仮想問答論:諸葛亮 × 北条時宗 × 姜維
―― 延命装置が、最後の稼働者を呼び出す ――
諸葛亮
「来たか、伯約。」
姜維
「……はい。丞相。」
北条時宗
「あなたが、
“終わると分かっていて動かし続けた者”か。」
姜維
「終わると分かっていました。
ですが、止めれば“その瞬間に終わる”とも分かっていました。」
諸葛亮
「だから私は、お前に任せた。」
姜維
「はい。
国家の延命装置として、
最後までテストを続けました。」
北条時宗
「勝てない戦争を、なぜ続けた。」
姜維
「勝利のためではありません。
“可能性がゼロになる時刻”を一秒でも先送りするためです。」
諸葛亮
「国家とは、
滅びるまで“計算を止めてはいけない存在”だからな。」
北条時宗
「私の国は、
勝ったが報酬を出せなかった。」
姜維
「我が国は、
意味を守ったが勝てなかった。」
諸葛亮
「どちらも、
構造限界に突き当たっただけだ。」
姜維
「……私は、
国家が詰んでいると分かっていて、
それでも更新を試みました。」
北条時宗
「それは勇気か?」
姜維
「いえ。
“拒否権を行使しなかった”だけです。」
諸葛亮
「伯約は、
拒否すれば楽になれた。」
姜維
「しかし丞相は、
私に“拒否する役割”を与えませんでした。」
諸葛亮
「国家が、
最後まで“動き続ける姿”を必要としたからだ。」
北条時宗
「あなたは、
国家が死ぬ瞬間まで
心臓マッサージを続けた医者だ。」
姜維
「止める判断は、
私の職責ではありませんでした。」
諸葛亮
「その役は、
最初から私が引き受けていた。」
北条時宗
「そして私は、
国が生きているのに
延命の副作用で内部が壊れていくのを
ただ見続けた。」
姜維
「生きている国も、
死にゆく国も、
どちらも地獄ですね。」
諸葛亮
「だからこそ、
延命装置は孤独だ。」
北条時宗
「誰も、
“止めなかった者”を責めない。
だが、
“止められなかった者”は永遠に責められる。」
姜維
「……私も、
滅亡の責任を背負ったまま死にました。」
諸葛亮
「それでいい。
国家の最期を引き受けるとは、
そういうことだ。」
北条時宗
「あなた方は、
国を“終わらせなかった”のではない。」
姜維
「?」
北条時宗
「“終わるまで支え続けた”。
それだけだ。」
諸葛亮
「そしてその仕事は、
誰かに感謝される類のものではない。」
姜維
「……分かっています。」
沈黙。
諸葛亮
「だが伯約。
お前のテストがなければ、
蜀という国家は
“意味のある形”で終われなかった。」
北条時宗
「私の国も、
防塁がなければ
“守り切ったという物語”すら残らなかった。」
姜維
「ならば、
私たちは無意味ではなかったのですね。」
諸葛亮
「無意味ではない。
ただ、
報われないだけだ。」
北条時宗
「国家の延命装置は、
いつの時代もそういうものだ。」
三人、茶を啜る。
諸葛亮
「……冷めましたな。」
北条時宗
「ええ。
ですが、
この温度が現実です。」
姜維
「美味い茶です。」
―― 延命装置たちは、
最後まで“構造の温度”を引き受けた。




