「あなたは何ですか?」
また思い出に戻って。
玄関にいたカミキリムシを部屋に入れ、お茶を用意した俺はそのカミキリムシにこう訊ねた。
「あなたは何ですか?」
「相手の身元を聞く前に、まず自分の身を明かすべきじゃろ?」
俺は躊躇した。俺を知っててここに来たのじゃないのか? 俺に用があるのなら、少なからず俺のことを知っていると。
「ま、お主のことは大体知っておるからどうだっていいのじゃが」
やっぱり知ってた。俺に用があったのか。
「わしは見ての通り、カミキリムシじゃ。しかしカミキリムシと言っても、とても特別な存在だ」
「特別?」
「ああ、見ての通りお主らヒトと会話をすることができる」
そうだ。そうだよ、俺はなぜ最初に「あなたは何ですか?」と訊ねたのか?
あなたは何かって訊かれても、どこをどう見たって目の前にいるのはカミキリムシなのだからさ。
問題はそこではなく、なぜカミキリムシであるあなたが、人間と話すことができるのか? ということだっただろう。
それを最初に訊ねなかった俺は、相当現実離れしてたんだな。後悔までには至らない変な感じがした。
「虫の世界にもいろいろと事情があるのだ」
「例えばどんな感じの?」
「うむ、具体的に今回の例で言うと、虫たちとの間で戦争が起こったりする。つまりは、わしらカミキリムシは他の種の虫たちと連合を組み、敵対する種と戦っているのじゃ」
「ちょっと待って。意味がよく……」
「分からなくてもよい」
は? なら何で俺とコンタクトとってるんだ? そもそもその戦争に俺がどう関係しているんだ?
「しかし、ここ最近わしらの敵対する連合軍の戦闘力が大幅に上昇したのじゃ。まるで、全く別の第三者によって遺伝子プログラムを書き換えられ、急速に進化したかのようじゃった。それからの我々は全敗での。そこで敵が急激に強くなった原因を探ったんじゃ」
「なるほど、それで行きついたのが……」
「お主らヒトの存在じゃよ。敵はある一人のヒトと何らかの契約を結んだ。それに対抗すべく、わしらは戦略ゲームが好きなお主を求めているのじゃ」
てか、戦略ゲームとか知ってるのか?
「で、その敵の戦闘力が上昇したのは、いつぐらいからなんだ?」
「はて、確か十年ほど前のことじゃったかの?」
「最近って、十年も前のことを言うのかよ?」
「まあお主らとは時間の感覚が異なっておるからの。で、わしらに手を貸す気になったか?」
「いーや。まずそれが事実だとしても、ただ戦略ゲームが好きなだけで選ぶんだったら、もっと俺より強い奴らだっているだろ? なぜ俺なんだ?」
「そうじゃの、これはお主の運命みたいなものじゃ。お主でなきゃいかん。戦略ゲームはたまたまお主が好んでおっただけじゃ。ま、これも運命かもしれんのじゃがな」
っていことがあったんだ。だから俺は今、こいつが俺に任せろと言っても半信半疑どころか全疑でしか聞くことができない。
そんなことを振り返っていると、さっきの大粒の雨は瞬く間に止んでいた。