第3話【裏切りは優しく囁く】 その8「天浄山」
唐突なインソムニア襲来の知らせを耳にしたオレは、咄嗟に海月の顔を伺う。彼女がロムとサブローを好ましく思ってないからである。しかし…
「皆さん、行きましょう!」
海月はそう呼びかけた!ロムとサブローの同行を許可したのである。
考えてみれば、今この場で2人の同行を拒否すれば、言い争いは避けられないだろう。現場に一刻も早く到着するためには、同行を認めざるを得ないのである。
「よし、行くぜ!」
案の定、ロムはついて行く気満々だ。
「何か自然とロム達まで同行する流れになってるポンね…」
ポンイーソーが丁度オレが気にしていたトコロに触れると、
「何言ってんだよポンイーソー!戦力は多い方が良いだろ?ほれ、さっさとワープの準備!」
とロムが言葉を返した。
「カズノリ、お前はココに残るか?」
サブローが腰を上げながら、オレに問いかける。
「お前も行く気なんだろ?」
「当然だ」
「だったらオレも行かざるを得ないだろ?お前ら2人だけで行かせられるかよ」
「なら、オレから離れるなよ」
というカンジで、オレも同行することになった…。
「もう、とりあえず行くポン!」
ポンイーソーが展開する半径1メートル程度の結界に6人で固まって入る。…だから狭いって!!
「じゃあ皆、行くポンよ?」
ポンイーソーの合図と共に結界が眩い光に包まれて…。
…そして気付いた時にはもう、インソムニアの連中が襲来した地点までワープしていた。なぜヤツらがいることが分かるかというと、空が紫一色に染まっているからだ。最初見た時は言葉を失った不気味なこの空も、今となってはもう見慣れたモノである。
「ほうほう…。今回は中々通な所に辿り着きましたな?」
「ココは…、天浄山ですね」
ロムと海月が辺りを見回しながらそう言った。
天浄山とは、宜野ヶ丘市にそびえる標高600メートルほどの山である。宜野ヶ丘市の土地神である「阿素羅天浄」が奉られている聖なる山という言い伝えが有り、未だに市内では信仰している老人達がチラホラいるようだ。オレ達のような若い連中はモチロン、そんなスピリチュアルな話を信じちゃいない。ただし、夏になると「阿素羅天浄」の神祭である「天浄祭」という、市内で最も大きなお祭りが開かれるので、その時だけは若者皆が阿素羅天浄に感謝するのだ。現金なモノである。
閑話休題、オレ達がワープした場所は天浄山の麓だった。麓からロープウェイに乗って頂上に行くと、宜野ヶ丘市を一望することが出来る。特に夜景が絶景だと言うことで観光スポットにもなっているのだ。ロムが「通な所」と言ったのは、この事を指してであろう。
「んだよ、第一中学の範囲じゃなくて第二中学の範囲じゃねえか」
「それ言ったら、サッカーの演習試合があった場所は第三中学の範囲だったじゃんかよ?」
「そう言や、そうだ」
「いずれにせよ、宜野ヶ丘市内であることに変わりはありませんね」
「ポンちゃんが言ってた『インソムニアは市内にしか行けない』って話は本当なんだねぇ」
そんな会話が交わされていた、その時だった。
「うひょー!パイセン、この乗り物イカレた形してるっす!!」
誰かの歓声が聞こえてきた。
「今の声って…」
「リカちゃん、とか呼ばれてるヤツだな」
「ロープウェイ乗り場の方から聞こえましたね」
「行こう、皆!」
オレ達は急いでロープウェイ乗り場へと向かう。
「かーっ!コイツぁヘンテコリンだな!タイヤも無ければ翼も無え!」
「ロープ一本にぶら下がって宙に浮いてるっすよ!」
「落ちそうでコエーっ!スリル満点っすね!!」
案の定、C・ハータック率いるトリコロールトリオが、麓に止まっているロープウェイの窓から顔を出して、はしゃいでいた。子供かアイツら…。
「コラコラ君達!そんな所で何やってるんだね!?」
ロムがロープウェイに乗った三人組に大声をぶつける。
「ロープウェイは、オモチャじゃないんだぞっ!」
「げっ!フェアリーティアーズとメチャンコ強いガキンチョ共!!」
「おー、来たなお前ら!つかコレ、ロープウェイってのか!?」
オレ達の存在に気付いたリカーディアが顔を引きつらせる一方、C・ハータックは気さくに声をかけてきた。先輩らしく肝は据わってるみたいだけど、馴れ馴れしすぎないか?アンタ、親戚の兄ちゃんか何か?
「ロープウェイを知らないのか、可哀想に…」
「いや、別にロープウェイを知らない事が可哀想だとは思えないけど…」
「ともかく!貴方達の今日の狙いは、山に来た観光客達ですか!?」
海月の言う通り、近くには観光客と見られる外国人やカップルが倒れていた。3バカの大騒ぎを止める者がいなかったのも、きっと職員全員がネガーフィールドの餌食になったからなのだろう。
「これ以上好き勝手はさせないよ!」
「変身するポン!希!雪花!三佳!」
おっしゃ来た、変身シーンっ!!よし、今日は天使も悪魔も声をかけて来ないな。いつも五月蠅いからな、アイツら…。
「「「オープン・アイズ・メタモルフォーゼ!!!」」」
フフフ、何故オレが危険を冒して魔法少女に同行してるかって、変身シーンのためだよ、このため!ああいやいや、ロムとサブローを放っておけないってのも確かなんだよ?確かなんだけど、ネ。
ふぅ、今日のオレは有原の裸に夢中だ。有原の巨乳には、どうしてこんなにも興奮させられるのだろう?それはきっと、低身長な彼女の体躯に似合わない、一際目立つ癒やしのポイントだからなのだろう。公園の中の池よりも、広大な砂漠にポツンと存在する青いオアシスの方が人の心を惹くように。青空に浮かぶ太陽よりも、真っ暗な夜空に煌々と輝く月の方が人の心を惹くように。高身長の巨乳よりも低身長の巨乳の方が、男の心を惹きつけるのだろう…。
「来る!絶対来る!希望に満ちた未来を守り抜く笑顔の魔法少女!ティアーミラクル!!」
「虐げられし人々の涙を知りなさい!罪を罰する氷結の魔法少女!ティアードロップ!!」
「フレッ!フレッ!皆!全人類に元気をあげる声援の魔法少女!ティアーファイン!!」
「「「私達の世界は私達で守る!『インソムニア』と戦う魔法少女フェアリーティアーズ、華麗に登場!!!」」」
…なんてワケ分からんことを夢想してる内に、魔法少女の変身は完了しましたよっと。
「よぅし、オレ達も…」
魔法少女の変身シーンを見物し終えたロムが、徐に口を開く。
「嶺上開花、タンヤオ、対々和、ドラ5!倍満!!和野宏武、見参!遠慮無く『ロム』と呼んでくれ!」
いやそれ、さっきお前が麻雀でアガった時のセリフじゃねえか!!どんだけ嬉しかったんだよ!?
「棚田三郎。ザコに名前以外を語るつもりは無え」
サブローが名乗りを続ける。コイツはこの名乗りで統一する方針なのか。どうでも良いけど…。
「……ホレ」
ロムがオレの目を見ながら催促する。だから、世界侵略しに来てる敵に本名を堂々と名乗っちゃうのオカシイって!オレは本名言わないからな!?プライバシーは保護するからな!?
「…えーと、オレはこの2人の付き添いです。名前はちょっと、カンベンして下さい」
ロムとサブローを交互に指し示しながら、オレは一応の自己紹介を済ませるのだった。
「おー、元気があって良いねぇ。楽しくなってきた!」
オレら6人の名乗り口上を聞き終えたC・ハータックが嬉しそうに言う。
「あれ、何だか余裕っぽい?」
「当然っしょ!」
ミラクルの疑問にイナーティが答える。
「今日のパイセンが自信満々なのには、ちゃんとした理由があるっすよ!」
ちゃんとした理由、だと?何だか嫌な予感がするぞ…!




