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第3話【裏切りは優しく囁く】 その5「魔法少女と遊んで親睦を深めよう」

 トランプや花札が出来るゲームソフト「遊びの世界辞典」を持ち出してきたロムが口を開く。


「ルドーやろう、ルドー!」


「「アホか!!」」


 オレとサブローが同時に叫んだ。未来来(みらくる)に教えたゲームで遊ぶんじゃないんかい!


「あんな虚無の(かたまり)やらせようとするんじゃ無えよ!!」


「つまらなすぎるんだよアレ!空気が一気に冷えるわ!!」


 オレ達が(そろ)って「ルドー」に拒否反応を示す理由は、単純に面白くないゲームだからだ。だが、ここまで強烈な拒否反応を見ると興味を示してしまうのが人間の習性なワケで…


「え?何々?」


「ルドーってどんなゲームなの?」


未来来と有原が反応してしまった。


「希さん、三佳さん、悪いことは言いませんから別のゲームで遊びましょう」


 海月が苦い顔をしながら2人を止めに入る。海月がルドーを知っているとは…、いや、彼女のことだから雑学の一つとして頭に入っていたのだろう

 ルドーは確かに、何もルールを知らない人でも即座に遊べるゲームではあるのだが…。ハッキリ言って親睦(しんぼく)を深めたい人を相手にやるようなゲームでは無い。興味が()いた人は、各自で調べて下さい。


「冗談だよ、冗談。あんな楽しくないゲーム、オレがやろうとするワケ無いだろ」


 ロムは笑いながら皆にゲームItti(イッチ)を手渡す。


「じゃあ親睦を深める意味も込めて、お前らで『大富豪』やれよ、『大富豪』!未来来もルール知ってるよな?」


「うん!ロム君から今日トランプで遊ぶって教えて貰ったから、図書室でルールブック読んで覚え直したんだ!」


 おお、事前にそこまで伝えてあったとは、やはりロムは抜かりが無いな…。あの実験も悪いことばかりでは無かったのかもしれない。

 と、ここでオレは有ることを思い出す。


「ロム、このゲームソフトって最大4人対戦だろ?2人余るぞ?」


 オレが疑問を口にすると


「オレは海月と麻雀(マージャン)で対戦だ」


ロムが意外な返答をしてきた。


「わ、私と、ですか?」


「おう。お前、ポンイーソーのあだ名の由来が『混一色(ホンイーソー)』だと見抜いてきたよな?麻雀出来るんだろ?」


「私は麻雀をしに来たワケでは…」


「だーからお前はダメなのよ~」


 ロムがため息をつきながらダメ出しする。


「さっき言っただろ?親睦を深める意味を込めてのゲームだってよ。でも、このゲームは最大4人対戦だから余った2人で出来るゲームを、ってコトだろうがよ」


「では何故(なぜ)、私と和野君が余りなのですか?」


「麻雀知ってるのがオレと海月だけだからだよ。それとも何か?オレと対戦する自信が無いか?」


 ロムがそう挑発した瞬間、海月の発するオーラが変わった!…ような気がした。


「私が麻雀に自信が無い、と?そんなワケが無いでしょう」


あ、やっぱり気のせいじゃ無い!海月のあの目…、本気の目だ!


「あえてこう返しましょう。私に麻雀を(いど)んだことを後悔させてあげます!」


「うし!いい意気込みだ!上等だぜ!!」


「ルールはどうします?」


「四人打ちの東風戦、残り二人はCPUだ」


「赤ドラは…」


 あ、何だか専門的なワードが出始めたぞ。もう二人だけの世界だ。


「じゃ、じゃあオレ達4人も対戦始めますか」


 オレはそう切り出したものの「これで良いのか?」という思いが(ぬぐ)えない。未来来はロムとトランプをしたかったんじゃないのか?

「それ、ロンです」


「何ぃ!?混一(ホンイツ)狙いじゃなかったのか!?」


「私は白と萬子(マンズ)一二三(ひふみ)五六七(ごろち)を鳴いただけです。混一狙いとは一言も言ってませんが?」


役牌(やくはい)のみで単騎待ちってワケか」


「それで終わりませんよ。七索(チーソー)暗刻(あんこ)と赤の五萬(ウーマン)でドラ4。満貫(まんがん)です」


「くあぁっ、持ってけドロボー!」


 何だか向こうが盛り上がっているな?…と、コッチはコッチで終盤戦だ。オレの手札は3、8、9、9、(キング)。このKが通ればオレの勝ちは確定だろう…。


(クイーン)だ」


 前のサブローがQを出した。


「じゃあK!」


 ココで(エース)や2が出なければ…


「パス」


「パス」


「パスだ」


来た!勝った!!


「9のペア!!」


「…パスだよぉ」


 有原がパスした。よしよし。この終盤、10以上のペアを持ってる人はいないだろう。あとは8切りで3を出してフィニッシュ…


「じゃあ(ジャック)のペア!」


 うわぁ!未来来がJペアを持ってやがった!!我ながら見事なフラグ回収…。


「パスだ」


「パス…」


「パスゥ…」


「じゃあ4でアガリ!私が一番!!」


 最後の1枚を出した未来来が喜びの声をあげる。くそぅ、見事に出し抜かれた…。


「8切り、5で終わりだ」


 次の番だったサブローがフィニッシュした。


「二着か、まずまずだな…」


その言葉通り、何とも言えない顔をするサブロー。その次はオレの番だから…


「じゃあオレも8切り、3で終わり」


ふう、とりあえずビリは(まぬが)れたか。


「えへへ、トランプって楽しいね!」


 1着の未来来が嬉しそうだ。ロムと遊びたかったのではないか、というオレの考えは杞憂(きゆう)だったのかもしれない。


「えぇ~!?つまんなーい!!」


 その一方で、終盤に(ほとん)ど何も出来なかった有原が不満を爆発させる。


「ゴメンね、三佳ちゃん」


「フン、ザコが」


「も、もう一回する?」


 オレがそう提案すると


「うん!やろう!今度は負けないから!!」


と有原はすぐに機嫌を取り戻した。


「大丈夫だよな、ロム?」


「あん?オッケオッケー、今コッチは海月が三連チャン中で止めるのに必死だから」


ロムがOKのサインを出したので、此方(こちら)も次のゲームに突入する。


「あの~、盛り上がってるところ悪いポンが、オイラがヒマしてるポンよぉ…」


 と、ココで声をあげたのは、(ひと)りゲームの()からハズされているポンイーソーだった。


「あ、ゴメンねポンちゃん。今勝ったから私と(かわ)る?」


「ありがとうだポン、希。でもオイラはトランプ知らないポンよ…」


「この前の説明、ぬいぐるみのフリしながら聞いてたんじゃ無かったの?」


「確かに耳には入っていたけど、退屈だったから聞き流してたポン。もう殆ど何も覚えてないポンよ」


 まあ確かに、退屈な話で未来来を怒らせようというのが本質だったからな。コイツの反応が正常なのだろう。

 未来来の提案を残念そうに断ったポンイーソーに、今度はロムが問いかける。


「じゃあ麻雀は?」


「それも知らないポン…」


「何だよ~、ポンイーソーって名前なのに麻雀知らないのかぁ?」


「ロムの方で勝手に付けたあだ名だったポンね!?」


 ポンイーソーが鋭いツッコミをかました。


「仕方ねえなぁ、じゃあヒマしてるポンイーソーに一つ質問」


 ゲーム画面とにらめっこしてるロムが再度ポンイーソーに問いかける。


「ポンイーソーのワープ、アレってどんな仕組み?何でインソムニアの連中がいる場所にダイレクトに行けるの?」


「ああ、ソレはヤツらが本部から支給されてるデバイスに関係があるポン」


「デバイス?」


 オレはオウム返しをする。


「ヤツら、どこからともなく現われて、退却する時は一瞬でいなくなるポンね?その芸当を可能にするデバイスが、侵略尖兵(しんりゃくせんぺい)達に本部から支給されてるんだポン」


「侵略をスムーズに行うためのワープ機能付きデバイスってことね?」


 ロムが要約する。


「そうだポン。ただ、デバイスを使って行ける範囲はヤツらが開いている『パラレルゲート』の大きさに依存しているポン。恐らくヤツらは今、この宜野ヶ丘市(ぎのがおかし)の外に出撃することは出来ないハズだポン」


「インソムニアの現われる場所が宜野ヶ丘市内ばかりだったのは、そういう理由だったんですか…」


 海月がそう口にする。実の所オレも、ヤツらが来る場所がずっと市内だった理由は気になっていたのだ。


「んで、そのデバイスとワープにどんな関係が?」


「インソムニアがオイラの故郷を侵略して力を伸ばした、という話は前にしたポンね」


「はいポン」


「いやロム、何で急にオイラのマネを…」


「あぁ、すまんポンイーソー。今のポンは麻雀のポンだから」


「ポン?」


 ロムの言葉が理解出来てない様子のポンイーソーに、海月が説明する。


「自分が対子(トイツ)を持ってるとき…、分かりやすく言うと同じ(はい)を2つ持ってる時に相手がそれと同じ牌を捨てた場合、『ポン』と宣言して奪うことが出来るんですよ」


「ま、(まぎ)らわしいポンね…」


 麻雀のルールはよく知らないが、麻雀をしながら質疑応答する事の弊害(へいがい)が現われているようだ。


「すまんてポンイーソー。確かに、お前の故郷が侵略された話は聞いたよ」


「で、ヤツらのデバイスはオイラの世界の技術を利用して作られてるんだポン。だから…」


「カン!」


 突如、ロムが大声をあげる。


「ツモ来たああああああ!!嶺上開花(リンシャンカイホー)ぉぉぉぉぉ!!!!」


「だから人の話を聞けポォン!!!!」

 

 ロムの絶叫に続いて、ポンイーソーの絶叫が部屋中に響き渡った。

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