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第3話【裏切りは優しく囁く】 その13「ロムの回答」

今回はロム視点で話が進みます。

 C・ハータックからインソムニアへのお誘い(スカウト)を受け、オレはどう返答すべきか頭を悩ませる。

 だが、さっきから自分で言っている通り、あまり時間は残されていない。早いとこ答えを出さなきゃな…。


「さあ、どうだロム少年!オレ達と一緒に来ないか?」


 よし、答えは決まった!オレは決意の元、口を開く。


「ほ、本当に…オレが仲間になったら、ココとは違う世界に連れて行ってくれるのか?」


「ああ!君がオレ達の仲間になって、あの馬鹿強いサブロー少年の足止め役を(にな)ってくれるなら、それくらい()でも無えさ!」


「でも、初めて行く世界とか、何が起こるか分からなくて不気味だし…」


「心配すんなって、初めての世界でもオレが案内をしてやるから!どうだ?」


「本当に…、本当に約束してくれるんだなっ!?」


「ああ、約束だっ!行こうぜ、オレ達と共に…」


「だが断る」


 決まったああああああ!!!!


「何ィッ!?」


くぅ~っ!!気持ちいいぜ、この反応!しかも、正しい使い方をしてるって所がミソだな!このセリフ、ただ拒絶の意志を示す時に使えば良いってセリフじゃ無いんですよ。ニワカの人にはそれが分からんのですよ。

 少しの間「ならない」と返答しようか迷ったが、あっちの場合は「ならないか?」と()かれた直後の返しじゃなけりゃアカンからな!やっぱコッチで正解だったわ。

 ん?もしかしてオレが本気で、インソムニアの仲間になろうか迷ってると勘違いしてた人がいるのか?バカヤロウ!!そんな選択肢は最初(ハナ)から存在しねえわ!!


「はぁ!?この流れでパイセンの勧誘を()るのかよ!?」


「お前、パイセンがウソをつくとでも思ってんのかよ!?」


 ハータックの部下達が怒ってやがるな。まあ、ココは正直に答えてやるか。


「当たり前だろ?世界を侵略しに来たヤツの言葉を素直に信じるほど、オレは純粋(ピュア)じゃ無ぇのよ!」


「「ぐぬぬ…」」


「ウソをつくのは苦手なんだがなぁ、オレ…」


 C・ハータックが困ったような顔で頭を()いた。


「もしかして、オレの出した条件じゃ気に食わなかったかい?」


「いいや、条件は悪くなかったぜ?オレが魔法少女(フェアリーティアーズ)と出会う前の段階で、カズとサブローの2人と同時に勧誘してたとしたら、返答は違ってたかも知れねえな」


 一応そう言ってやるが、その場合もカズが受け入れるとは思えないから、どちらにせよ答えは「No」だったろうねぇ。


「最悪なのはアンタの要求の方だよ!オレがアンタ達の仲間になるってコトはつまり、カズやサブローを裏切って戦うってコトじゃねえか!(いく)ら魅力的な条件を出されようとも、そんなのお断りだね!残念でした!!」


 オレはカズやサブローを絶対に裏切ったりしない。だって、あの2人と一緒にいるのは最高に楽しいからな!ドコの世界にどれだけ楽しいコトが待っていたとしても、この楽しい時間を手放すなんて選択肢は、オレには最初から無いのさ!


「そうかそうか…、なら仕方ねえな。アメが駄目ならムチってヤツだ」


 C・ハータックの口調が(けわ)しくなる。


「ロム少年!さっきからズイブンと余裕をカマしてる様子だが、自分の体がオレのインソムジャーに(つか)まれてるってことを忘れちゃいないだろうな?」


 おいおい、まさか…。


「オレの気分次第じゃ、お前の体をグシャッ!なんてコトも出来るんだぜ?」


「プッ!」


 オレは思わず吹き出してしまった。全く、オレがマジで捕まってるとでも思っているのかコイツは?と言うか、そもそも…


「な、何がオカシイ!?」


「やめとけ!やめとけ!アンタには無理だよ」


「何?」


「だってアンタ、人を殺せるような人間じゃ無いんだもん」


「っ…!!」


 お、どうやら図星だったようだねぇ。


「今までの言動を見てりゃ分かるよ。どうやらフェアリーティアーズに関しては『殺さなきゃいけない相手』と腹を(くく)ってるみたいだが、それ以外の人間に対してはアンタ、徹底的に優しいからな!」


「パイセンが優しいのは当然だろ!?」


「周りの人間全てに対して優しいのが、パイセンの魅力なんだよっ!!」


「おいおい!リカちゃん、イナちゃん、そんなコト言っちゃダメだろ?今オレ、(おど)しかけてるトコなんだから…」


 オレにキレてる部下達の言葉を聞き、C・ハータックが困っている。やれやれ全く…良いチームじゃないか、お前ら!


「良い部下を持ってんな、C・ハータック」


「う、うるせえよ!」


「ああ、そうそう。もう一つ付け加えておくと、さっきアンタが言ってたオレの体をグシャッってヤツ。ソレ、無理だから」


 そう言いながら、オレは下に(つら)なってる林を確認する。よし、そろそろ引き上げ時だな!


「何…!?」


「ぬぬぬぬぬぬ…!」


 オレは全身、特に両腕に力を込める。


「とああっ!!」


「「「な、何ぃぃぃ!!??」」」


 無理矢理インソムジャーの拘束から抜け出したオレを、3人が驚愕(きょうがく)眼差(まなざ)しで見つめている。まるで脱出ショーだな!


「さ、最初から抜け出そうと思えば出来てたのか、ロム少年!?」


「ご名答。こんくらいの力じゃ、オレを捕まえるなんて到底不可能よ!」


 そう言葉を返しながらオレはもう一度、下の林を確認する。少し前の方で木々の連なりが途切れている箇所が有る。さて、この楽しいハネムーンもこれにて幕引きだな!


「んじゃ、そういうコトで!」


 そう伝えて、オレはインソムジャーの手の上からジャンプする。そして向かいに張られている復路のロープウェイ用のロープを、空中ブランコの要領でキャッチした。

 なぜ近くにある往路用のロープでは無く、遠くの復路用ロープを掴んだかというと、オレの脳内で生まれた「とある仮説」が、「往路用ロープを掴んではならない」とオレに危険信号を出したからだ。


「くそう…、まんまと逃げられたぜ!」


「そうそう!最後に一つ言っとくわ」


 さて、今度はコッチが()さぶりをかける番だな!


「アンタさっき、インソムニアの侵略を楽しいって言ってたけど、実際はそんなコトも無いんだろ?」


「え?」


 段々と遠ざかっていく相手にも届くよう、声を張り上げる。


「腹の中では割り切ってるつもりでも、心のドコかではフェアリーティアーズを倒さなきゃならないコト、心苦しく思ってるんじゃ無いのか!?」


「なっ…!?」


「部下(いわ)く『優しいのが魅力』のアンタが、年端(としは)もいかない少女を傷つけるなんてコト、進んで出来るわけ無いもんな!?」


「そ、そんなコトは…」


「実際の所アンタ、『見たこと無いモノを見る』のは楽しくても、『インソムニアの侵略行為』自体は楽しんでやってねえんだよ!」


「お、おいおい!勝手なこと言うなよ!オレは…!オレは…」


 おっ、中々良い反応だぜ。コイツぁ今後が楽しみだな!

 と、下に広がる林の切れ目からカラフルな魔法少女の服装が見えた。アイツらにも教えてやらねえとな!


「ああ!コレでホントに最後だけど、早くそこから脱出した方が良いぞぉ!?下の林を見てみろよぉ!!」


「はぁ!?今度は何を…」


「パイセン!鬼ヤバっす!!アソコから、フェアリーティアーズが光線発射の準備してるっすよ!!」


「マジか!?マジじゃねえか!!」


「早く脱出しましょパイセン!!」


「当然だ!行くぞ、リカちゃん!イナちゃん!!」


 C・ハータックは2人の部下を連れて、窓から飛び出した。

 そして数秒後、待ち構えていた魔法少女(フェアリーティアーズ)の浄化技を食らったインソムジャーは跡形も無く消滅してしまった。

 と同時に、往路用ロープがプツンと途切れて地面に()れ下がったのが見えた。やっぱオレの「仮説」は正しかったか!

 インソムジャーと化した物体は、浄化技を食らうとインソムジャーごと消滅しちまうらしい。今まで4回インソムジャーが倒されるところを見て来たが、素体となったモノをその後で見たことは一度も無かったから、もしやと思ったんだ。大事(おおごと)にならなかったのは、素体となったモノが割としょーもないモノだったコトと、ネガーフィールドと同様に周囲の人間の記憶操作が行われてるコトが原因だろう。

 だが、今回はそうも行かんだろうな。なんせ宜野ヶ丘市(ぎのがおかし)の観光名所である天浄山(てんじょうさん)ロープウェイが消滅しちまったんだからな。ま、オレは知―らね!


「くっそぉ、アンニャロ、猿みたいにぶら下がりやがってぇ!」


「とっ捕まえましょ、パイセン!」


 宙に浮かびながらオレを(にら)みつける部下達を、C・ハータックが制止する。


「おいおい()めとけよ、お前ら。インソムジャーの拘束から自力で抜け出すような人間を、オレ達だけで捕まえられると思うか?」


「い、言われてみれば…」


「さ、帰ろうぜ。支部長に報告すんのは気が重いけどな…」


 若干テンションを落とした様子で、C・ハータックは部下達と共に姿を消した。

 と、そんなワケで、インソムニアの「和野(わの)宏武(ひろむ)スカウト大作戦」は無事失敗に終わったのでした!チャンチャン!

次回で第二章の第3話は終了となります。次回はカズノリ視点で話が進みます。

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