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第3話【裏切りは優しく囁く】 その11「裏切りは優しく囁く」

前回の後書きでお伝えした通り、今回はロム視点で話が進みます。

 オッス!オレぁロム!!皆様にお伝えしなければならない大切な話がございます。(わたくし)和野(わの)宏武(ひろむ)、この(たび)何と、敵方(インソムニア)に捕まってしまいました!ドーン!

 いや、正直な話わざと捕まったってワケじゃないんよ。ああ、でも半分はわざとかな?

 とにかく、石とか投げつけないでオレの言い訳を聞いてくれ!最初はほんの遊びのつもりだったんだ!以前、サブローが桜のインソムジャーを()って遊んでたからさ、楽しそうだなぁと思って。あの日何もしなかったってコトも含めて「今日はオレの番だ!」って意気込みで蹴ってただけだったんですよ!

 でも、そうやって遊んでたのが良くなかった。インソムジャーを蹴りつけることに夢中になってたオレは、敵がオレを(つか)もうとしていることに気付くのが遅れてしまった!んで、気が付いたら捕まってしまったってワケ。ここまではガチ。

 で、ここからがわざと。本当はすぐにでも、相手の拘束から力()くで抜け出すことが出来たのよ。でもオレはそうしないで、抜け出せないでいるフリをしてたんだ。ちょっと「気になること」があってね。わざとそうさせて貰ったのよ。

 んなことしてる間に、オレを掴んだロープウェイ(インソムジャーに変貌済(へんぼうずみ))は発車してしまって、現在に至るワケ。

 一応、カズ達には「心配()らないぞ!」というメッセージを込めて、


「つ~か~ま~えぇてい~てね~。い~つ~まぁで~ぇムゥ~」


と歌ってみせたんだ。カズとサブローはオレの意図(いと)に気付いたらしかったけど、未来来(みらくる)と有原はそうじゃなかったな。どんだけ純粋なんだアイツら…。まあ、そういう所が魔法少女になれた所以(ゆえん)かも知れないけどな!

 そんなワケでオレは今、ロープウェイを素体にしたインソムジャーに捕まった状態で、天浄山(てんじょうさん)の山頂ヘと向かっている。インソムジャーの中では、C・ハータックと部下2人が大騒ぎしていた。


「フーッ!やったぜ!ありがとな、リカちゃん!イナちゃん!」


「いやー、あーしは何もしてないっすよ!ただ、あの状態ならロム(アイツ)を掴めるんじゃないかなって直感的に思っただけっす!」


「イナちゃんのコトはバッチシ()めてもらって大丈夫っすよ?まあでも、ロープウェイ(コイツ)の動かし方が思ったより単純で助かったっす!」


「まあとりあえずヤツらから逃げることには成功した上、思わぬお土産(みやげ)もゲット出来たな!?」


そう言って、C・ハータック達は窓からオレをのぞき込む。

 可哀想に…。コイツら、自分達が逃げ切れて無いコトに気付いてないのか。ロープウェイは構造上、決まった箇所にしか向かえない。ロープウェイを構成してるロープ全体がインソムジャー化してたら、そう言った常識は通用しないのかも知れないが、イナーティ(いわ)く「ロープが中途半端にインソムジャー化してる状態」らしいからソレも無理だろう。

 ってコトは、あまり時間は残されていないな!早いとこ「気になってること」を確認するとしよう。


「やめて!オレに乱暴する気でしょう!?エロ同人みたいに!!」


 まず手始めにそう叫んでみると、


「『エロドウジン』って何だ?この世界の文化か?」


と返されてしまった。う~ん、一番困る反応かもしれない…。


「あ、知らなくて大丈夫です。貴方達が知っても何の得にもならないんで…」


とマジメに返さざるを得なかった。


「お、おう、そうか?」


「でもさ、そろそろ答えてくれよ。オレを捕まえてどうする気なんだ?」


「ククク…、知りたいか?」


「そうやって余裕ぶってる場合じゃ無いんすよ、アンタら」


「え?」


 可哀想なコイツらに、オレは真実を教えてやることにする。


「ロープウェイって乗り物はね、決められた場所にしか向かえないんだよ。車や飛行機みたいに自由にドコにでも行けるモノじゃ無いの!」


「マ、マジか!?」


ロープウェイ(コイツ)の構造をよく見てごらんよ。コイツはロープの伸びてる先にしか行けないの!」


「ああ!!い、言われてみれば…」


「んで、逆戻りするのにも操作室で指示を出さにゃならんの。当然、アイツらもロープウェイの仕組みは知ってるから、行った先にフェアリーティアーズ達が待ち構えていたらOUT…ってこと!。余裕が無いって意味が分かったろう?」


「く、くそう…!」


「分かったら話してくれよ、一体オレをどうするつもり?」


 オレがそう(たず)ねる理由、それこそが「気になってること」にあるのだ。

 前々からずっと気になってたんだ。C・ハータック(コイツ)全然、魔法少女の敵に向いてないなって。コイツの言動の端々(はしばし)からは「良い人感」が隠し切れてないのよ。「魔法少女(フェアリーティアーズ)は倒さなければならない敵」と割り切ってはいるようだけど、それ以外の無関係な人間に対しては極力危害を加えないように行動しているからな。インソムニア全体がそういうポリシーなのかとも考えたけど、そうじゃないことはE・トゥルシーを見て分かった。

 だからオレは知りたいんだ。「オレという人質(ひとじち)を手に入れた時、果たしてC・ハータックはどのように行動するのか?」この答えを知れば、コイツの人柄が理解出来る。そうすれば、今後のオレ達が取るべき行動の指針も掴めるかもしれない…。


「さささ、早く答えてくれよ。時間が無いぞ?」


 オレはC・ハータックに答えを(せま)る。


「そ、そうだな…。君の質問に答えてあげよう」


 さて、どう来る?単なるエサとして利用する気か?それとも尋問(じんもん)する気か?


「単刀直入に言おう。ロム少年、オレ達と一緒にインソムニアの一員にならないか?」


 ああ、ナルホドねぇ、そう来ますか…。


「この前のバケツのインソムジャーとの戦いを見てハッキリ分かった。君は素晴らしい戦闘スキルを持っている!我々としては是非(ぜひ)とも、君に仲間に加わって欲しい所だ!」


 確かに、そう考えるのは当然かもしれない。オレを仲間にしてサブローにぶつけることが出来れば、自分達はフェアリーティアーズの相手に集中出来るからな。

 でも当然、オレがそんな勧誘に乗るワケが無い。


「おいおい、勘弁してくれよ。オレがアンタ達の仲間になる?冗談じゃ無い!お断りだよ!」


こう言葉を返す。この返答も予想してるハズだ。どう来る?


「まあ確かに、そうなるよな。オレも君がすんなりと仲間になってくれるとは思っちゃいないよ。だから一つ、オレの話を聞いてくれないか?」


「何だよ…?」


 オレは黙って聞いてやることにする。


「まずはオレ達が何でフェアリーティアーズと戦ってるかってコトから話さなきゃな。オレ達インソムニアは…」


「知ってるよ。この世界を含めた色々な平行世界を侵略するのが目的なんだろ?んで、それをフェアリーティアーズに邪魔されているから戦ってるんだ」


 ポンイーソーから受けた説明を再度聞くつもりは無いので、オレの方で(はぶ)いてやることにする。


「おお、知ってたか!なら話は早い!」


 C・ハータックは嬉しそうに言葉を続けた。オレの予期してなかった、衝撃の言葉を…


「じゃあソレを()まえて一つ取引だ!君がオレ達の仲間になったら、オレが色々な平行世界に連れてってやる!君の見たことも無いモノが沢山見れるぞ?どうだ、悪い話じゃないだろ?」


「んな…!?」


まさかそう来るとは思わなんだ!どうする?普通の人ならば…


「ど、どうしてそうなる?んなコトしてもらって、オレに何の得になる?」


こう返すのが普通かな?


「おいおい、とぼけても無駄だぜ?オレには分かるんだ。君は『自分が楽しそうだと感じたことを行動の指針にするタイプ』だろ?」


「な!?どうして…」


 図星だった。何故(なぜ)だ?どうしてオレの行動基準を、マトモに会話も交わしたことの無いコイツが知っている?


「どうして分かるかって?そりゃあ分かるさ!オレも君と同じタイプの人間だからな」


 な、なるほど…。


「お仲間、ってワケね…」


「そうともよ!オレがインソムニアで侵略尖兵(しんりゃくせんぺい)やってるのもソレが理由だ!毎日毎日、同じ事の繰り返し…、日常に飽き飽きしていた所だった。そんな時にインソムニアが現われて、勧誘されて、楽しそうだと思ったから今の道を選んだ!オレだけじゃ無い!リカちゃんやイナちゃんも同じさ!」


「は、はぁん、そうか…。オレはてっきり、無理矢理侵略の手伝いをさせられてるのかと…」


「だったらこんなに生き生きとしちゃいないさ!このロープウェイのように、毎日が見たことの無いモノばかり!楽しくて仕方がねえよ!」


 確かに、コイツらのロープウェイを見てのはしゃぎっぷり、アレはウソじゃ無かったな…。


「君にもオレの楽しみを共有させてあげよう!これまでインソムニアが侵略してきた平行世界に連れてってやる!見たこと無いモノばかりだぞ?」


「………」


 C・ハータックの提案に何と返すべきだろうか?オレは言葉を迷っていた。

次回はカズノリ視点で話が進みます。

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