エンディング
(スタジオの照明が柔らかく変化し、これまでの重厚な雰囲気から、別れの時を告げる切なくも温かい空気へと移り変わる。4人の作家たちは立ち上がり、互いに向き合っている)
あすか:「今夜は時空を超えた恐怖の巨匠たちと、人類最古の感情について語り合いました」
(あすかの声には、充実感と一抹の寂しさが混じる)
あすか:「東西の文化の違い、恐怖の源泉、技法の秘密、そして究極の恐怖まで...深い洞察をいただきました」
(あすかはクロノスを操作し、今夜のハイライトシーンが次々と浮かび上がる)
あすか:「八雲さんの『もののあはれ』と恐怖の融合、ポーさんの狂気と芸術の探求、ラヴクラフトさんの宇宙的恐怖、そしてメアリーさんの創造者の責任...」
(4人の作家たちも、感慨深げに映像を見つめる)
あすか:「それぞれ異なるアプローチでありながら、『恐怖は人間性の本質的な部分』という結論で一致されました。最後に、この対談の感想をお聞かせください」
八雲:「実に得難い体験でした」
(八雲が最初に口を開く)
八雲:「異なる文化、異なる時代の作家たちと語り合えて光栄でした。恐怖は普遍的でありながら、多様性に富むことを再認識しました」
(八雲は他の3人を見回す)
八雲:「特に印象的だったのは、我々が競い合うのではなく、補い合っていることに気づけたことです。東洋の静謐な恐怖も、西洋の激烈な恐怖も、どちらも人間の真実を映し出している」
ポー:「死してなお、このような知的な議論ができるとは...」
(ポーが皮肉混じりに、しかし温かく語る)
ポー:「正直に言えば、最初は自分の恐怖観こそが至高だと思っていた。しかし、今夜学んだ。恐怖にも多くの顔があり、それぞれが異なる真実を照らし出すのだと」
(ポーはラヴクラフトに向き直る)
ポー:「ラヴクラフト君、君の宇宙的恐怖には最初反発したが、今は理解できる。人間の感情を超えた恐怖という概念も、確かに必要だ」
ラヴクラフト:「ポーさん...」
(ラヴクラフトが珍しく感情を見せる)
ラヴクラフト:「私も認識を改めました。人間中心的な議論が多かったが、それも含めて興味深い体験だった」
(ラヴクラフトは少し照れたように眼鏡を直す)
ラヴクラフト:「特に、恐怖を共有することで生まれる連帯感...これは予想外の発見でした。宇宙の無関心さを説く私が、人間の繋がりの価値を認めるとは」
メアリー:「女性として少数派でしたが、むしろそれが議論を豊かにしたと思います」
(メアリーが毅然と、しかし優しく語る)
メアリー:「恐怖に性別はありませんが、視点の多様性は重要です。皆さんとの対話を通じて、私自身の作品への理解も深まりました」
(メアリーは微笑む)
メアリー:「そして何より、時代を超えて恐怖について語り合える仲間を得たことが、最大の収穫です」
あすか:「素晴らしい感想です。まさに『歴史バトルロワイヤル』の真髄...時空を超えた対話と理解が実現しました」
(あすかは4人を見渡す)
あすか:「では、みなさまをお送りする時間です」
(スターゲートが再び現れ始める。別れの時が近づいている)
あすか:「小泉八雲さん、あなたの愛した日本の怪談は、今も語り継がれています」
(あすかが八雲に向き直る)
八雲:「それは嬉しい...」
(八雲の目に涙が光る)
八雲:「私が集めた物語たちが、時を超えて生き続けているなら、これ以上の喜びはありません」
(八雲は他の作家たちに向き直る)
八雲:「皆さん、今夜はありがとうございました。異なる恐怖観を持ちながら、我々は同じ道を歩む仲間だと分かりました」
ポー:「八雲君、君の静かな恐怖は、私に新たな視点を与えてくれた」
(ポーが手を差し出す)
ポー:「激情だけが恐怖ではない。静寂の中にも、深い恐怖があることを学んだ」
(八雲とポーが握手を交わす)
メアリー:「八雲さん、あなたの『もののあはれ』という概念、素敵でした」
(メアリーが優しく語りかける)
メアリー:「恐怖の中に美を見出す...それは私も追求したいテーマです」
ラヴクラフト:「ハーン氏、あなたの文化的視点は貴重だった」
(ラヴクラフトも敬意を示す)
ラヴクラフト:「東洋の神秘主義を、私は軽視していたかもしれない」
八雲:「いいえ、ラヴクラフトさん。あなたの宇宙的視点も必要です。人は時に、自分の小ささを知る必要がある」
(八雲がスターゲートに向かう)
八雲:「では、皆さん...いつかまた、物語の世界で」
(八雲が優雅に一礼し、スターゲートへと消えていく)
あすか:「エドガー・アラン・ポーさん、あなたの作品は今も世界中で読まれています」
(あすかがポーに向き直る)
ポー:「永遠に美しく、永遠に恐ろしく...」
(ポーが詩的に呟く)
ポー:「それが私の望みだった。どうやら、叶えられたようだ」
(ポーは残る二人に向き直る)
ポー:「シェリーさん、あなたの指摘は的確だった。私は確かに、女性の死に執着しすぎていたかもしれない」
メアリー:「でも、ポーさん、あなたの情熱は本物でした」
(メアリーが認める)
メアリー:「芸術への純粋な献身...それは尊敬に値します」
ポー:「ラヴクラフト君、君は私の後継者というより、新たな地平を切り開いた」
(ポーがラヴクラフトに語りかける)
ポー:「人間心理を超えた恐怖...私には描けなかった領域だ」
ラヴクラフト:「ポーさん、あなたなしに私の作品はありえなかった」
(ラヴクラフトが素直に認める)
ラヴクラフト:「あなたが示した道を、私は違う方向に進んだだけだ」
ポー:「ふふ、謙遜することはない」
(ポーが微笑む)
ポー:「では、私も行こう。この奇妙で素晴らしい夜を、永遠に記憶に留めて」
(ポーは劇的な仕草でマントを翻し、スターゲートへ向かう)
ポー:「Never more(二度とない)...いや、今夜は言い換えよう。Until we meet again(また会う日まで)」
(ポーが不敵に微笑みながら、スターゲートに消える)
あすか:「H.P.ラヴクラフトさん、あなたの宇宙的恐怖は新たな神話となりました」
(あすかがラヴクラフトに向かう)
ラヴクラフト:「神話か...」
(ラヴクラフトが複雑な表情を浮かべる)
ラヴクラフト:「私は神話を否定しようとしたのに、新たな神話を作ってしまった。なんという皮肉だ」
(しかし、その表情には満足感もある)
ラヴクラフト:「だが、今夜の対話で分かった。神話も、恐怖も、人間が意味を求める営みの一部なのだと」
(ラヴクラフトはメアリーに向き直る)
ラヴクラフト:「シェリー夫人...いや、シェリーさん。あなたの『創造者の責任』という視点は、私に欠けていたものだった」
メアリー:「ラヴクラフトさん、あなたの壮大な視点も必要です」
(メアリーが応える)
メアリー:「人間中心主義を超えた思考...それは哲学的に重要な貢献でした」
ラヴクラフト:「今夜は...予想外に人間的な体験だった」
(ラヴクラフトが苦笑する)
ラヴクラフト:「宇宙の無関心さを説く私が、人間との対話に意味を見出すとは」
(ラヴクラフトはスターゲートに向かいながら振り返る)
ラヴクラフト:「いあ!いあ!...失礼、つい癖が。では、次元を超えた友よ、さらば」
(ラヴクラフトが照れたように手を振り、スターゲートに消える)
あすか:「メアリー・シェリーさん、あなたの問いかけは今も人類の課題です」
(最後に残ったメアリーに、あすかが語りかける)
メアリー:「創造の責任を、どうか忘れないで...」
(メアリーが静かに、しかし力強く語る)
メアリー:「それが私からのメッセージです。科学が進歩すればするほど、この問いは重要になります」
(メアリーはあすかに向き直る)
メアリー:「あすかさん、素晴らしい進行でした。あなたのおかげで、時代を超えた対話が実現しました」
あすか:「ありがとうございます、メアリーさん」
(あすかが感動して頭を下げる)
あすか:「女性の先駆者として、あなたの存在は今も多くの人を勇気づけています」
メアリー:「先駆者...」
(メアリーが遠い目をする)
メアリー:「望んでなったわけではありませんが、道を切り開く責任もありますね」
(メアリーは優雅に立ち上がる)
メアリー:「今夜の対談で確信しました。恐怖は時代を超え、性別を超え、文化を超えて、人々を結びつける。それが分かっただけでも、ここに来た価値がありました」
(メアリーはスターゲートの前で振り返る)
メアリー:「皆さんとの出会いは、永遠に私の記憶に刻まれます。創造することの恐怖と、それでも創造し続ける勇気を、これからも忘れません」
(メアリーが優雅にスターゲートへと歩みを進める)
メアリー:「さようなら...そして、ありがとう」
(最後のスターゲートが閉じ、スタジオには再びあすか一人が残される)
あすか:「今宵の『歴史バトルロワイヤル』はここまで」
(あすかがカメラに向き直る)
あすか:「恐怖という感情の深淵を覗いた夜でした。4人の巨匠たちが示してくれたのは、恐怖の多様性と普遍性、そして何より、恐怖を通じた人間理解の可能性でした」
(あすかはクロノスを掲げる)
あすか:「恐怖は人を分断するのではなく、深いレベルで結びつける。それは破壊ではなく創造の源泉であり、絶望ではなく希望への道標でもある」
(スタジオの照明が徐々に落ち始める)
あすか:「東洋と西洋、過去と現在、男性と女性...すべての違いを超えて、恐怖という共通の感情が、我々を一つにする」
(あすかは深く一礼する)
あすか:「次回もまた、時空を超えた対談でお会いしましょう。それまで、みなさま...」
(あすかが意味深な微笑みを浮かべる)
あすか:「よい悪夢を...」
(最後の蝋燭の炎が消え、スタジオは完全な闇に包まれる)
(しばしの静寂の後、どこからか風鈴のような音が響く。それは不気味でありながら、どこか懐かしく、美しい音色だった)
(画面にエンドクレジットが流れ始める。背景には、4人の作家たちの代表作の一節が、それぞれの言語で浮かび上がる)
(最後に、画面に文字が現れる)
『恐怖は終わりではない。それは始まりである』
(そして、完全な静寂)
【終】




