第2話【青の魔法少女 ティアードロップ】 その1「非日常の翌日」
第2話【青の魔法少女 ティアードロップ】 始まります。
塔岡一典が新たな敵、そして新たな魔法少女と出会う話になります。
「あ~あ、惜しいとこまで行ってたんだけどなぁ」
「ホントっすよパイセン!あの悲鳴が無ければ勝ってたのにぃ」
「つーか結局、あの悲鳴って何だったんすかね?」
「オレに訊かれても困るぜ」
「いやいやリカちん、パイセン、犯人はアイツしか考えらんないっしょ」
「イナちゃん、心当たりがあるのかい?」
「アイツっすよ。ほら、イナちゃん達がフェアリーティアーズのコト尋ねたあの…」
「あぁ!あの少年か!」
「確かにアイツの声だったかもぉ、イナちんさっすがー」
「いやぁ、それほどでもぉ」
「うん、ココはフツーに褒め所だな!」
「あーしらの戦いを見かけてビビったってトコっすかね」
「う~ん…」
「えぇ~、イナちん、あーしの推理じゃ不満だっつーのかよ?」
「いやぁ、イナちゃんも最初はそう思ったんだけどぉ、インソムジャー初見でガチビビりしてたアイツがわざわざイナちゃん達の所に戻ってくっかなぁと考えっと、しっくり来ねーんよ」
「むむぅ」
「いやぁそこら辺は本人に訊いてみないコトにはサッパリだぜ」
「あらあらあらあら、お馬鹿さん3人で話し合い?」
「「あ~!お前は!!」」
「よう、E・トゥルシー」
「ハァイ、ご機嫌ようC・ハータック。失敗したらしいわね?」
「ンマァ、あとちょっとの所までは追い詰めたんだぜ?」
「でも仕留めきれなかったんでしょう?なら失敗じゃない」
「んだよオメー、パイセンのガンバリを知りもしねークセによぉ」
「ふふっ、馬鹿や無能ほどよく吠えるものね」
「そこまで言うってコトは、自分は失敗しないと?」
「もちろんよ。貴方と違って私は『デキるオンナ』ですもの」
「うわー、ジガジサーン!」
「んじゃま、一つオレのカワイイ後輩達にお前のスゴさを見せてやってくれや。狩れるってんだろ?フェアリーティアーズ」
「当然。仕事がデキるオンナの本領、見せてあげるわ。行くわよ!セッサー、ヂョーサー!」
「「はい!」」
「じゃあね、お馬鹿さん達」
「おう、しっかりやれよー」
「……パイセン、パイセン」
「一々オレの服引っ張るの可愛いなコイツ(どうしたよ、イナちゃん?)」
「イナちゃん、あのオンナ嫌いだわぁ」
「うんうん、分かるよその気持ち。でもねイナちゃん、ああいう女ほど一人になった途端何も出来なくなるモンさ」
「マー?」
「マよ、マ。見てりゃ分かるって、ククク…」
本物の魔法少女を初めて目にした日の翌朝、オレは放心状態だった。
「どうしたのカズノリ?寝不足?」
ボーッとしてるオレに母さんが問いかける。
「あぁうん、まぁね」
「寝る前に温かい牛乳飲むと良いらしいわよ?」
「そんなんで寝られるなら苦労しねーわ」
「何々、どうしたの?」
「昨日色々あったんだよ」
「色々って?」
「色々だよ、色々!」
昨日のことを母さんに伝えられるハズも無い。バケモノを操る3人組が現われたこと、オレ以外が無気力になる謎の空間のこと、そしてバケモノと戦う本物の魔法少女…。こんなこと一体誰に相談出来るだろうか?話したところで作り話と思われるか、頭が変になったと思われるかのどちらかだろう。独りで抱えるしかないのだ。
昨日、心身共に疲れ果てて家に帰ったハズなのに、いざ寝る時間となると全く寝られなかった。「アイツらはまた現われるに違いない。その時オレは生きて帰れるのだろうか?」という不安、「結局アイツらと魔法少女は何だったのか?」という解けることの無い謎、そして何より思春期の男子には刺激が強すぎるあの変身シーン…。不眠の種はてんこ盛りだった。
しかし、学校には行かなければならない。オレは朝の支度を済ませ、学校へと向かった。
教室に着いたオレは、自分の席から転校生、未来来希の机を眺めていた。彼女はまだ学校に来ていない。今日は来ないのか?
「おはよー、みんな!」
「あっ、未来来ちゃんおはよー!」
そんなことはなかった。普通に学校にやって来た未来来は、教室に来た瞬間多くの女子生徒に囲まれる。
「な!アレは…」
小さな叫びが漏れてしまい、慌てて口を押さえる。未来来の持っているカバンに昨日見たタヌキがぶら下がっていたのだ。ヤツはデカいキーホルダーのフリをしており、身動ぎ一つしない。恐らく昨日学校に来た時にもヤツは付いてきていたのだろう。初日は気にも止めなかった存在だが、今は気になってしょうが無い。
「直接訊くべき…なのか?いや、んなこと出来ねえ…」
オレは自問自答する。昨日の出来事は何だったのか、未来来から聞き出したい。だが「何のこと?」と言われたらどうするつもりなんだ?仮に彼女が認めたとしても「も、もしかして私の変身するとこ見てた?」と訊かれたら非常に困る。
結局オレは自分の席から未来来を眺めることしか出来なかった。もしかしたら日常の何気ない仕草に魔法少女の片鱗が現われるのではないか、とも考えたがそんなことは無く、彼女はどこまでも普通の女子中学生だった。
「一目惚れかな?」
「ヒッ!!」
後ろからの声にオレは思わず悲鳴を上げてしまう。振り返るとロムとサブローがいた。しまった、コイツらの存在を完全に忘れていた…。
「よ、よう、ロム、サブロー…」
「カズ、オレはお前が朝っぱらからずっと転校生のコト見てんの見てたぞ?一目惚れだろ?そうなんだろ?アイツ可愛いモンなぁ!?」
ロムがにやけ顔で迫ってくる。
「ちちち、違うわ!!」
「ならば何故ジロジロ見ていた?言ってみろ」
「ほら、オレは、学級委員だからな!転校生が上手くクラスに馴染めているかを確認するのも大事だと思って」
「ナルホドのう、そう来ますか…」
ロムは顎に手を当て、いかにも今考えてます的なポーズをとる。これは間違いなく疑われてますね…。初動でドギマギしてしまったのが失敗だったかもしれない。アレじゃあ「図星です」と言ってるようなモノだ。
だが実際、オレは転校生に恋心を抱いてるワケじゃない。確かに彼女の裸は見てしまったワケだけど、それだけで恋に落ちるほど単純じゃないんだオレは。
「ロム、オレはね、自分の恋人を選ぶのに時間をかけるタイプなんだ」
効果があるかは分からないが、自分の恋愛観を説いて納得させる作戦に出ることにした。
「ほぅ、一目惚れなんかはしないと?」
「もちろん、単純な容姿だけの話だったら、転校生は可愛いと思っちゃいるさ。でも自分のパートナーになる人を決めるなら、それだけじゃ決めきれない。行動基準とか性格とか、もっと色々見定めてから惚れるうんぬんの段階に入っていくんだよ、オレは」
「ほうほう。この場で考えついたにしては、しっかりしてるなあ」
未だに疑いの目を向けているロムだったが、ここでオレとの付き合いが長いサブローが援護をしてきた。
「ロム、カズノリの言ってることはマジだぜ。以前同じような話をしてたのを聞いたことがある」
「マー?」
「マジだ」
「そうかそうか。じゃあ、一目惚れじゃなく単に学級委員として転校生が気になってただけってのも…」
「マ、だよ。さっきテンパってたのは、お前に後ろからいきなり話しかけられてビックリしただけだ」
オレは断言した。
「なるほど、分かったよ。そこまで言われちゃ、オレにはどうしようも無いっすわ」
ロムは両手を挙げて降参の態度を示す。よし、何とか切り抜けられたぞ。コイツに対して「オレ、転校生の裸を見ちゃったんだよね」とか口が裂けても言えないからな。
そう、オレは気付いてなかった。昨日からオレの内で燻っていた様々な懸念事項の大半が、「転校生の裸」という重要度の低い記憶に飲み込まれていっていることに…。