第十二説 最後の魔族称号、サタン
前回のORIGIN LEGENDは。
狂気の存在ともいえるベルゼブブと出会う二人。レイズは、激昂するが、ベルゼブブはそれを無視し、魔族称号を復活させ、戦わせる。更に怒れるレイズ達の前に、大量のサタンを呼び出した。レイガがこれを食い止めると言い張り、説得させられたレイズはベルゼブブの後を追う。
魔族称号サタン、その名の通り魔王が持つべき名前。何故、その魔王が沢山いるのか。魔族称号は皆全て改造人間ではなく魔族とリリスは言った。では、目の前にいるのは何者なのか。答えは簡単だ。次の魔王になりうる魔族なのだ。それが、数百体もいる。本来、魔王は死ぬと魔族は一度滅び、また新たな魔王と魔族が誕生する。この場合の次の魔王とは、今の魔王が王の座を退いた時である。
「来い、所詮私の敵ではない!」
片腕を失おうとも、彼の勢いは止まらなかった。サタン達の持つ純粋な戦闘力は、遥かにこれまで戦ってきた魔族称号よりも強い。しかし実戦経験がないため、それを活かしきる前にレイガに斬られる。
それでも、サタンはまだ沢山いる。別の部屋で待機しているのか、一人倒すとまた一人増えている。これではキリがないとレイガは判断し、一度後退しようとする。魔術が使えないだけで大きく戦況が変わる。それを痛感させられると歯ぎしりを無意識のうちにしていた。多勢に無勢とはまさにこのことだ。どれだけ自分が強くとも、終わりの見えない敵の数には圧倒される。
追ってくる敵を斬っては下がり、その繰り返しをしているうちに壁に追い込まれた。
「くっ……」
覚悟を決めたからにはこの状況を打破しなくてはならない。それが天地の勇者であるための一つの要因。なによりも、父の元へサタンを行かせてはならない。
「絶対に、食い止める!」
右腕がなくとも、左腕さえあればまだ戦える。
再び前進し、敵をなぎ倒していく。その中で、一人部屋を出ようとする者がいた。レイズの元へ行くつもりだ。それだけはさせないとレイガは雄叫びを上げ、跳び、サタンの頭を踏み潰しながらそれに辿り着き、斬る。
「父を煩わすわけにはいかないのだ!」
ここで零の宝玉を使えたらどれだけよかったか、などと戯言を言っている場合ではない。しかし、どこか使いたいという思いはある。
速度が段々と落ちてくる。腕も動いている感覚がなくなってきた。孤軍奮闘虚しく、力が落ち、殴られ続けられる。意識は朦朧とし、顔は凹み、傷口は開いていくばかり。
「私は……まだ……」
そこで完全に意識は途絶えた。
レイズはただ走り続けた。ベルゼブブの姿は見えない。しかし、道は一本だ。この先に待ち構えているはずだ。追手はいなかった。レイガが持ち堪えてくれている、そう彼は信じている。それを無駄にするわけにはいかない、だからひたすら走り続けた。そして、扉をこじ開けた。部屋は暗く、視界に入ってくる情報は少ない。
「出て来い!」
大声で叫ぶと、すぐに姿を現した。
「そんな大きな声で言われなくてもわかっているよ。くっくっ、僕ももう逃げないよ。ここで終わらせてあげる」
暗かった部屋が明るくなり、そこが玉座だとわかった。奥に異様な気配がする。そして座っているのは、魔王。
「お前が、魔王か」
魔王は無言だった。その左隣にベルゼブブが立つ。
「本当の力を見せてあげるよ」
ベルゼブブは、なんと魔王に自ら吸収された。
「憑依したのさ。私の頭脳と魔王様の戦闘力を兼ね備えた最強のね」
「そんなことはどうでもいい! 答えろ魔王! どうしてサラを……リリスを殺したんだ! そして何故世界を支配しようとする!」
魔王は口を開いた。その言葉は決してレイズが求めているものではなかった。
「我が名はアルシス。我は今貴様と同じ状況だ」
「何を言っている……」
「妻が殺され、息子が戦う。それは、貴様もであろう?」
サタンの内の一人は、或いは複数人はアルシスの息子だというのか。
「は……? いや、待て。リリスはお前らが殺したんだろうが」
「何を言っている。貴様が殺したのだ。誑かした上でな。……世界を狙う理由、か。ふん、別に世界などどうでも良い。単純に天地の勇者という我が宿敵たる存在を完膚無きまで叩き潰すだけが目的。そのためにリリスを送り、この城に辿り着かせようとしたわけだ。そこまでに死ねばそれまでだった。しかし、考えた通りに事は進んだ。よって貴様らは力を失い、我の前に這いつくばるのだ」
「黙って聞いていれば、ふざけたことぬかしやがって……」
この時レイズは気付いた。情報が錯誤していることに。
「まさか、魔王。お前嘘を吹き込まれているんじゃないのか?」
「何を言う。全てベルゼブブから聞いている。我の優れた右腕からな」
事は一変した。
「ああ、そのベルゼブブだよ。お前は信用しているつもりかもしれないが、ベルゼブブはダシにしたようだぜ」
「何」
「リリスは、バハムートとアポピスに殺された。俺たちを庇ってな。確かに、半分は俺が殺したようなものだ。守れなかったからな。だが、手を下したのはあの二つだ」
「嘘を言うな。リリスはバハムートとアポピスに……?」
「おい、ベルゼブブ。さっきから何黙っていやがる。俺はお見通しだ。冷静にさえなれば、どこまでも頭は冴えるんでね」
「ちっ、気付かれたか」
「ベルゼブブ、お前何を! ガッ、ウグッ⁉︎」
アルシスはもがき苦しみ出した。
レイズは、頭をコンコンと指でつつきながら話した。
「お前の頭脳とやらは大した事ないようだな。わざわざ自白してくれてありがとうよ」
「だったらどうした! 僕の計画は最終段階だ!」
「ッ、グァァァッ! やめろ! ベルゼブブッ!」
やがて苦しみが終わると、アルシスの姿は変わり、冷酷な顔をする。
「……我はディ・アルシス。この世の全てを破壊し、創り出しこの手で掴むもの」
アルシスはベルゼブブに取りこまれ、ディ・アルシスへと変貌したのだ。
「最初から、全部お前が裏を引いていたわけだ。尚更許せねえよ……許すわけにはいかねぇ!」
「最後の戦いを始めよう」
二人の激しい激突と共に、始まる戦闘。
レイガが再び意識を取り戻すのはそう時間はいらなかった。踏み続けられ、痛みが蘇る。
「調子に乗るな……!」
グリンと回転し、蹴りを入れる。
「どうせ意識を失うくらいなら……!」
最終手段を使うしかあるまい。そう考えたレイガはリリスが殺された時の情景を思い出し、憎しみを増大させ、零の宝玉を出現させようとする。しかし、それはなかった。力が失っていたわけではない。神格化をしていないからだ。だが、当の彼は神格化していると思い込んでいる。
「何故だ……っ、ならば!」
全身全霊を込めて一人一人に一撃を放つしかない。終わりは必ずある。その終わりが来るまで、ただ戦い続けるだけだ。
殴るたびに肉体が段々と朽ちていく。これでもう何百体倒したのだろうか。希望の道筋はあった。サタンの補充がなくなったからだ。
「サラに、詫びろ!」
そうこうしている内にあと数人になっていた。
「ようやく、か……」
息は乱れ、その場に膝を付く。
「ここからが本番だ」
アルシスの息子と思わしきサタンの一人が喋った。
「くっ……」
「親子対決の決着といこうか。俺はうずうずしていたんだ。お前を殺せることをな!」
レイガの腹を思い切り蹴った。
「ガフッ!」
「お前のせいで母さんが死んだ。許さねえ、許さねえ! お前さえいなければ!」
ひたすら蹴り続け、最後には地面に叩きつけた。
「なんで生きているんだよ……なんで母さんじゃなくてお前が生きているんだあ!」
「だ……まれ……」
「お前に俺の気持ちがわかるか⁉︎ 母を失う気持ちが! お前みたいな温室育ちが、わかるっていうのか!」
「っ……わから、ないだろう……わかりたくもない……君の気持ちなど……。だが、私とて、母は失った。こんな私を愛してくれたサラも失った……その気持ちだけなら、君に負けるつもりはない……!」
「だ、黙れ!」
魔王の息子は更に押さえつける。
「グゥッ……一つ言わせてもらうが、そんな気持ちがどうとかで、私に勝てるわけがない! 同情が欲しいか! ならば同情という名の拳をくれてやる……!」
「その格好で!」
ガン! っと更に強く蹴る。
「説得力なんて皆無だ!」
また更に蹴る。しかし、レイガは足を掴み、振り払った。
「まだ力が……」
レイガは遂に、父の持つあの殺人鬼の目になった。
「なんだよ、その目つき……何なんだよ!」
ゆっくりと立ち上がり、睨みつける。
「私は……俺は、君を、貴様を倒す」
「おい、なんだよ……」
怯んだ瞬間、レイガは顔を殴っていた。
「なっ……」
ドサリとそれは倒れ、気絶した。残りを見渡すと足が震えていて、戦意喪失していた。
「俺に、勝てるわきゃねえだろうが……親父を助けにいかねえとな……」
まるでその口調はレイズが乗り移っているようだった。だが、殺人鬼の目が元に戻るとレイガの口調もまた戻る。
「早く……行かなければ……父が……」
少しずつと確実に歩を進め、父のいる玉座へと向かった。
次回予告(2/17予定)
昨日、幾つもの出会い。今日、幾つもの戦い。明日、幾つもの別れ。希望が、野心が、絶望が、彼を取り巻く。明日は今日の糧なのか。昨日は今日の経験なのか。いや、そんなわけがあるはずがない。今この瞬間こそだけが、全て。
次回 ORIGIN LEGEND 最終決戦、ディ・アルシス
希望とは苦しみ、絶望とは楽しみ。