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ORIGIN LEGEND  作者: 星月夜楓
レイズ編
12/27

第十一説 堕とされた蠅王、ベルゼブブ

前回のORIGIN LEGENDは。

バハムート、アポピス。その二つの強敵に苦戦する二人は、サラを失う。その悲しみ、怒り、憎しみが糧となり零の宝玉を顕現させた。我が身宿る最強の力を持って二つを消し去るが、二人は倒れた。

 レイズ達はゆっくりと目覚めた。最初、状況が理解できていなかった。前の戦闘の記憶がほとんどなくなっているからだ。


「……なんで寝ていたんだ? 確か、バハムートに撃たれて……」


 ぐらりとよろめき、立つとレイガを揺さぶる。


「……」


 揺するな、私は起きているぞ……。それにしても、一体何が起きた。


「俺たち、頭が混乱しているな」


 視界がまともになってくると、リリスが倒れていることに気付く。


「サラ?」


 当然、返事は返ってくることはない。彼女は死んだのだから。


「嘘、だろ?」


 瞳孔が開いている、脈もない。


「俺たちを庇ったのか……」


 ズキッと頭痛が起きる。段々と記憶が蘇ってきた。


「そうだ……サラは……」


 全てを悟ると、俯き、彼女を抱える。その時に二つの宝玉が落ちた。


「……ん、今何か。レイガ、彼女を頼む。せめてこいつが愛していたお前が弔うんだ」


「ああ……」


 レイズは手渡すと、落ちた宝玉を拾う。


「夢と幻。なんでサラが宝玉を?」


『勇者受容宝玉出現』


 伝説神が応える。


「最期に俺たちを認めたから、か。……お前の想いは俺が受け継ぐ。だから、安らかに眠ってくれ」


 レイガは無言のまま弔った。


 全てが終わると、地べたに座り込む。


「数奇な運命だった。もし彼女が人間だったら、話は違ったのかもな」


「……」


 何故、彼女は私をここまで……。私は、何という愚行を重ねたのか。もっと彼女に優しく接するべきだったのかもしれない。っ、今更後悔など……。


 自己嫌悪に陥りそうだったレイガに、夢の宝玉が光り出す。まるで彼を励ますかのように、彼に語り掛けるように。


「『本当の愛をきっと見つけ出して。それが私の愛であり、貴方の愛』、か。レイガ……あいつはお前のことを」


「……理解」


 わかっている。言われなくても。


「そうだな。でも、まずは魔王を倒す。それが俺の道なんだ」


「同感」


 もはや奪われる能力すらなくなっていた彼らに苦痛はなかった。レイガの右腕は相変わらず再生していない。レイズも翼がなくなり飛べなくなっている。


「行くぜ」




 来た方向とは逆の扉を開け、先に進む。もはや一本道であり、すぐに次の部屋に辿り着いた。書斎のような部屋であり、薄暗い。そこに一人の男が高級そうな肘掛け椅子に座っていた。


 その男は二人を歓迎した。


「やあやあ、よく来たね。感心したよ。あの二つの化け物を倒すなんてね。ああ、彼女のことは残念だった。リリス、彼女は愚か者だった。魔王様に変わらず忠誠を誓っておけば死なずに済んだものを」


「貴様、何者だ」


「まあそうせかすな。……仕方ない、まずは自己紹介といこう。僕の名前はバアル・ゼブル。魔族称号はベルゼブブさ」


 彼は一人、語り始める。


「僕は元々天空界の幹部だった。だけど神龍が僕を追放した。邪な考えをしていたせいでね。くくっ、それは何も問題じゃない。重要なのは魔王様だ。彼は僕の全てを受け入れてくれた。いわゆる右腕にしてくれね、この魔界の頭脳となったわけさ」


「……つまり、お前は司令塔というわけか」


「そう、その通り。リリスから情報を受け取っていたのは僕さ。彼女の髪の中に蝿を忍ばせておいて共有していたんだ。故に君たちの事は殆どお見通しだし、恐ろしいのは良く知っている。僕はほとんど戦闘能力はなくてね、君たちと争うつもりはないよ。どうせ魔王様が君たちを始末してくれる」


 その話は彼にとってもはやどうでもよかった。情報が行き届いていたのは周知で得るため。それよりももっと知りたいことがあった。


「聞きたいことがある。俺たちの能力を吸収しているのはお前の仕業か?」


「ふむ、それか。半分は正解だ。装置を作ったのは私でね。おおっと、これ以上は言えない。続きは魔王様から聞くが良い。そして絶望しろ」

「……話にならない、と。じゃあさっさと死ね」


 レイズは一気に間合いを詰め、ベルゼブブを斬ろうとする。


「うひゃあ! こわい!」


 ベルゼブブは巫山戯ていた。自らの体を大量の蠅となりその場から逃げる。


「くっ! 貴様ぁ!」


「おっと、そんな怖い目をしないでよ。蠅で体を構成されているのはわかりきっていることだろ?」


「っち……」


 レイガは苛立ちを覚えていた。ここで炎の魔術を使うことができればどれだけ良かったか。この部屋を燃やし、蠅をまとめて処分しようと思っても、今その力は使えない。


「言っただろ。君たちとは争う気はないってね。代わりに僕の玩具(オモチャ)と遊んであげてよ!」


 そう言ってベルゼブブは消えた。その後、爆音が轟き、多種多様の咆哮が聞こえてくる。


「なっ、なんだ⁉︎」


 窓を開けると今まで戦ってきた魔族称号が魔王城を囲んでいた。


「あの野郎、死体を弄びやがったな!」


 彼は激しく憤りを感じている。死体遊びは彼が一番怒りやすいものだ。ベルゼブブは彼を焚きつけて何かを企んでいるのだろうか。


 仕方なく、外に出て再び対峙することになった二人は、それぞれ分かれて行動した。


 レイズはオーガ、イフリート、ティアマト、バハムートと。レイガはゴモリー、シパクナー、アポピスと戦うことになった。




「さすがに相手もそこまで元々の力はないが、数が多すぎる!」


 全体的な攻撃は不可能だったので各個撃破するしかなかった。しかし相手は容赦なく全員で襲いかかってくる。


「……っ!」


 迫り来る数多の攻撃を潜り抜け、確実に斬る。これまでの旅の成果もあってか、以前よりも自前の力は強くなっていた。そのおかげでイフリート、オーガ、ティアマト、ゴモリー、シパクナーはすぐに倒すことができた。が、かなり体に負担をかけたため動きが鈍る。


「あとは、お前だけだ……俺はお前を許さない……殺しても殺しても殺しても! ……何度でもぶっ殺してやる‼︎ 俺の気が済むまで‼︎」


 最後の力を振り絞り、瞬間的に間を詰める。もはや言語能力を失っていたバハムートはただ雄叫びをあげ、レイズを殴る。殴られても彼は止まらず殴り返す。何十回何百回も。そのうち腕の神経が切れ、動きが止まる。


「ガァァァッ‼︎」


 最後は頭突きは吹っ飛ばした。ドサリとその場に倒れ、再び起き上がることはなかった。




 レイガは蛇を滅多刺ししていた。まるで包丁で魚を扱うかのように。アポピスが動かなくなると、呼吸を整え、レイズのいる方へ向かった。


 レイズは、目の前にいる殺気を感じ取っていた。まだ、残っていたのか、と。しかし体は動かないのでどうすることもできなかった。


「やってみろよ……」


「……」


 向こうも動くことはなかった。何故、そう思いながら薄目でそれを見るとリリスがいた。


「サ、ラ、か……いや、お前は、もう、リリス、なんだよな……」


 リリスの手には毒で作られた剣があった。


「……」


 膠着状態だった。リリスにもはや感情はない。だが、何かが彼女を止めている。生前の意思がまだその体に宿っているというのか。


 彼女が何か言おうとした瞬間、剣が彼女を貫いた。やったのはレイガだった。


「もう……」


 もう、やめてくれ。これ以上私たちを苦しめないでくれ。これは、決別のための剣。


 崩れ落ちるリリスの体。レイガは俯き、涙を流していた。


「レイガ……」


 その一部始終を見ていたレイズは嘆いた。


「ベルゼブブ……良くも俺達を、サラを弄んだな……」




 怒りの矛先をベルゼブブに向けた。彼らは再び城に入り、すぐにベルゼブブの部屋に到達する。次の部屋を開け、どんどん奥へと進んでいく。


「どこだ! どこにいる! 今すぐ俺と戦え!」


 血眼になって探していると、異様な扉があることに気付く。


「……」


 それを開けると、大広間に出た。


「よく来たね……まさか、玩具を倒しきるとはね」


 案の定、ベルゼブブはそこにいた。


「だけどまあ、君たちは僕とは戦えない」


「黙れ! 今すぐ息の根を止めてやる!」


「人の話を聞けよ……ほら、そいつらが相手してやるから」


 ぞろぞろと謎の生物が行く手を塞ぐ。


「待て‼︎ 俺と戦え! 正々堂々と俺と戦えェェェッッ‼︎‼︎」


「ククク、ハハハハハハハッ! 行け、サタン。奴らに絶望を」


 目の前の奴らは、そう、彼の言う通り最後の魔族称号サタンだった。


「サタン……」


 サタン、だと。まさか、これら全てが? 一体何体いるというのだ。


 あくまでも冷静だったレイガは固唾を飲む。


「ふざけやがって……!」


 状況を認識していないレイズは無理やりでも押し通ろうとする。その意を汲んで、レイガは彼に話しかけた。


「……。私、全て」


 私がこれら全てを相手する。父は先に行くんだ。父がベルゼブブを、そして魔王を倒せ。


 その声に我に返ったレイズは。


「っ、お前をおいて、いけるかよ」


「行け」


 レイガは、彼を突き放した。


「……約束しろ。しっかりと全滅させると」


「約束……」


 約束とは破るためにあるもの。……しかし、父との約束は守ろう。


「ああ。……任せたぞ」


 レイズは跳び、ベルゼブブの後を追った。


「神格化……父の邪魔立てはさせない。私が食い止める。さあ、来い。サタン共よ」


 神格化は、実はしていなかった。できなかったのだ。だが彼は、話していた。今まで話せないと思い込んでいただけかもしれない。それとも、覚悟を決めた彼が何かに突き動かされ、変わったのかもしれない。




 終幕の始まりを伝える金属音が鳴り響く。

次回予告(2/11予定)

始まりがあれば終わりがある。言っただろう。そう、この世とは、表裏一体なのである。全てはこの時のために、全てはこの瞬間のために。

次回、ORIGIN LEGEND 第十二説 最後の魔族称号、サタン

紫の血潮に染まり、彼は叫び、終焉の焰を灯す。

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