第3話【裏切りは優しく囁く】 その7「総統エレボスと九局長」
「お、良いねぇ!そういうのを待ってたんだよ!!」
ポンイーソーの説明を聞いたロムがテンションを上げる。
「インソムニアのボスである『総統エレボス』と大幹部『九局長』かぁ!らしくなってきたじゃないの!!」
「らしくって何ですか?」
海月が疑問符を浮かべる。ああ、彼女は漫画とか読まないからなぁ…。
「分かんないのか、海月?なら教えてやる!」
ロムがノリノリで海月に説明する。
「こういうカンジの敵組織はな、まずボスに仕える幹部を倒していくんだよ!で、幹部を全員倒すといよいよボスとの最終決戦!総統エレボスを倒して無事エンディング!これが基本の流れなんだよ」
「いや、そうはならないポン」
ポンイーソーがバッサリとロムの説明を否定した。
「え~!?どうしてだよポンイーソー!」
「いやいや、これは現実だポンよ?漫画やアニメの流れと一緒にはならないポン」
「この中で一番アニメに出てきそうなお前がソレ言う?」
「「プフッ」」
オレは思わず吹き出してしまった。同時に有原も吹き出してたのを、オレはちゃんと見てたぞ!
「確かにそうだポン…、じゃなくて!皆が総統エレボスと戦う展開にはならないポンよ!」
「え!?せっかく大ボスがいるってのに戦わないのかよぉ!」
「さっきも言ったけど、この世界の侵略に関しては『侵略支部』が担当してるポン。インソムニア本部で陣取ってる総統エレボスが、わざわざ支配下になってない僻地まで来る理由が無いポン」
「じゃあコッチから攻め込めば…」
「流石にインソムニアを舐めすぎポン。そもそもエレボスの正確な居場所はオイラにも分からないし、仮に分かったとしても、エレボスの近くには今まで戦ってきたインソムジャーが可愛く見える程の戦力で、厳重な警備が敷かれてるハズだポン。どうしてもって言うなら、ロム一人で行ってきて欲しいポンね」
「いや、流石にソコまでするほど馬鹿じゃ無いよオレは。ただねぇ、ラスボスがいるのに戦わないってシチュエーションは、若干テンション下がるのよねぇ…」
その言葉通り、ロムのテンションは明らかに下がっていた。
まあ、ロムの気持ちも分からんワケでは無いけど、さっき「ポンイーソーがどんな力を持ってるか分からない」って自分で言ってたじゃないか。総統エレボスなんて尚更、ってヤツである。
「更に言うなら、ロムはさっき幹部を全員倒すと言ってたけど、その展開も有り得ないポン。支配下に置いた世界で起こり得る反乱を防ぐ『治安維持局』の局長が、侵略が完了してない世界に来るハズも無いポン」
「九局長の中には『支配下に置いた世界で活躍する局長』と『支配域では無い世界で活躍する局長』がいる、ということでしょうか?」
追い打ちをかけるポンイーソーの説明を聞き、海月が質問を投げかける。
「その通りだポン、雪花。今言った『治安維持局』や、人々の生活環境を保持する『生活環境局』の局長は正しく『支配下に置いた世界で活躍する局長』だポン。故に侵略途中の世界に来ることは有り得ないポン」
「んじゃあ、オレ達が戦う可能性がある局長って言ったら?」
往生際の悪いロムが質問を重ねた。
「この世界を侵略することがインソムニアにとって極めて重要な任務だとするなら、『侵略推進局』の局長が出張ってくることはあるかもしれないポン。後はまあ『兵士育成局』の局長が、ココを実務訓練の地に指定したら来るかなぁって程度だポンね」
「E・トゥルシーが言ってた『世界偵察局』は?」
ロムの質問を聞いて、ふとオレはC・ハータックが同じ単語を言っていたことを思い出した。あれはそう、アイツが初めてロムとサブローと会った日に言ってたんだったな!それも、昨日のE・トゥルシーと似たシチュエーションで…。
「『世界偵察局』も『侵略推進局』と同じで、これから支配を進める予定の世界で仕事を行う局だポン。ただ『世界偵察局』が仕事を行うのは、侵略を始める前段階なんだポン」
「前段階?」
「平行世界における人間の身体能力は千差万別だポン。それこそ、ロムやサブローみたいにフェアリーティアーズを優に超える身体能力が当たり前の世界も存在するポン。そんな世界に侵略の手を伸ばしても、インソムニアが敗北するのは当然だポンね?」
まあ、ロムやサブローの力を見てアイツらがビビってたってコトは、そうなんだろうなぁ。
「前にも説明した通り、平行世界の侵略を行うにはパラレルゲートの開発や維持、インソムジャーやネガーフィールドの準備等、膨大な量の感情エネルギーが必要になるポン。にも関わらず『いざ侵略を開始したら我々の手に負えない世界でした』ってコトになったら目も当てられないポンね?そんな状況を防ぐために、予め平行世界の人間の文化や身体能力を調査し、侵略が可能か否かの判断をするのが『世界偵察局』の仕事なんだポン」
「けど今回の場合は、その『世界偵察局』の仕事に不手際があって、オレやサブローみたいな人間の存在を認知出来なかったってコトなのか?」
「E・トゥルシーの言葉を聞く限り、そういうコトだと思うポン」
「なら、不始末の責任を取りに来た『世界偵察局』の局長と戦う展開もあり得るかもしれねえな!」
「ハァ…」
ポンイーソーがため息をつく。すみませんね、オレの友人がこんなんで…
「ロムはどうしても局長と戦いたいみたいだけど、一応言っておくポン」
ポンイーソーの口調が真剣だ。
「今まで戦ってきた侵略尖兵は『インソムジャー』という兵器を使ってるだけの、単なる人間だポン。でも九局長はそうじゃ無いポン。インソムジャー無しでも十分に戦える、インソムニアきっての強者ばかりだポン。今までのように戦って勝てる相手じゃ無いポンよ!」
「ポンイーソー、その説明は多分逆効果だぞ」
オレはそうポンイーソーに指摘した。
「え?」
「そう来なくっちゃな!」
ほうら、予想通りロムの目がギラギラしてやがる。
「総統に仕える大幹部だもんな!バケモノ使わず戦えるヤツらじゃないと面白くねえ!くおぉ!どうにかして戦う展開にならねえかなぁ!?」
「全く、こりゃダメだポンね…」
「すみませんね、年頃の中二男子ってこういうモンなんすよ」
オレがとりあえず謝ったトコロで、話に入り込んで来る者がいた。
「フン!んなコトしなくても、この世界の『侵略支部』メンバーを全員ぶっ殺しゃ済む話だろ?」
今までの話を聞いていたらしいサブローが、物騒な質問をする。先程笑った有原と言い、大富豪で遊んでる組も全員、何だかんだでゲームをしつつポンイーソーの話を聞いていたようだ。
「いやいや、別に殺さなくとも良いポン。前も言ったけど、ネガーフィールドを使った侵略が進まないと、ヤツらはただただ資源を消耗していくだけで赤字なんだポン。だからヤツらからこの世界を守るなら、これまで通りインソムジャーを迅速に倒していくのが一番確実なんだポン。『このまま侵略を続けても損するだけだ』と向こうが諦めてくれれば、皆の勝ちなんだポン」
「その諦めるってのが何時になるのか分からねえじゃねえか。殺した方が手っ取り早いだろ」
「さっきも言ったけど、アイツらは組織からしてみれば末端だポン。だからアイツらを殺しても、侵略を諦めて無い限りは別の人員が派遣されるだけポン。インソムニアは多くの世界の侵略を済ませてきた巨大組織だから、人材切れは期待できないポン」
「だとよサブロー。殺すとかって物騒な発想だけじゃ渡っていけないモンなのよ、世の中ってのは!」
「お前が言うなよ…」
そうロムに吐き捨て、サブローはゲームの方へと意識を戻してしまった。
「ま!とりあえずオレの知りたい情報は得られたぜ。サンキューな、ポンイーソー!」
「どういたしましてだポン」
「でも、コレで終わりではないのでしょう?」
海月がそうロムに問いかける。
「このままじゃマズイと思ってることがある、と和野君は言ってましたよね?」
「ああ、それがこの話だよ?仮にも世界を守るための戦いだってのに、敵の組織図も分からないのはマズイだろうって話!」
「ああ、なるほど。そういうことだったんですか…」
「まあ、敵のボスが引きこもりだってのにはガッカリしたけどな。やっぱオレとしては漫画やアニメみたいに…」
「ああっ!!」
ロムの言葉を遮って、ポンイーソーが大声をあげた。
「ど、どしたよポンイーソー?」
「ウワサをすればってヤツだポン!!インソムニアが攻めてきたポンっ!!」




