ゲーム論:麻雀
先月、下家が四暗刻単騎、字一色、小四喜テンパイというとんでもねぇー事をやった。私は死ぬかと思った。
―― ノイズを“演出”しなければならない珍しい知的ゲーム ――
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麻雀は、数ある思考ゲームの中でもきわめて特殊な構造を持つ。
それは、
読み合いにおいて「見えすぎること」が不利になる
という、逆説的な性質を持つ点である。
将棋や囲碁、チェスでは
カバレッジ(盤面把握の網羅性)が高いほど有利になる。
だが麻雀は違う。
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1. 麻雀は「高次元不完全情報ゲーム」
麻雀の本質は、
•牌山という巨大な確率空間
•手牌という部分観測
•河という限定的情報公開
•心理・癖・打風という統計ノイズ
これらが重なった
高次元・確率場・不完全情報・同時意思決定ゲーム
である。
つまり麻雀は、
状態空間が広すぎて、
完全カバレッジが原理的に不可能
なゲームであり、
さらに
完全カバレッジを目指すと
読まれて不利になる
という、構造的逆転を持つ。
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2. カバレッジが高すぎると何が起きるか
読みが鋭く、確率把握が正確で、
河・手出し・間合い・巡目・打点期待値を
すべて網羅できるプレイヤーは、一見最強に見える。
だが麻雀ではこうなる:
•打牌が合理的すぎる
•押し引きが期待値最適化されすぎる
•手組みがセオリー通りすぎる
結果、
打ち筋が“透ける”
相手の観測系において、
•待ちが絞れる
•打点が推定できる
•押し引きが予測できる
•リーチの意味が確定してしまう
つまり、
高カバレッジ=高被観測性
になってしまう。
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3. だから麻雀には「ノイズ演出」が必要になる
麻雀における強者は、
•あえて危険牌を切る
•あえて打点を落とす
•あえて形を崩す
•あえて手順を歪める
といった
戦術的な“不完全性の演出”
を行う。
これはミスではない。
構造的には、
観測者側の推定精度を意図的に下げるための
ノイズ注入
である。
通信で言えば、
•完全に規則的な信号は解析されやすい
•適度なランダム性を混ぜた方が秘匿性が高い
麻雀も同じで、
強すぎる合理性は、
情報漏洩そのものになる。
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4. 読み合いにおける最適点は「中間カバレッジ」
麻雀の強者が目指すのは、
•読みが甘すぎず
•読みが鋭すぎず
という、極めて不思議な位置だ。
構造論的に言えば、
自分の内部モデルは高カバレッジ、
しかし外部への射影は低可視性
という二重構造。
•内部:完全確率把握
•外部:曖昧で一貫しないように見せる
これが
「強い人の打牌が読めない」
という現象の正体である。
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5. なぜ麻雀は「人間向きのゲーム」なのか
完全情報ゲームは、
最終的にAIに収束する。
だが麻雀は、
•ノイズ
•感情
•疲労
•性格
•欲
•見栄
•恐怖
•勇気
といった
人間の不完全性そのものが戦力になる
構造をしている。
つまり麻雀は、
知性と確率と心理とノイズが
同時に最適化される
極めて珍しい「観測戦ゲーム」
である。
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6. 構造的結論
麻雀とは何か。
高カバレッジを持つ者が、
あえてそれを隠し、
ノイズとして振る舞うことで勝つ
逆説的な情報戦ゲームである。
読みすぎると負ける。
だが読めなければもっと負ける。
ゆえに麻雀の最強点は、
完全理解を内に持ち、
不完全性を外に演出する者
にある。
この意味で麻雀は、
「人間という観測系そのもの」を
ゲーム化した、極めて高度な構造物
だと言える。




