どうせ夏休みの最終日に……
「で……、今日俺らを呼んだ理由はなんじゃ……ん?」
い、今の語尾は無理があるだろ。っていうか、今までわざとその語尾使ってたのか? もしそれが事実だったとしたら、今日中にこの世から立ち去っていただかないと。と冗談はさておき。
「えーと、いろいろ理由はあるんだ。まず一つ目が夏休みの宿題」
「あーそうだったね、ハッちゃんってこの中で一番バカだからね」
グサッ。突然すぎる。ミスリルアーマーどころか、ブロンズアーマーや皮服さえも着てない俺の胸に、サーヤの優しさに包まれた声から飛び出たジャベリンが、俺の心を躊躇することなく貫通した。
「ちょっとサーヤもなかなかひどいこと言うなぁ。確かに事実はそうかもしれないが、そういうのはこいつに聞かれないように言うんだよ。……ってね」
「ちょ、なぜそうワザとらしく言ったか言ってないかも分からないぐらいのボリュームなんだ?」
第一、どんぐりの背比べを俺といつもしている健太には言われたくねえよ。やっぱりこいつら俺に対してきつ過ぎるよ。
「ふふふ、嘘ウソ。ゴメンねハッちゃん」
「あ、でもサーヤ今日は手ぶらじゃん。宿題もってこなかったじゃん?」
「うん。宿題なら昨日全部終わらせちゃったから」
「へーすげぇ」
と俺は一言。驚いているようだが、大体の予測はついていた。
サーヤの中学三年間の成績は全てオールA。定期考査の順位は三位以下を体験したことのないトップクラスのうちのトップだ。
俺からしたら、四天王をまとめるチャンピオンってところかな? そして俺はジムリーダーにもなれず、トレーナーにもなれず、いつも同じ場所をウロチョロするキャラっていうわけだ。
「で、他に何か話すことがあるんじゃなぁい?」
お、今日のサーヤは結構冴えてるな。まさか俺が今言いたいのが夏休みの宿題じゃないことを感付いていたか。さすが優等生。
「てへへ、だってハッちゃんのことだから……夏休みの最終日になってようやく危機感を持ち始めて宿題に手を付けるけど、すぐできるだろと思っていた宿題の量が予想以上に多いことをここで初めて気が付いて『あー、これはパス!』って言って、結局全ての宿題が中途半端なまま登校日を迎えるっていうパターンAか――」
「おいおい、ちょっと待て!! 『夏休みの最終日』から早口になったと思ったら、何勢いに任せてペチャクチャ口に出すんだよ? しかもまだ他のパターンがあるのか?」
「あるわよ。だってハッちゃんって典型的な夏休みの宿題を最終日にする人だから」
「そーじゃん。どうせ今年も最終日までする気ないじゃん?」
「毎年最終日になっても手すら付けない健太にだけは言われたくねぇよ!」
「で、わざわざ夏休みの初日に『どうしても集まってほしい。あ、夏休みの宿題も持ってきてね』って私に言った理由は? まあ夏休みの宿題は、どうせ私のを丸写しするだろうから持ってこなかったけど」
チッ。冴えすぎなんだよ。
「え? サーヤそんな言われ方したの? 俺なんか『なあ健太。昔やった戦略ゲーしたくなったし、ちょっと俺ん家集合な』だけだったじゃん? それで俺が拒否したら……」
健太が言葉に詰まった。あ、あれだ。俺が「サーヤも呼んでおいたから」って言ったのに釣られたなんて、流石にサーヤの前で言えるわけがないからな。
健太ってまさか純情派? 顔が今の太陽みたいに赤くなってるけど。
「でさぁ!!」
話がそれ過ぎている。と思った俺は、少しやかましいこの二人を静めさせた。
「そろそろ、本題に入ってもいい?」
「そ、そうね」
「実は、こいつのことなんだが」
俺はそう言って灼熱地獄のベランダに置いてあった少し大きめの古びた虫かごをテーブルの上に持ってきた。
「っ!!」
「何々? これって昔よく使ってた虫カゴじゃん。何々? まさか今更虫取りがしたくなったのか?」
「ばーか。よく見ろ! もう虫が住んでるよ」
「あ、ホントじゃん。これって――」
「シロスジカミキリ。日本にいるカミキリムシの中で最大級の大きさを持ち、背中には黄色い模様がある。死期が近づくと、背中の黄色い模様が名前の通り白色に変わる」
こ、こいつ。虫の事までこんなに詳しいのか? そりゃぁ昔よく山とかに採りに行ったり遊んだりしたけどさ。ウィキペディアちゃんかよ。
「ねえ。これがどうしたの!? ねえ?」
「おいおいサーヤ、お前何熱くなってんだよ?」
「ご、ごめん……」
「んで、こいつがどうかしたのか?」
「あぁ、実は……」