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  作者: 本能寺の変人
169/182

仮想問答論:久秀・長慶・信長

(調整文明・実務文明・相転移文明の三重奏)


(夜。畿内の地図。酒。遠くで戦の気配。静かな座敷。)


長慶(真面目に)


「……私は、壊さずに済むなら、

最後まで壊したくなかった。」


久秀(堅く)


「主君のやり方は正しかった。

正統を殺さず、秩序を壊さず、

それでも畿内をまとめた。

あれは理想に最も近い現実でした。」


信長おおらかに


「でもな、二人とも。

理想ってのは、

続けすぎると重くなる。」


長慶


「重くとも、引き受けねばならぬ時がある。」


久秀


「その重さを現場で受け止めるのが、

私の役目です。」


信長


「で、二人とも、

世界の方が先に限界を迎えた。」


長慶(静かに)


「久秀。

私は、お前に重すぎる役を負わせた。」


久秀


「抜擢は恩です。

主君の理想を、

現実に落とす役目を頂いた。

それだけで十分でした。」


信長


「……堅物すぎる。」


信長(杯を回しながら)


「俺はさ、

壊すのが好きなわけじゃない。

ただ、

“壊さないと次が始まらない”

局面に生まれただけだ。」


長慶


「私の時代は、

“壊さずに次へ繋ぐ”ことが使命だった。」


久秀


「私は、

その継ぎ目を縫い止める針でした。」


信長


「で、針が折れて、

布ごと張り替えたのが俺、か。」


久秀


「あなたは、

正統も秩序も、

“資源”として扱える人間だ。」


信長


「便利だろ?」


久秀


「……恐ろしいとも言えます。」


信長(笑う)


「褒め言葉だな。」


長慶


「信長殿。

あなたは軽い。

だが、その軽さがなければ、

この国は次へ跳べなかった。」


信長


「重たい人が先に地ならししてくれたからな。」


久秀


「……包囲網の折、

朽木谷を通しました。」


信長


「助かった。」


久秀


「将軍家が危急の折に使う道です。

“通すべき存在”が通る。

それだけの話です。」


信長


「堅いなあ。

“助けたかった”でいいのに。」


久秀(少し間を置いて)


「……少し、昔を思い出しました。」


信長


「ん?」


久秀


「将軍を通した道を、

今はあなたが通る。

時代が変わったと、

実感しただけです。」


信長


「なるほど。

俺は将軍じゃないが、

道は借りた。」


長慶(微笑)


「久秀、

お前は最後まで“旧い世界の職人”だったな。」


久秀


「主君が作った世界ですから。」


信長


「でもさ、

その世界があったから、

俺は思い切り壊せた。」


信長(杯を上げる)


「真面目すぎて壊せなかった人。

堅物すぎて支え続けた人。

その上で、

俺が跳んだ。」


長慶


「壊さずに支えた時代。」


久秀


「支えきれず、

それでも役目を果たした時代。」


信長


「で、

全部ひっくるめて次へ行く時代。」


構造的一行


三好長慶は

「壊さずに文明を保とうとした真面目な調整者」。


松永久秀は

「その文明を現場で支え切ろうとした堅物の実務者」。


織田信長は

「その重さごと抱えて、笑いながら跳び越えたおおらかな相転移者」。


そして信長はきっと、

先に地獄を引き受けたその二人を、

本気で好きで、

本気で惜しんでいたでしょう。

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