとした。
その後、何とか間に合った二人は疲れて浜辺で休んでいた。
「中々に体力が消耗する作業だった。しかしここは一体どこだ。少なくともデグラストル領内ではないな」
「私にもわかりません」
「……まずはここで野宿だな」
この旅の目的も確実になってきた。それは邪神討伐。饗を倒して以来、天地の勇者の存在に気付いた邪神は世界中に散らばっている。迫り来る刺客。彼らはどう切り抜けるのか。
そしてここは後の光の国となる場所。そう、ここにもまた邪神が潜んでいる。彼はそれを乗り越えられるか。はたまた力尽きるか。今、本当の旅の幕が切って落とされた。
次回予告
「よく知っているな。ただの巫女ではないのか?」
「私だってやる時はやるんですよ」
「汝の力、面白い」
「私には……わからないんだ」
「邪神たる所以、見よ」
「俺はもっと強くなる!」
次回、ORIGIN LEGEND 第十七説 邪
邪な心に写る影。