リアル戦略シュミレーションゲーム
「グヌヌヌ……」
「クハハハハ―」
「ヌぁぁー!! チクショウ! 勝てないと分かってて戦う俺ってただのバカじゃん?」
「これで遂に百戦百勝だな。しかし、これほどまで戦略シュミレーションゲームに弱い人間は健太ぐらいだよ。ま、流石に今回は頑張ってたようだが」
「ウルサイうるさい! お前が強すぎるんだよ! このゲーマー」
「な! 人聞きが悪い。俺はこういう戦略ゲームが得意だから強いんだ。単なるゲーマーではない。その理由に、俺はお前のプレイするエロゲに勝てる自信は小指の皮ほどないからな」
「そ、そっちこそ人聞きの悪いことを言うじゃん! 俺はそこまでエロゲをやってるわけないじゃん! 第一、エロゲをどうやって勝負に持っていくんだ?」
「え? 早く――」
「黙れ!」
「ハァ。……脚がシビレタ……」
縛っていた縄からほどくように、痺れの効いた足を崩した。
数日前の長雨が嘘みたいに突然と止んで、梅雨もどうやら明けたようだし。今度は真っ赤に燃える太陽の少しキツイ日差しが、入道雲のじわじわと成長する青空を抜けて大地を照らしている。
そんな灼熱の光景が、冷房の効いてメチャクチャ涼んだアパートの部屋の窓から映っているんだけど、これほど分かりやすい天国と地獄ってないかもな。
「ところでさ、健太」
「んぁ、何だ?」
俺は人の部屋で勝手にオレンジジュースを飲んだり、扇風機を独占したりと、いちいち疎ましい行動をしてる幼馴染の宮井健太に声をかけた。っていうかクーラーつけてるのにそんな暑いか?
「何で異星人役のお前が、“通称・宮井 健太”って名前で登場するんだ?」
「し、仕方ねぇじゃん。セッティング時にそう入力しちしまったんだからよ」
「はぁ? でも異星人なんだし、もっとらしい名前ってないのか? 例えば、ほらこの前テレビでやってた『チュパカブラ』とか」
「それ異星人じゃなくてUMAじゃん?」
「どっちも同じじゃね?」
「同じじゃねえよ。あいつらは未確認生物じゃん」
「でも異星人も未確認生物だろ?」
「そうじゃなくて。あーもう、お前って本当のばか?」
「う、うるせぇ。そういうのはせめて一勝してから言いな」
「何にだよ……」
「決まってんだろ。リアル戦略シュミレーションゲーム『宇宙空母アトランティス』だよ」
俺は日焼けで変色した年季のある古いゲームソフトのケースを掴み、それを自分そのモノのように誇らしげに幼馴染の目の前に持っていく。
しかしあれだな。ホントに俺って戦略シュミくらいしか誇れるところが……。これ以上俺の口からは……。
自分で自分を傷付けている俺を無視して、突き付けられたケースをそれはそれは大変疎ましく思った幼馴染は、ケースを掴んだ俺の手を軽くはたく。
「んなもん強くなったところで、社会の役に立てねぇじゃん?」
イラッ。
「わかんねぇだろ? もしかしたらロボットの人工知能が暴走して、人類を抹殺し始めた時どうするんだよ? そんな時に戦略ゲーに富む俺みたいなリーダーがいなけりゃ、世界から人類がいなくなってしまうかもしれないだろ?」
「いいからさっさと現実世界に戻ってこい!」
さっきから俺俺言う俺の名前は道田 勇翔。親元を離れて、一人暮らしをする高校一年生。戦略シュミレーションゲームだけはずば抜けて得意分野だけど、他のことは……。いや、これ以上はやっぱり言いたくない。
あ、強いて言えば、家事全般は難なくこなすことができるぜ。きっと、運命の人に『良いお婿さんになれるね』と言ってくれる日が来るだろうな。
可能性は低いけど、心の奥底で必死にそう願っている自分がここにいる。そしていつかその娘と結ばれる日が……。
「それにしても、お前の妄想と言えば限りがないじゃん。バカだけど、プププ」
そんな俺の唯一の武器から派生した妄想(運命の人のこと)さえも玉砕する男こそ、我が幼馴染にして最大のライバル・宮井 健太だ。俺に比べりゃ不器用なところがあって、正直『え? 病院行った方がいいんじゃない?』と言いたくなるくらいの問題児だが、悔しながら頭の方は俺よりか上、いやだからと言ってトップクラスなわけでもなく、俺よりほんの少し頭がいいぐらいだからな。ほんの少しだけだからな!
それから話すたびに語尾に憑く〝じゃん〟っていうのは健太の口癖。最初聞いた時は違和感というより不快感、いや、嫌悪感さえ湧いたもんだ。
今日プレイしたゲームで参謀が健太だったって分かったのは、実はこの語尾のおかげでもあるんだ。ゲームの中まで語尾を付けるとは、流石リアル戦略シュミレーションゲーム。一九九八年発売といえど侮れない。
ともあれ、今思ったら何で昔は語尾の一つで喧嘩なんかしてたんだっていうぐらい今は何とも思はないんだ。
聞き慣れるって不思議だね。