第十四説 それが帰る国デグラストル
前回のORIGIN LEGENDは。
ベルゼブブとアルシスを葬ったレイズとレイガ。魔界は海へ沈んでいく。再び魔界が出来るのはそう遠くない未来。レイズは、戦いを終え、少しの休息を得る。
レイズ達は帰ると、リヒトに全てを話した。彼女は無事に彼らが帰って来て嬉しい反面、リリスが死んだことには何とも言えない感情を抱いていた。
そして、数日が流れた。レイズらは再び国作りの作業を再開し始める。とはいっても、リヒトから言われ、一時の休息をしていた。
「あの怒涛の日が終わって、俺もダメになったみたいだな」
彼は外に出て、日光浴をしている。丁度良い日差しと心地良い風が、彼を安らげる。
「何もやる気がしねぇ……うん、本当に何も……あー気持ち良い」
「何を馬鹿な事を言っているのだ」
すっかり普段も話せるようになったレイガは父の不甲斐なさに呆れている。
「そういやおめえ、なんで今まで話せなかったんだろうな」
「恐らく……ずっとあの時の記憶がこびりついていた」
「あの時?」
「ああ、母が殺された時のな」
「……」
レイズは黙り込んだ。レイガは直接母を殺された時の事を見てはいないはずだ。もし見ていたとしても、物心はついてないはずだと。
「いや、天地の勇者ならあり得るのかもな。例え幼くても知能指数は高いとか、そういうのが」
「それで私は、恐怖に取り憑かれ、上手く言葉を発する事が出来なかった。サラの件を機に、私は覚悟した。それで神格化せずとも話せるようになったのだろう」
「成る程な」
レイガには一つ不確かな事がある。それはレイズ似の口調。あの時起きた彼の異変は何だったのだろうか。
「まあ、レイガも寝転がれよ。気持ち良いぞ」
「バカバカしい……」
「なっ、なんだとォー⁉︎」
レイガはその場から去って行った。
「ノリ悪いなあ本当。誰に似たんだか……」
ところで、こう見えて彼は三十五歳だ。天地の勇者の寿命は四十五である。つまり、もう十年も持たない。彼は一見明るいが、どこか焦りも有った。一刻も早く国が出来てほしいと考えている。本当はこのような悠長な事もしている暇などないのだ。
「……良し、俺も働こう。未来の王たる者がこんな弛んでいてはダメだな!」
そう言い張り切って現場に向かうが追い出されてしまった。
「な、なんでだぁぁぁぁ‼︎」
「だからー休んでなって。どうせ邪魔になるんだし」
リヒトがやってきた。彼女は現場の事情を把握してるのでレイズが今更入っても邪魔だと分かっている。
「上に立つ者はどっしりと構えなさい」
「へ、へぃ……」
魔王を倒した男もこれにはたじたじである。
ションボリと彼は部屋に戻ろうとした時、殺気を感じ取った。
「っ、なんだよ。もう俺の戦いは終わったんじゃなかったのかよ」
「ん? どうかした?」
訳が分からないリヒトは不思議そうにレイズを見ている。
「いや、何でもねえ。すぐに戻るからよ」
「そうかい」
レイズはその殺気を発せられる所に向かった。
「よぉ、バレバレだぜ」
宮殿の裏側にある森の中にレイズはいた。そこに数人の殺気があるからだ。
「なっ、まさかここが割れるとはな」
降参だと言わんばかりに一人出てきた。
「その軍服……帝国か」
「いかにも」
レイズは睨みつけた。何を考えているのだと。
「約十人……尖兵と言ったところか……十五年経ってようやく追手のお出ましとはね。帝国も偉く適当なものだ」
「貴様、何者だ」
「……これからこの国の王となる者だ。その礎として、お前達には死んでもらわねばならんな」
殺人鬼の目となったレイズは突然敵目掛けて飛びかかった。
「くっ、かかれぇ!」
まず一人目を真っ二つに斬る。
「遅い! 激闘を送った俺に勝てる道理など、ない!」
動きこそは素早かったが、毒矢を腕に撃たれた。
「よしこれで!」
「……ふん!」
彼は容赦無く自分の腕を切り落とし、再生させた。
「な、なんだそれは⁉︎」
「いつの世も上に立つ奴は毒で死ぬ。けどな、俺には効かねえんだ。観念、しろ!」
地面の殴り、衝撃波によって相手を吹き飛ばす。そして水の宝玉を天地の剣に嵌め、辺り一面を水浸しにする。
「何もないところから水を……おぷっ……溺れる……なんて……りょう……」
水嵩は増していく。
「終わりだ」
彼が剣を振り下ろすと、一瞬にして水は凍った。
「……熱湯にするのもそれはそれで面白かったかもな」
事が終わると宝玉を取り出し、剣を収める。
「こりゃ多分大軍が来るぜ。一回レイガと相談して侵攻を阻止しないとな」
レイズの本当の最後の戦いが始まろうとしていた。
「レイガ、今すぐ準備をしろ」
自室に戻ったレイズは、本を読み漁っていたレイガに声を掛ける。
「何かあるというのか」
「ああ、帝国の奴らに目を付けられた。数はわからないが大量の敵と戦うことになる。何としてでも俺たちの国は守りたい。だから戦うぞ」
「了解した。あのサタン達に比べたら赤子も同然だ。さっさと終わらせよう」
レイガは頼もしかった。レイズはその姿にどこか嬉しそうであり、笑みを浮かべていた。
やはり帝国側は彼の思った通り、大量の軍隊を送りつけてきた。数は十万。
「こりゃ大したもんだ。帝国も躍起になってやがる。たかが奴隷ごときにこんなにやってくれるなんて俺も相当な価値が出来上がったもんだ」
「無駄口はよしてくれ父よ。作戦はどうする」
そんなもの、とレイズは笑いながら言った。
「あるわきゃねえだろ。殲滅だ。相手はただの人間だ。俺たちゃ天地の勇者だ、そうだろう? だったら魔術ぶっ放してボン! それでお終いだ」
「やれやれ……」
レイズとレイガは宮殿の屋上にいた。そこから飛び降り、滑空しながら念じる。
敵は驚いていた。当たり前だ、いきなり二人が自殺しているような風景を目の当たりにすれば。しかし、それは違うことにすぐに気が付く。
「た、退却!」
時すでに遅し。火球が飛び交い、激流で押し流されていく。
「ウワァァァァ‼︎」
混乱すると一気に編成は乱れ、崩れて行く。四方八方からの瞬間的な攻撃にただの人間が対処できるわけがない。
「ブッ飛ばす!」
レイズが右腕を挙げると大地から水が湧き出て、彼らを押し上げる。そこにレイガが熱光線を放つ。貫くと、一気に消滅していった。
「あとどれくらいいる!」
「おそらく三万だ。今のでかなり殺った」
「だったらここからは地上戦だ。俺たちの力が魔術だけじゃなくても充分凄いということを見せつけてやる。そして帝国に伝えさせ、こっちに来れなくしてやる!」
「……先程は魔術で一気にやると言っていたというのに……まあいい」
二人は降下すると、敵をザクザクと斬りつけていく。
「ハッハッハッ! 所詮は素人ばかりだ!」
レイズはただ笑いながら斬っていった。レイガはそれを呆れながら黙々と戦う。
「あの阿呆は……。これではまるで父が魔王ではないか」
辺りは血の海となった。戦場に鬼二人。誰も二人を傷付けることなど出来なかった。近付くことすらも。
そして、残り一人だけとなった。その一人は地面に座り込み、ただ怯えていた。そこにレイズは殺人鬼の目となって話し出す。
「皇帝陛下に伝えておけ。……たとえ俺たちの世代が帝国を滅ぼすことが出来なくても、一族の末裔が必ず貴様ら軍人全員を葬り去る。絶対にだ。これは復讐であり、叛逆の狼煙だとな」
「ひっ、ヒィィィッ!」
その者は大慌てで逃げ帰って行った。
「……ふぅ、終わったな」
返り血を浴びすぎた彼は唾を吐き捨てる。その後天地の衣がそれを洗い流す。
「ああ。これで暫くは帝国も手が出せまい」
レイガの返り血はあまりなかった。付着しないようにしていたからだ。
「さあ帰ろう。俺たち天地の勇者がいなくなった時のために軍隊も作らなきゃいけねえな。やることは多し、だな」
宮殿に戻ると、リヒトが出迎え、出来たての料理が待っていた。
ここは帝国。玉座に座る巨人の皇帝バイス・ユディナは報告を聞き、ニヤリと笑う。
「面白い……良いだろう、決着は先に送っておく。楽しみは後に取っておく主義なんでね。まずは部隊の再編成をしておけ。人間の駒なら幾らでもある」
「ハッ!」
側近の一人に指示を出す。そしてバイスは報告しにきた生き残りにこう言う。
「よくあの戦場から生き延びてきた。褒美をやろう」
「ハッ! 有り難き幸せであります!」
「安眠剤だ。戦場のトラウマで眠れない時もあるだろう」
「と、言いますと」
言うまでもない。
「永遠の眠りだよ」
腕を薙ぎ払い、彼の首を飛ばした。
「戦場から逃げ帰る事は死だマヌケェ……」
バイスはひたすら笑い倒していた。彼からすれば戦争はゲームに過ぎない。寿命の長い巨人族からすれば気まぐれに大部隊を送るだけで良い。やられようがお構いなしだ。この性格の悪さから、今後デグラストルは十数年おきに毎度戦わされることになる。
その後十年、一切の戦いはなかった。平和に過ごせたレイズは満足そうにしていた。あらゆる整備も終わり、国もようやく完成する。だが彼の時間はあまりにもなかった。なさすぎた。
終わりの刻は近い。
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