第十説 怒り、憎しみ、悲しみの果てに
前回のORIGIN LEGENDは。
番人であるシパクナー、それと戦ったレイガはあたかも死んだように見せたが、父を少し弄んでいた。疲れもあり、彼らは一度休み、再び城に突入するのであった。
門に再び赴いた三人は、こじ開け、入ろうとする。
「さぁ、行くぜ。ここからが本当の戦いだ。何が待ち受けているかわからねえ。これまで倒してきた魔族称号もいるかもしれねえ。考えるだけゾッとするが、逆に楽しくなってきたぜ」
レイズは少し指が震えていた。勇敢である彼も、どこか恐怖心はあるのだ。
歩を進め、門を越えた瞬間、大きな衝撃を受ける。
「ッ⁉︎ なんだ、これ……体に力が入ら、な……」
「⁉︎」
思わず倒れる三人。それぞれから力が抜けていくのがわかる。
「父……これ……」
父よ、これで俺たちはどうやら時空間に関する術を失った。
「なっ、じゃあずるい戦法が使えないじゃないか」
「おそらく……」
おそらく、奥に進めば進むほど、私達の力は失っていくだろう。どういった理屈で力を奪っているのか知らないが、かなり厄介だ。
「最悪、核の再生もできないことも想定しなきゃいけねえのか……」
歯ぎしりをするが、その後彼は笑った。
「だが、面白い! 一方的な戦いも飽きてきた頃だ。せいぜい楽しませてくれよ」
「その通り……」
先程からサラは黙っていた。怖気付いたのだろうか。
「気合をもっかい入れて、さあ、行くぞ!」
立ち上がり、城内に侵入していく。
城内は外観と違って異空間だった。歪な部屋の形をしている。
「趣味の悪い魔王だな……にしても、何か一歩進むだけで徐々に力が蝕まれていく感じがする」
レイズの言う通り、入った時の時に関する術を失ったほどではないが、確実に弱体化は進んでいた。現在では絶対零度など、最上級の魔術は使えなくなっている。
「さて、魔王のいるところはどこだ?」
空間把握が難しく、扉を開けても基本的に外に出てしまう。時間ごとに位置も変わるので記憶しても無意味なのだ。そして歩くごとに能力を失っていくので、尚更早く辿り着かなければならない。
「……くっ、今ので攻撃系魔術全部使えなくなったぞ」
次の扉を開くと、ようやく次の部屋に辿り着いた。
「はあ……お前ら、大丈夫か?」
後ろにいた二人を見ると、かなり気怠そうにしていた。
「なんとか、ね」
「私……力……」
私の力が枯渇していく。
「こりゃ最悪剣だけで戦わないといけないな……」
幸いにも、ここまで敵とは遭遇しなかった。中はほとんどガラ空きなのだろうか。しかし、安堵する暇はなかった。次の部屋は更に扉の数が増える。
「まんまと嵌められたわけだな」
それでもレイズはこの状況を楽しんでいた。いや、そうではない。楽しむ気持ちを忘れてしまっては、彼は戦えないのだ。もし憂鬱になり、戦闘に入ったとしたら。まともに戦うことなどできないだろう。見せかけの空元気で二人を平静に保てようとしているだけに過ぎなかったのだ。
扉を開けては戻り、試行錯誤を繰り返しているうちにある事に気付いた。
「時間経過と共に扉の位置は変わる。本物の扉は一つであり、それ以外は外に出る。ということは、これは異空間ではなくただの幻術」
「……? どういう、ことなの?」
「つまり、本物の扉だけは位置が変わらないというわけだ」
「じゃあ、次の変化で本物を見定めるということ?」
「ああ、そうなる。だから少し待機する」
彼らは三方向それぞれを見て、じっとしていた。そして扉の位置の変更が始まった。
「なんとしてでも見つけるんだ。時間はない」
高速にぐるぐると目まぐるしく扉が動く。
「くそ、これじゃまるでわからねえ。魔王の野郎、俺が感付いたことに気付きやがった。それでこの回転速度か。さっきまでの動きと違う」
レイズは、いや他の二人も諦めなかった。必ず本物を見つけ出してみせると。
「仕方ねえ、多分これが唯一残った術だ。はじめから使えば良かったかもしれねえが、確実にいけるとは思えないからな」
それは探知系魔術だった。少しだけでも良い。敵の気配をほんの少し探知すれば、それでどうにかなると彼は踏み込んでいた。
「……」
カッと目を開き、血眼になり位置を探す。敵の位置は見えたが、錯乱している。
「そうか、そうだったのか!」
レイズは気付いた。気付かない内に自らの足場が回っていたことに。
「しょうがねえ、多分これで動いたらこの探知は使えなくなる。だが、もう遅い!」
一歩踏み出すと、探知の魔術が奪われそうになる。しかし、その奪われる前のその瞬間、敵の位置が判明した。
「ここだ! ついてこい二人とも!」
果たしてそれは本物の扉なのか。開けると外ではあったが、別館の塔の屋上だった。
「これが正解なのか?」
先ほどまでの外に出た時は力を失う感覚はなかった。今回はそれがあるため、正解なのかもしれない。
「ああ、正解だ。そしてここがそなたらの終着地」
声が聞こえた。新手の敵か。
「誰だっ!」
「我ら魔王の側近、バハムート」
「同じく、アポピス」
「ついに幹部がお出ましか」
バハムートは大きな魚に翼を生やし、飛んでいた。アポピスは大蛇であり、地面から飛び出てきた。
「どうする? レイガ」
「神格化……無論、戦うぞ。私はアポピスと戦う。父はバハムートを」
「わかった。気をつけろよ!」
レイズは翼を広げ、バハムートのいる空に飛んだ。
ここ、屋上は相当な広さであり、戦闘するには申し分なかった。
「魔族称号アポピスと言ったな……御伽噺では太陽邪神ラーに座を追われ、それを憎みラーと敵対する。ふん、私もまた鳳凰神であり、太陽の力を持つ者。私の敵としてこれほどまでに合った者はそうはいまい」
「御伽噺などどうでも良い……あれはただの空想の産物である。我に与えられたアポピスの称号はこの大蛇になることにこそ意味がある」
「確かに、君は本物の御伽噺のアポピスではない、ただの元人間だ。しかし、例え話としては面白いということだ。ユーモアの欠片もない輩とは、私は少々残念である」
一つはっきりしたことはある。御伽噺の通りのアポピスではないということは、奴は不老不死ではないという可能性もある。
「だが、同時に君が太陽が弱点であるとは限らないとなる」
「何を独り言をほざいている!」
レイガの周りを囲み、噛み付いてきた。
飛ぼうとしたが、尻尾が左足に絡みつき、遮られる。
「チッ!」
頭をそのままもぎ取られそうになったため、左に下げるが、右肩を持っていかれる。ぼとりと右腕が落ち、痛みが走る。
「やるな……」
「力がなくなった天地の勇者など敵ではない!」
左足に絡みついていたものは一度解放されると今度は体を巻き込んでくる。
「速いっ⁉︎」
「喰らえ」
レイガは持ち上げられ、大きく叩きつけられる。
「ガハッ‼︎」
一方的な戦いだった。もはや余力のなかったレイガは何度も繰り返し地面に激突させられる。回復もままならなかった。
「最初の威勢はどうした!」
「ゴホッ……迂闊だった……ガァッ! ァグッ! 私の力がここまで無くなっていたとは……! カッ……」
油断をしていたわけではなかった。だが、自分の力を見誤ったばかりに、こうなってしまったのだ。
力尽きると放り投げられ、地面に伏す。
「ハァ……ハァ……」
「つまらない……力のない勇者などここまでつまらないものか。哀れだな、神の器はただの器でしかなく、それが使えなければただの人間と何も変わりやしないのだ!」
「言わせておけば……ッ!」
体は動かなかった。素直に悔しいという感情が湧き出てくる。
単純な強さも、これまで戦ってきた敵とは違う。幹部の座は伊達ではない。
レイズもまた苦戦を強いられていた。バハムートも水属性であり、なにかと鉄砲水を放ってくる。避けきれず、翼を撃ち抜かれ、よろめいたところをはたき落とされる。
「グァァァッ‼︎」
「これが水の使い手だと? 笑わせてくれる」
ここまで魚の形をしていたバハムートは龍の姿に変わり、追撃しようとする。
「くそっ、ここまでなのか……! 神格化するしか、ない!」
神格化するとほんの少しだけ動けたが、間に合わずバハムートの爪が体を貫通し、苦痛となる。
「な……にっ……」
バハムートは投げ捨て、アポピスと並び立つ。
「天地の勇者達よ、これで終わりだ」
二つは力を合わせ、氷の槍を投げた。
だめなのか、ここで俺たちはシパクナーの言った通り朽ちてしまうのか。と、レイズは嘆くと地面に大きく拳をぶつける。
「やっぱり、嫌だよ……嫌ァァァ!」
これまでずっと黙っていたサラが突然前に飛び出て、槍を止めた。止めたのは体だった。
「ゴポッ……」
「サラッ‼︎⁉︎」
吐血し、その場に倒れ伏す。
「ごめんね……私、やっぱり無理だった」
「何を言っている!」
「きづ……かなかった……の……? 私はずっと、貴方達の味方じゃなかったの……。ゲホッ……おかしい、とは、思わなかっ、た? オーガの襲撃、も、ゴモリーの時も、イフリートも……」
「え……?」
「オーガは、はじめからあの村にいた……貴方達がわざわざ村を訪れて、好都合だったの……でも倒してしまった……だから、ゴモリーを呼び寄せ、操られたふりをして追い込もうと思った……でも、やっぱり倒してしまった……」
「そうか、だからあの時いなかったのか」
「それで最強のイフリートを呼んだ……そしたら貴方達は、自らの精神をほぼ使って絶対零度と絶対熱を使って倒した……魔族にとって危険だと思ったから使わないでって言ったのよ……貴方達のためなんかじゃなかった……」
イフリートがあの時任務対象はサラと言ったはずだったのに、レイズ達を倒したと思った時に任務完了と言ったのもはじめから狙いはそうだったのだと彼女は言いたいらしい。
「……でも、待ってくれ。俺は確かにお前の洗脳の元を絶ったはずだろ」
「あれは偽物……私は嘘をついていた……皆も口合わせしていたの、魔族称号は改造人間じゃない、はじめから魔族なのよ……」
サラは本来の姿となった。肌が紫がかり、牙を生やす。
「なっ……」
「あの村も最初から魔族のもの……泊めてもらったジェールも魔王を慕っている……全て貴方達を陥れるために……」
「……」
「サラも、とっさに思いついた偽名……」
「全部、嘘だったのか」
「それでも、一つだけは嘘じゃない……私は……」
「リリス、もういい。貴様は奴らに情が移ってしまった裏切り者だ。魔王様を裏切った最低のな」
「黙っててバハムート……そう、確かに私は魔王の妻だった」
衝撃の事実が彼女の口から出る。
「でもね、私はレイガを好きになってしまった。バハムート、あんたの言う通り最低の女よ……。はじめは勘違いだった。でも彼を見ているうちに惹かれていってしまった。魔族がどうとか、そんなの問題じゃなくて」
「サラ……」
「それで、見捨てるわけにはいかなくて、庇ったら、こうなっちゃった……」
「もう、話すなサラ……傷口が開いて死ぬぞ」
「死んでもいいの……死ななきゃアルシスにも、レイガにも、罪滅ぼしができない……」
「やめろ!」
「バハムート、アポピス、彼らの底力を侮らないで……」
「なんだと?」
「貴方達は負けるわ。私の死で」
「やめろ、サラァ!」
「グッ、ガハッ!」
リリスは自ら槍を動かし、傷口を広げていく。
「さよなら、レイズ、……愛していたわレイガ」
血が噴出し、彼女は死んだ。
「サラァァァァァッッッ‼︎‼︎」
「そんな……」
「馬鹿な女だ。魔王様を愛し続ければこうはならなかったものを」
「黙レ‼︎ お前にサラを侮辱する権利など、ナイ!」
レイズは殺人鬼の目になった。口調も狂い出す。
「その無様な格好で良く口が利けたものだな」
「殺ス……貴様ダケハ絶対ニ殺ス‼︎」
レイズはよろめきながらも立ち上がり、咆哮する。すると、目の前に謎の宝玉が出現した。
『これは零の宝玉。使い切りで、使えばお前の神経はズタボロになる。だが、その代わりに今現在持っている全ての力を収束し、本来今は発動できない絶対零度を発動させることができる』
伝説神は悠長に語った。レイズはそれを握り潰し、叫ぶ。
「絶対零度‼︎」
バハムートを一瞬で凍らせた。
「バハムート⁉︎ バカな、奴にそんな力は残ってないはずだ!」
「サラハ言ッテイタ……俺ノ底力ヲ侮ナト……ソシテ、サラノ死デ貴様達ハ負ケルト!」
殺人鬼の目から天地の紋章である天地鳥の目となり、バハムートを砕く。
「次ハ、貴様ダ……」
「やめろ、やめろやめろ! くるな!」
だが、零の宝玉の効力は切れ、レイズは倒れた。
「私も許すわけにはいかない……無限の業火に焼かれ、死ね」
レイガもまた天地鳥の目をし、零の宝玉を発現させ、握り潰す。
「絶対熱‼︎」
アポピスを焼き付くし、溶かす。
「アアアアアアアアアアアア‼︎‼︎‼︎」
「サラ……ありがとう……」
レイガもまた倒れる。
リリスの死体から、夢と幻の宝玉が出現した。宝玉は零の宝玉を除き、勇者を認めた時、生まれ出てくるもの。レイガを愛することは、レイガと共に生きることは夢、幻の事だった。彼女はそれでも彼を愛したかった。その想いが宝玉となったのだ。
戦いは終わり、二人が次目覚めるのは十一時間後であった。
次回予告(2/7以降)
機は熟した。これからが本当の戦い。失意の中、野望が蠢く。天はより高く、地はより深く。交差する想いが彼らを突き動かす。
次回、ORIGIN LEGEND 第十一説 堕とされし蝿王ベルゼブブ
たった少しのきっかけが、結果を変える。
※解説※
零の宝玉:神格化時の天地の勇者が憎しみのあまり力を解放した物。本来の宝玉とは違い、天地の剣に嵌めることはできず、また出現方法も違う。使い切りであり、発動すると自らの最強の技をたとえ封印されていても発動させることができるようになる。ただし、使う代わりに精神はやられ、神格化を強制解除する。神格化をしなかったレインは零の宝玉を使う機会はなかった。もし使っていた場合、絶対威力を発動させ、あらゆる万物を破壊する力を得る。