第1話【ピンクの魔法少女 ティアーミラクル】 その6「ティアーミラクル」
未来来希が変身した魔法少女ティアーミラクルVS「インソムニア」のC・ハータックのバトルが始まった。
「行け!インソムジャー!!」
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!!!」
ハータックの号令に呼応し、道路標識のバケモノ「インソムジャー」が耳障りな咆哮をあげる。肝心のハータック自身は後輩2人と一緒に、例の空中浮遊で空中に待避する。案の定、戦うのはヤツ本人では無くバケモノのようだ。
「パンチだ!」
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!」
ハータックの指示に従い、バケモノが拳を振り下ろす。
「よっと!」
だがティアーミラクルは攻撃を後ろに跳んで軽々と躱した。敵の拳がアスファルトに命中し、地面に衝撃が走る。乗用車くらいならペチャンコに出来そうだ。
「避けられても気にするな!パンチ、パンチ&パンチだ!!」
「イ゛イ゛!イ゛イ゛!イ゛イ゛イ゛!」
ハータックの指示通り、バケモノは左右の拳を次々振り下ろすが、
「そんな攻撃、当たってあげないよ!」
との言葉通り、ミラクルは軽々と避けてみせる。
「じゃあそろそろコッチから行くよー!」
そう言ってミラクルが腰に差していたステッキを手にする。柄は彼女の服と同様のピンク色、先端にはハート型の水晶のようなモノが付いている。
「フェアリーティアーズウェポン・チェンジ!」
掛け声と共にステッキの姿が弓矢に変化した。と言っても「弓と矢」に変化したのでは無く、なりきり玩具でよく見る弓と矢が一体となっているタイプのヤツだ。水晶が矢の羽根に相当する。玩具だとスイッチを押すと発射音が鳴るのが通例だが、この場合は…?
「ミラクル・シャイニングアロー!!」
ミラクルが水晶を引っ張ると、ステッキから光の矢が発射された。
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!」
矢はバケモノに見事命中!矢が刺さった部分から黒いモヤのようなモノが吹き出した。
「それそれそれそれぇ!!」
ミラクルは水晶を引き続ける。引いた分だけ光の矢が発射された。なるほど、矢の装填が必要無いので効率的だ。
「イ゛…イ゛イ゛……イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ッ!!!」
光の矢を浴びたバケモノが、苦しげな声を発する。
「ヤバいぜ!このままじゃ浄化されちまう!」
「パイセン、パイセン、ちょっと耳貸して欲しいんスけど」
焦るハータックの服をイナーティが引っ張る。
「なんだい、イナちゃん?」
「ゴニョゴニョゴニョ…」
「…なるほど、分かったぜ!」
後輩からアドバイスを貰ったらしきハータックが、インソムジャーに命令を下す。
「怯むな!体全体を使ってスイング攻撃だ!」
「イ゛イ゛イ゛イ゛!!」
ハータックの命令を受けたバケモノが、前傾姿勢で体をミラクルに対して振りまわす。
「えっ、きゃあっ!!」
明らかにパンチの時よりもリーチが長かった。その差のせいか、ミラクルは攻撃を避けきれずに吹き飛ばされ、塀に衝突してしまった。
「やったぜ!イナちゃんのアドバイスどおりだ!」
「いやぁ、アイツ元々縦に長かったっしょ?後から生えてきた手足で戦うよりコッチの方が向いてるんじゃないかって思ったんスよねぇ」
確かに、道路標識を武器にして戦うキャラクターをアニメで見た記憶がある。リーチを活かした戦い方というワケか。中々やりよる。
「よし!飛び道具には飛び道具で対抗だ、インソムジャー!!」
「パイセン命令がテキトーすぎーw」
ハータックのあやふやな指示をリカーディアが笑うが、驚くことにこの指示がヤツらに功を奏した。
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!!」
インソムジャーの顔面、ちょうど標識に当たる部分から紫色に光る輪が次々と発射される。輪は徐々に小さくなっていき、動けないでいたミラクルに接触する。
「あぁっ!何コレぇ!?」
何と、ミラクルが紫の輪に体を拘束されてしまった!
あのインソムジャーは「車両通行止め」の道路標識が素材になっている。それはつまり「人の行動に制限を課すための存在」が素ということだ。故に、相手の動きを制限するための拘束技を使えたというワケなのか。
「うおっ!何だか知らんがやったぜ!!」
ハータック自身もこの僥倖に驚きを隠せないでいる。
「は、放してよぉ!!」
「よくあんなイミフな命令で、ここまで都合の良い技だせたっスねぇ」
「いや、あの命令で良いんだよリカちん。パイセンの指示があやふやだったからこそ、アイツのイヒョーを突けたんっしょ」
「そうなのか?ま、知らんけど上手くやれたからヨシ!」
もがくミラクルを尻目に、ユルユルな会話を始める3人組。
何にせよ、これはピンチだ!ここでミラクルがやられたら、今度こそ世界は終わりだろう。この状況を打破出来るのはオレだけなのか?だがあの戦いに乱入することは不可能だ!ヘタレとか関係なく、何の力も持たないオレには戦いに参戦しても出来ることが無いのだ。
いや、逆に考えるんだ一典。傍観者のオレにしか気付けないこともあるハズだ!もう一度よく現場を観察するんだ!!オレは光明を見出そうと、現場を注視する。視力2.0以上の両目をエロ目的では無く、今度は世界のために活用する。
その結果、見つけた!このピンチを抜け出す光明を!!
それはヤツの首元にあった。スマホの時計を確認する。現在時刻16時58分!しめた!!
「んじゃま、可哀想だがトドメを刺しますか」
「ミラクル、頑張るポン!早く抜け出すポン!!」
「うぅ~ん!!抜けないぃ~っ!!!」
マズい!動けないミラクルをこのまま潰すには1分もかからないだろう。オレが何とかしなくては…。
考える時間は無かった。オレは肺イッパイに息を吸い込む。
「アアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
幼稚園児の頃、毎日見ていたカートゥーンアニメの猫のキャラクターがするような絶叫を、周りを気にせずブチカマした。
「イ゛イ゛!?」
「な、何だぁ!?」
「何!?今の声!」
インソムニアの連中もミラクル達も、全員がオレの絶叫に気を取られる。現在時刻16時59分。
「何だし、今の?」
「誰かいるぞ!リカちゃん、イナちゃん、探してくるんだ!!」
「「アイアイサー!!」」
ハータックの指示を受けた後輩2人が、宙を浮きながら辺りを探し回り始めた。
早く隠れなくては…!オレは急いで隠れるための道具を探す。
「…あった、ブルーシート!」
オレは小声で叫び、ちょうど近くの家の庭に置かれていたブルーシートに潜り込む。中の木材に小柄な自分の体を密着させる。
「あと10秒…」
息を潜めて時計を確認する。5、4、3、2,1…、17時00分!!
「あっ!動ける!!」
「な、何だ?何が起こった!?」
ミラクルとハータックの声が聞こえる。オレの予想は的中した。
「何事っすか!?」
「パイセンどうしたんすか!?」
「分からねえ!分からねえが、ヤツの拘束が解けちまった!!」
「「えええええ!?」」
後輩2人の困惑の声を聞き、オレは口に笑みを浮かべる。
インソムジャーの首元の板に「15―17」と書かれていた。これはつまり「車両通行止めの制限が15時から17時まで課される」ということであり、あの拘束技にもその時間制限が適用されるのではないかと予測したのだ。確証は無かったが、これ以外に光明が見出せなかったので、当たっていて良かったと心から思った。
「「パイセン大丈夫ッスか!?」」
後輩2人の声が遠ざかっていく。先輩の元に駆け戻ったのだろう。
敵に気付かれないよう注意しつつ、オレも戦況を見に戻る。
「くっ、もう一度スイング攻撃…」
「させないよ!」
そこでオレは、ミラクルが2本の光の矢をインソムジャーの両足に突き刺した場面を目撃した。
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ッ!」
「何ぃ!?」
「これでもう動けないよね!」
そう言ってミラクルはステッキを元の姿に戻した。そしてそのステッキを体の前で大きく振り回す。ハート型の水晶にピンクの光が満ちていく。
「トドメだよっ!!」
まぶしい光に包まれたステッキの先をバケモノに向ける。
「フェアリーティアーズ・シャイニングウェーブ・フォルテ!!!」
ステッキからピンク色の光線が発射された。魔法少女の必殺技だ!
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛………」
光線の直撃を受けたバケモノは光に包まれて跡形も無く消滅してしまった。
「やった!魔法少女の勝ちだ!」
オレは思わず小声で叫び、ガッツポーズをしてしまう。
「うげええ、そんなぁ…」
「「パ~イセ~ン…」」
トリコロールトリオは残念そうな様子を隠せないでいる。ザマアないぜ。
「私の勝ちだね!」
「ぬぬぬ、中々やるじゃないか、ティアーミラクル。今日の所はこの辺にしといてやるぜ!さらばだ!」
「「バイビー!」」
言うが早いか、トリコロールトリオはテレビの画面が消えるが如く、その場からプツンと姿を消してしまった。
「逃げられたポン…」
「そうだね。でも、勝てたからヨシ!」
「のんきなモンだポン」
「そういえば、あの叫び声って誰のだったんだろう…」
あ、この流れはひょっとしてオレを探しに来るパターンか?それはダメだ!もし見つかって、戦いを見ていたことがバレて、その流れであの変身シーンを見ていたことまでバレてしまったら…
「やっべええぇぇっ!」
こうしちゃいられない。オレはミラクルとタヌキが逆方向を向いている隙に、全力ダッシュでその場を後にした。
「はぁっ!はぁっ!はぁ…、ここまで、来れば、大丈夫だろぉ…」
今日は走ってばっかりだ。息を吐きつつ、オレは空を見上げる。空はいつの間にか紫色では無く、夕焼けの色に染まっていた。
気になったので、例の倒れていたお爺さんの家まで戻ってみる。敷地内ではお爺さんが盆栽を弄っていた。
「こ、こんにちは」
「おや、こんにちは」
お爺さんは何事も無く返事をした。
「中学校の生徒会の見回りで来ました。何か変わったことはありませんか?」
「いや、特に無いがね…?」
「え、そ、そうですか…」
お爺さんに嘘を言っている様子は見られないので、オレは少し驚いた。倒れていた間の記憶は無くなっているのか?
「な、なら良いんです。失礼しました」
その場を立ち去ったと同時に、疲れがドップリと出てきた。あれだけ濃い時間を過ごしたのは初めてなのだ、当然だろう。
「色々と気になることは多いけど…、今日はもう帰ろう…」
オレは疲れた足を引きずって家へと戻るのだった。
第1話【ピンクの魔法少女 ティアーミラクル】 これにて終了です。第2話、新たな魔法少女が登場します。お楽しみに!
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。気に入っていただけた方は是非、ブックマーク、評価、リアクションの方よろしくお願いいたします(既にして下さった方はありがとうございます)。今後の執筆活動の大きな原動力になります。
また、感想をくださると非常にありがたいです。ログイン無しで感想を書き込める設定にしてあります。今後の参考にさせていただきます。