第十三説 最終決戦、ディ・アルシス
前回のORIGIN LEGENDは。
数多のサタンと戦い勝ち抜いたレイガ。一方レイズはアルシスと対面するが、ベルゼブブに乗っ取られ、ディ・アルシスと名乗り出す。それぞれの思惑が交差する、この魔界。最後の戦いが始まろうとしていた。
「ベルゼブブ……いや、ディ・アルシス! お前は絶対に許さない……許さない! 魔族称号だけでなく魔王すらも手駒としか見ていないお前を絶対に許さない!」
「聞き捨てならんなあ。魔王様は手駒じゃない……我そのものだ」
ディ・アルシスはアルシスとベルゼブブが融合した状態。ベルゼブブだけが意識を持ち、アルシスは深い精神の奥底に封じ込められている。
「もう御託は結構だ。さっさと捻り潰してやる」
殺人鬼の目となったレイズはディ・アルシス目掛けて走り出した。
「無駄だ。力無き勇者に劣るはずなどない」
「⁉︎」
突然、レイズの体は浮かび上がった。体が操られている。ディ・アルシスが腕を振るとその方向へ吹き飛ばされる。
「ガハッッ‼︎ くそ……なんて力だ……!」
「本来の貴様ならあれは回避出来ただろう……くくく、どれほどまでに力を失ったか実感したか?」
レイズは無言だった。気を良くしていたディ・アルシスは、語り出す。
「魔力吸収装置は完璧だ。魔族以外の魔力を城内に入った全ての者の魔力を根こそぎ奪い取る。そして、その力は我の元へ。……少しでも回復しようとしたら、再び吸収されるだけ。我に勝てる道理などないのだ」
「……はっ、お前はとことん阿呆のようだぜ……だったら、装置をぶっ壊せば良いだけのことさ」
「その体でどうやって? ふはは、どの道無理だ。この部屋にはないのだからな」
「俺は信じているぜ……」
「何を。無駄だと言っているだろう!」
拳を握り締めると、レイズの両手が消失した。
「グァァァァッッッ‼︎」
「これで、貴様は戦えまい。終わりだ、時止め!」
時が止まり、ひたすらレイズを殴り続けたディ・アルシス。それを解除するとボコボコになったレイズがあった。
「……」
「呆気ない……それが勇者か……いやはや、むしろ勇者の力がこれ程とはな……これで最強は誰かと思い知らせることが出来た。我こそがそう、最強なのだ」
ディ・アルシスは高らかに笑った。これで最強を証明した、宿敵を倒すことによって。だが、彼は勘違いをしている。まだ宿敵は残っているということを。彼は油断していた。レイガがまさか全てのサタンを倒すことなどあり得ないと踏んでいたからだ。
レイガは、ふらつきながら壁伝いに歩いた。残った左腕を必死に動かし、少しずつ前に進む。そして扉に当たり、押すと扉は開き、気付かないままだったので倒れてしまった。
「っ……ん、ここは……」
擦った頬を摩りながら顔を上げ、前方を見ると、巨大な何かがあった。
「機械……まさか……」
この機械が魔力吸収装置だというのか。と言いたげなレイガである。そう、これこそ正しく魔力吸収装置。ベルゼブブは自分でこそ頭の良いと鼻を高くしているが、実際はその逆でかなりの阿呆である。天空界から突き落とされた原因の一つもそれだ。
「何か書かれているな」
作業台の上にメモが置いてあった。メモというより伝書で、魔王宛の物だった。それにはこう書かれている。
『魔王様、魔力吸収装置により勇者の魔力を自らの物にできます。私一人では作ることができませんでしたが、肆大邪神、阿大気により力を借りることにより成功致しました。どうぞお使いください』
なんと、あの肆大邪神が一枚噛んでいたのだ。確かに魔族だけでは天地の勇者の力を封じ込めることはできない。
「ふん、こんな大事な伝書をこんなところに放っておくとはな。やはり、ベルゼブブ。奴の知能は浅はかだ」
レイガは装置の前に立ち、殴りつける。しかし、凄まじい強度であり破壊することはできない。それでもひたすら殴り続けていた。
一方レイズは、立ち上がった。
「ほぅ、まだ立てる力が残っているとはな」
「ぼあら(おわら)……な……ぃ……ま、ば(だ)、おわらぜるわげには……」
「ハハハッ‼︎ まともに話すことができないくせして何ができるというのだ‼︎」
両腕がなくとも、戦う。彼の覚悟、気力は並外れた物だった。
口元に溜まっていた血を吐き出し、語る。
「伝説はまだ始まっちゃいない……」
「伝説?」
「ああ、伝説だ……俺の伝説だ。……未来永劫、伝説の神々を……祀られし器……真たるは、勇者……冒すは天地……此処に、顕現せよ……伝説、神……神格化」
だが、魔力のないレイズは神格化することはできない。
「ああ? 何がだって? 神格化すらも無意味だ! 貴様の力を持った我こそが神格化の権利がある! 未来永劫伝説の神々を祀られし器。真たるは魔王! 冒すは天地。此処に顕現せよ、伝説神! 魔神格化ァァァッ‼︎」
ディ・アルシスもまた神格化することはできなかった。彼は神ではない。ただの魔族に過ぎない。
「何故だ、ナゼダァァァァァッ‼︎‼︎」
「簡単なことだ……お前には伝説神が宿っていないからだ……! お前は所詮小物だ! 悪いことは言わねえ、さっさとアルシスに体を返しやがれ! まだ奴とは話がついてねえ!」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れェ!」
錯乱したディ・アルシスはなりふり構わず暴れ回り、物を壊して行く。
「黙るのはてめぇだ!」
レイズは走った。そしてディ・アルシスに膝蹴りを入れ、天高く蹴飛ばし、城の天井を破壊する。
「ガハッ‼︎‼︎」
「俺はお前が死ぬまで許さない、だから負けない!」
雄叫びをあげた瞬間、力が漲った。この瞬間、レイガが装置を破壊したのである。
「……バカな、力が……消えていく。まさか!」
「ウォォォォッ‼︎ これは! 完全回復だ……!」
腕が再生し、傷も全て回復する。精神的疲労も、魔力の復活により吹き飛ぶ。
「父よ、待たせたな」
急いで来たレイガが合流する。そこでレイズはレイガが普通に話していることに気付いた。
「レイガ、お前、神格化していないのに話せるのか!」
「なっ……私は神格化を……?」
ここで初めて彼は神格化していなかったことに気付く。
「お前、もしかして始めから話せたのかもな。話せないと思い込んでただけなのかもしれねぇ。ってそんなことは今はどうでもいい。やるぞ、レイガ」
「……ああ、やろう」
二人がディ・アルシスの方を向くと彼は慌てた。
「やめろ、来るな……お前らが全力でかかってきたら我は……」
「カカカッ、所詮は小物だぜこいつァ」
「観念しろ」
神の刻は来たれり。
「未来永劫伝説の神々を祀られし器。真たるは勇者。冒すは天地。此処に顕現せよ、伝説神! 神格化ァ‼︎」
「太陽の衣纏し勇者。希望と絶望の狭間でのたうち回り、その先に見出すは紅き覇道! 我は神也! 鳳凰神! 神格化!」
レイガもレイズのノリに合わせ無駄な詠唱をする。
「やめろ、やめろォォォ!」
「これで! 終わりだァァァ!」
夢、幻、神、龍の四つの宝玉を天地の剣に嵌めた。
「夢幻神龍・武零頭零牙!」
二人は息を合わせ、ディ・アルシスをクロス状に斬り、十字に斬り、そして一度離れ、ディ・アルシスの周りを回り出す。
「どこから……!」
「ここだ!」
斜め右前から、斜め右後ろから飛び出てきた。そして斬りつける。
それで終わりではなかった。それをひたすら繰り返すことでディ・アルシスの肉体はボロボロになっていく。
「これで、終わりだ!」
剣先から大きなレーザーを放射し、城を破壊し尽くし、ディ・アルシスに凪下ろす。
「ガァァアアアッッ‼︎ 焼ける! 焼けてしまう! 計画が台無しになるなんて!」
やられる直前、ベルゼブブはアルシスから離れ、回避しようとするが、レイズはそれを逃しはしなかった。
「逃がさねえ! 愚鈍なる卑劣な輩に死を!」
そして、ベルゼブブは消滅した。
「アルシス!」
倒れた魔王、アルシスの元へ駆け寄るレイズ。レイガもまた同じだ。
「……ぐっ」
彼は目を覚ますと状況が理解できず辺りを見渡す。そこに城はなく、あるのは瓦礫の山だった。
「終わった、のか……」
「終わりだアルシス」
「忌々しい勇者め……貴様らさえいなければ……」
「はっ、どの道お前は俺たちがいなくてもいずれベルゼブブに乗っ取られていたさ。俺がお前から聞きたい言葉はそんなんじゃない。……。……どうして、サラを、リリスを愛さなかった」
「リリスを愛さなかった? バカを言うな、我はリリスを心の底から愛していた」
「冗談はよせ。愛する妻を敵地に送る夫がどこにいる。敵に見初めてしまう危険性だってある。実際に、あいつはレイガのことが気になっていた。俺なら、絶対に妻を危険な場所に行かせやしない」
「黙れ……」
「黙れ、か。もう、それは聞き飽きた。……リリスをちゃんと愛せば、こんなことにはならなかったのかもな……」
その言葉を聞き、レイガは目を閉じた。彼も思うところがあったのだろう。
「それに、ベルゼブブのことも確認しておけば……。もう過ぎたこと、か」
アルシスは何も言わなかった。
「……俺に話すことは何もない、か」
アルシスは、これまた突拍子もない事を言う。レイズとはまともに話す気は始めからなかった。
「……いずれ新たな魔王が貴様らを殺す。次こそ、我が悲願の達成となるのだ」
「お前は懲りない奴だな」
大きく笑い、魔王アルシスは消えて行った。そして、大地が揺れ出す。
「魔界が壊れて行く……」
大陸は海面よりも低くなり、海に沈んでいく。
空中に飛んで逃げた二人は悲しげな顔をしていた。
「いつか生まれ変わった時に、また会えるよな」
「信じれば、きっと会える」
「そうだな、信じよう。じゃあ、俺たちの国に帰るか!」
二人は、後のデグラストル王国となる大陸へと飛んで行った。
レイズの戦いはこれで終わった。彼にとって、辛い二十年の戦いだった。出会い、レイガを授け、別れ、そしてまた出会い、戦って、また別れて、苦しみの差中、戦い抜いた。その先に待っていた未来は、果たして彼の望んだ物なのだろうか。それは彼のみぞ知る。
次回予告
一つの野望は潰えた。だが、野望とは知能を持つ者がいる限り消えはしない。また、新たな支配者が誕生する。彼もまた野心家。巡る、巡る、輪廻。果てしないこの螺旋階段に終着点はあるのだろうか。
次回 ORIGIN LEGEND 第十四説 それが帰る国デグラストル
いつか帰るところがある、それは底知れぬ安堵。
※解説※
殺人鬼の目:瞳孔が縦に細長くなり、充血している。殺人鬼とは比喩であり、イカれ狂っているような事を総称してそう呼んでいる。