第3話【裏切りは優しく囁く】 その12「登山道とロープウェイ」
親族で具合が悪くなった者が出てしまったため、投稿が遅くなってしまってます。申し訳ありません。
今回はカズノリ視点で話が進みます。
インソムニアに連れ去られたロムを追って、オレ達は登山道を突き進む。
サブローに背負われているオレの脳内に、海月の声がこだまする。
『和野君には、自分が楽しいと思えることを優先する傾向がありますね?』
『その行動理念、私達の戦いにおいてかなり危険なモノではありませんか?もし彼が、「インソムニアに味方すること」に対して楽しみを見出したとしたならば、私達を裏切ることも考えられます』
有り得ない、とあの時のオレは彼女の懸念を否定した。その考えは今でも変わっていない。変わっていない、ハズなのに…。
「つ~か~ま~えぇてい~てね~。い~つ~まぁで~ぇムゥ~」
苦悩するオレの脳内で今度は、ロムのフザケた歌声が再生される。あの歌は間違いなく、「オレのことは心配しなくて良い」というアイツなりのメッセージだ。インソムジャーの手から抜け出せないでいたのも、間違いなく芝居だっただろう。何故、そんな芝居をする必要があったのか?それはアイツなりに考えが有って、敵に捕まってる状態を維持したかったからなのだろう。
では、その「アイツなりの考え」とは一体何か?この疑問に対する答えが、考えても考えても思いつかない。先程サブローにも意見を募ったのだが、
「さあな?アイツの考えは読めねーからな…」
と返されてしまった。ロムの持つ「考え」が、オレ達に不都合をもたらすモノでは無いとオレは信じている。なのにその正体が一向に掴めないせいで、嫌な考えが頭を過ぎってしまう!「ロムはオレ達を裏切って、インソムニア側に付く機会を窺っていたのではないか?」という嫌な考えが…。もし仮に…、仮にそう考えているのだとしたならば、今のアイツはインソムニアの連中と交渉する絶好の機会を得ているのだ!
今こんな可能性が頭に浮かんでいるのは、オレとドロップだけだろう。自分で自分が嫌になる。オレは、オレの友達を疑いたくは無い。なのにアイツへの疑念が頭から離れない。こんな心理状態は一刻も早く解消したい!その為には一刻も早く、アイツをインソムニアから引き剥がさなければ!
オレは気持ちを切り替え、ロムを敵から引き剥がす方法を模索する。アイツがインソムジャーから逃れたいと思う状況を作り出すには…。そうだ、フェアリーティアーズの浄化技だ!流石のアイツも、必殺光線からインソムジャーが狙われていると知ったら離れようとするに違いない。
だが、今オレ達が進んでいる登山道とロープウェイの間には林が連なっており、必殺光線を撃つ邪魔になっている。この林さえ無ければ、ココからロープウェイを狙い撃ち出来るのに…。
待てよ、林が無い場所…?オレの脳内に「とある写真」がチラつく。そうだ、あの写真が撮られた場所は多分…!
「サブロー、一つ頼みがある!」
あることを思いついたオレは、サブローに声をかける。
「何だ?」
「オレを背負ってくれてるトコ悪いんだけど、もっとスピードを上げて貰うことって出来るか?」
「造作も無えよ」
「じゃあオレが合図したらスピードを上げてくれ」
「お前にも何か考えが有るんだな?」
「ああ」
「オレはお前やロムと違って難しい作戦とかは考えられねえからな。言う通りにしてやる」
「ありがとう!」
オレはサブローに礼を言い、フェアリーティアーズの3人に声をかける。
「悪いけど、オレ達だけで先に進んでるよ!で、オレ達が止まった場所で3人も止まって、ソコで浄化技の準備をして欲しい!」
「分かりました。構いませんね?ミラクル、ファイン?」
ドロップの呼びかけに2人が頷く。作戦開始だ!
「ありがとう、ドロップ!じゃあサブロー、とばしてくれ!」
「おう!」
サブローはオレを背負ったまま、超人的なスピードで魔法少女達を追い抜いていった。
オレがあの写真を見たのは確か、小学生の社会の時間…「自分達の住む街について調べてみよう!」とかいう授業の時だったか。その授業の一環で、オレは宜野ヶ丘市の様々な観光名所のパンフレットを読んだ記憶がある。
その中にはモチロン天浄山のパンフレットも有って、その中にはロープウェイの写真が載っていて、下に小さくタイトルが書かれていた。タイトルはそう、「登山道から見える天浄山ロープウェイ」!
この登山道には、山登りの途中でロープウェイの写真が撮れるように、林が途切れた場所があるハズなのだ。そこからならきっと、フェアリーティアーズの浄化技を当てることが出来るに違いない!
オレは目の前に続く林から目を離さない。…あった!あそこで木々が途切れている!!
「サブロー!止まってくれっ!!」
オレの呼びかけでサブローは足を止める。
「ここか?」
「ああ、間違いない」
オレはサブローの背から降り、木々の途切れた場所へと向かう。
そこは思った通り、登山道の途中からロープウェイの写真が撮れるように整備された撮影スポットだった。登山道を逸れて木々の途切れた場所を進むと、ちょっとした広場のような場所になっており、ご丁寧に柵まで設置されている。ココならロープウェイを背景に登山服姿で写真を撮ったり、思い出の1枚を作ることが出来るだろう。
だが、オレ達がここでするべきコトは記念撮影では無い。オレは登山道に戻って、後から追いついてきた魔法少女達に大声を投げかける。
「ここだぁ!ここで止まってくれっ!!」
足を止めた3人を撮影スポットへと案内する。
「どうだ?ここなら必殺光線が届くだろ?」
「うん!大丈夫!」
オレの質問にミラクルが元気よく答えた。
「なるほど…。広告でよく使われている天浄山ロープウェイの写真は、ココから撮影されていたのですね」
ドロップの言葉にオレは頷く。
「ああ。前にパンフレットで見たことがあったんだ」
「流石です、塔岡君」
「たまたまだよ。たまたまドロップの知らなかったコトをオレが知ってただけさ」
オレはそう謙遜して、フェアリーティアーズの3人に声をかける。
「じゃあ、後は任せるよ。ここからインソムジャーを撃ち抜けるよう、準備しといてくれ」
「で、でもロム君が…」
「大丈夫!必殺光線を食らってまで捕まっていたいと思うほど、アイツも馬鹿じゃないさ。このままじゃ直撃するって知ったら、イヤでも抜け出してくるよ」
心配するファインにそう言い聞かせ、オレは向こうに見えるロープウェイのロープへと目を向けた。
それから程なくして、インソムジャーと化したロープウェイがオレ達の視界に入ってきた。案の定、その手にはロムが握られている。オレは遠くのロムに声を届かせるため、思い切り空気を吸い込もうとする。
と、その時だった。まるでオモチャのように、ロムがスポーンとインソムジャーの手から飛び出したではないか!やっぱりアイツ、抜け出そうと思えば簡単に抜け出せていたのか…。
「ああ!良かった、ロム君!」
「無事抜け出せたんだね、ロム君!」
安堵し、歓喜するミラクルとファインの横で
「やはり、そうだったのですね。和野君…」
とドロップが呟いた。
ドロップの脳内では今、ロムに対する大きな疑念が渦を巻いているのだろう。この責任は、本人にキッチリと取って貰わねばなるまい。
「よし、後はインソムジャーに浄化技を当てるだけだね!」
フェアリーティアーズの3人が各々のステッキに力を溜め始める。と同時にロムはインソムジャーの手からジャンプし、復路のロープウェイ用のロープへとしがみついた。
ロムはロープを掴みながら、インソムジャーの中にいるC・ハータック達に何か話しかけているらしい。何を言っているのかまでは、距離が遠くて聞き取れなかった。
インソムジャーと化したロープウェイは先へとどんどん進んでいき、それに連れてロムとの距離も離れていく。良し!ここまで離れれば、浄化技がロムに当たる心配はあるまい。思い切りやっちゃってくれ!!
「「「フェアリーティアーズ・シャイニングウェーブ・フォルテッシッシモ!!!!」」」
3人のステッキから必殺光線が放たれる!フェアリーティアーズ全員の力を合わせた必殺技は、今まで見たことの無い凄まじい威力を誇っていた。
極太の浄化技は無事インソムジャーへと届き、
「イ゛イ゛イ゛イ゛…」
遠くから聞こえる微かな断末魔と共にインソムジャーは消滅した。
「んお?」
その様子を見ていたオレは、思わず声を漏らした。理由は2つ。1つ目は、浄化技がインソムジャーに当たるより前に、C・ハータック率いるトリコロールトリオが中から脱出した様子が見えたからだ。アイツらごと撃破というワケにはいかなかったが、まあ良いだろう。こう言うのも何だが、あの3人に死なれるのは、それはそれで後味が悪い気がする。なんて言うかアイツら、そこまで悪いヤツらには見えないんだよな…。
そしてもう一つの理由は、インソムジャーが消滅した瞬間、往路のロープウェイ用のロープがプツンと切れ、地面へと垂れ下がってしまったのを目撃したからだ。何故そのような事が起こったのか一瞬分からなかったが、理由はすぐに判明した。イナーティが「ロープウェイのロープが中途半端にインソムジャー化してしまっている」と言っていたのを思い出したからだ。
今まではさほど意識してこなかったコトなのだが、どうやらインソムジャーと化してしまった物体は、インソムジャーが浄化及び破壊されると、それに伴って跡形も無く消滅してしまうらしい。
ということはつまり、宜野ヶ丘市の名所が一つ消滅してしまった…ってコト!?大事件にならないか、心配である…。
次回の話は再びロム視点で進みます。




