第九説 最後の門番、シパクナー
前回のORIGIN LEGENDは。
生命の母と言われるティアマトの称号を持つ女に挑むレイズ。御伽噺のように真っ二つにするが、その後に苦戦を強いられる。しかし、絶対零度と同等の力を使い、辛くも倒すことに成功する。肉体的には疲労はないが、精神的負担が重くのしかかり、次は戦えそうにないと判断した。それでも先に進むと決めたレイズは、城の門まで辿り着く。
魔王の城に到着した彼らは、巨大な何かがあることに気が付く。門は見えない程に大きいそれは、彼らの存在を知ると塊から変形し、巨人に姿を変える。オーガよりも更に大きい。自重を無視し、浮いているのだ。これで動きが遅れることはないということらしい。
「やっぱり門番みたいなものはいるものだな。……称号を聞こう」
「……我が称号はシパクナー。最強の巨人」
「ふっ、最強の巨人が門番とは中々にお笑いだ」
レイズは睨んでいた。最強の巨人が本当と仮定して、それでもなお門番しているということは、更にその上がいるということだ。
「笑うなァ!」
「まあ、待て落ち着け。お前の相手は俺じゃない」
「私……」
私が相手だ。父は疲弊している。
「なんだ、気付いていたのか」
「……ふん。神格化」
レイガは早速神格化を発動させ、後ろに飛んだ。
「君の間合いにいるべきではないと判断した」
レイズもサラも後退する。
「良い判断だ……ウォォォォッッッ‼︎」
シパクナーは雄叫びを上げ、周囲全体を木っ端微塵にした。
「ふいー危ねえ危ねえ。だが、ナイスだぜレイガ!」
「私は父みたく油断はしない」
「うっ、てめえ親になんて口を」
次にシパクナーはその微塵にした物をレイガに向けて飛ばした。
「私には通用しない」
体内から炎を出し、それが届く前に消滅させる。
「我が力はこの程度だと思うなよ」
巨木を持ち出し、ふん! と気合いを入れて大きく振ってきた。
「っ!」
レイガはそれを避け、木を燃やそうとするが、念力が込められているせいか塞がられてしまう。
「無駄だ!」
ぶんぶんと振り回し、レイガに隙を与えない。
「ならば、こうするまでだ」
時止めを発動した。はるか上空まで飛び、解除する。
「消えたっ⁉︎ 一体どこへ!」
先程まで視界に居たレイガが消えたことに困惑する彼は、辺りを見渡す。
「ここだ」
レイガは、太陽の力を浴びていた。魔界は本来雲に覆われているが、雲さえ通り抜けたのであれば話は別だ。オーラを纏い、まるで本物の鳳凰のような形をする。そのまま頭から落下した。
凄まじい音と熱がシパクナー目掛けて飛んできた。彼は巨木で防ごうとしたが、貫通し彼を焼いていく。
「あづい……! 熱いィィ‼︎」
レイガは離れ、シパクナーの様子を伺っていた。
「……」
シパクナーは動かなかった。焼いたとはいえ原型は留めている。
「お疲れさん、レイガ」
「これで城に入れるね!」
サラが門を通ろうとする。しかしレイガはそれを止めようとした。
「待て! サラ! まだ戦いは終わってなどいない!」
「え?」
振り返ってレイガを見ていたサラの後ろにシパクナーがいた。それに気付くと目を丸くし、息を呑み、後退ろうとするが、小石にぶつかり倒れる。
「嘘……」
「邪魔だ」
シパクナーは死んだ振りをしていたのだ。その大きな拳で叩きつけようとした。
その瞬間、レイガは時空間転移術でサラをレイズの元に移動させる。
「危なかった……おい、サラ。何やってんだ」
「ごめん……」
「話は後だ。私を怒らせるとは中々に良い度胸をしている」
「我が死んだ振りを見抜いたとは貴様、只者ではないな」
油断しない、ただそれだけのことではあるが、それだけであるからこそ見抜けたのだ。
「しかし、天地の勇者よ……仮に我を倒しても、城に入れば貴様らの力を使えないまま朽ちるだけだ」
「どういうことだ」
「ふん……我は覚悟を決めた。最後の力を喰らうが良い!」
シパクナーは最初に見た塊となり、レイガに目掛けてぶつかってきた。レイガは、時空間転移術を使ったからか、動くことができなかった。
「ガハッ! まさか……ッ‼︎」
「我が魂の一撃を喰らえ‼︎」
押し当てたまま、シパクナーはその身を爆発させた。
「「レイガ⁉︎」」
二人は息を揃えて目の前の光景に驚愕する。
空中で跡形もなくなったレイガとシパクナー。爆発する前に核を粉砕していたので回復もできない。できるとしたらまた新たに核を生成することだ。
「冗談、だろ? だって、レイガも天地の勇者なんだぜ? 核を破壊されてもまた核を生成して復活すればいいだけじゃないか」
返ってくる言葉はない。サラはただ呆然としていた。
「なあ、もしかして神格化していたらできないのか?」
確かに、これまで二回核を再構成させた時はいずれも神格化する前のことであった。これが神格化のデメリットなのだろうか。
「そんなはずねえよな? なっ?」
彼は現実を受け入れられなかった。唯一の肉親である息子を目の前で失ったのだ。
「ありえない……よりによってあいつが? 油断などしたこともないあいつが? 陰にでも隠れてんだろ? だって再生はすぐにできるじゃねえか」
嗚咽を漏らしていた。自分でも気付かないくらいに。
「レイズ……」
城を前にして、一人の犠牲を出してしまった。
「なぁ……わざわざ魔王を倒す必要なんてなかったんじゃないか? 魔王が侵攻するなら止めるけど、ここまで来る必要なんてなかったんじゃないか? サラ! お前がミスリードしたんだ! お前が! お前がァッ!」
行き所のない八つ当たり。ただでさえ疲弊していたレイズに突き刺さる現実。それが彼の精神を更に不安定にさせる。
「わかんないよぉ……私に言われてもこんなことになるなんてわかるわけないじゃない!」
「そっか……そうだよな……俺がおかしかったんだ……すぐ調子に乗って、やらかして……また家族を失った」
もう二度とこんなことにはしたくなかったのに! そう思っていたレイズはふらりと立ち上がり、門の前に立ち、また倒れる。
「畜生……俺はなんて非力なんだ」
どれだけ失えばいいのだ。最愛の妻を失った。友であった神龍も失った。息子のレイガも失った。
「神は残酷だ……神格化などといい気にさせておいて、こんな絶望を与えるのかよ!」
神格化はこれまでメリットしかなかった。デメリットなど考えたこともなかったのだ。
「終わりだ……旅は、終わりだ」
「そうか、終わりか。残念だな。父がこれほど惨めとはな」
「ハッ⁉︎」
見上げるとレイガが立っていた。
「いや、何。中々に面白かったぞ。父は弱いな。弱いから私が守らねばならない」
「や……やっぱり最初から見てたのか?」
「無論。私があの程度の爆発で死ぬとでも? いや、爆発以前に私は死なない。少なくとも父より先にな」
「じゃあ、おかしな茶番をさせていたってことか……」
「如何にも。怒ったか?」
「当たり前だ馬鹿野郎ッ‼︎ うあああああああああ!!!」
泣き叫ぶレイズ。三十五歳だというのにみっともない姿である。
「レイガ……生きてたんだ!」
その叫びでようやくレイガを気付いたサラが泣きながら駆け寄ってくる。
「サラ、君もだらしないな」
「心配したんだから! バカバカバカッ!」
「ふん、しかし、天地の勇者ほど絶望を与えない存在は面白可笑しいとは思わないか? これほどまでに完成された核の力。まるで神が始めから物語を進めているようだ」
「しらねえよんなこと! 今はお前のことで精一杯なんだ!」
「そうだよ! この外道!」
話にならないな、とレイガは自ら仕立てたくせに彼らに落胆し、神格化を解いた。
「私……休憩……君……」
私は休む。君達もどうだ。
泣き止んだ二人は溜息をつく。
「そ……そうだな。一旦気を落ち着かせよう。城に入るのはそれからでも遅くはないだろ……」
「うん……わかった」
数時間後、精神の回復をした彼らは再び城へ突入しようとした。
次回予告(2/7以降更新)
望まないもの、それは運命。人は、流れに逆らえることなどできないのだ。流れを変えることも。逆らうものはやがて力尽き、流されて行く。命もまた、落ちて行く。
次回、ORIGIN LEGEND 第十説 怒り、憎しみ、悲しみの果てに
終わる運命に何を望むというのだ。