第3話【裏切りは優しく囁く】 その4「ロムの家」
放課後、オレと魔法少女3人、そしてサブローを加えた5人でロムの家へと向かう。
「塔岡君、ロム君の家知ってたんだねぇ」
道案内をするオレに有原が話しかけてきた。
「まあ、ロムの家で遊ぶことは多いからね。アイツ、ゲームいっぱい持ってるし」
「三佳、ロム君の家初めてなんだぁ。楽しみだなぁ!!」
そう話す有原からは、ソワソワしている様子が隠し切れていない。まあ、好意を持っている相手の家に向かうなら当然だろう。
「別にロムの家だからって、何かスゴい仕掛けとかがあるワケじゃ無えぞ。フツーの一軒家だ」
「そ、そんなの知ってるモン!!」
サブローの言葉に対し、有原は口を尖らせる。
その一方で未来来もまた、ロムの家に行くのを楽しみにしてる様子だ。
「私、この世界に来てからお友達の家に行くの、初めてなんだ」
この未来来の言葉は、オレにとって意外だった。
「あ、そうなんだ。オレはてっきり、有原か海月の家には行ってるモンだと…」
「それがマダだったんだよねぇ。だから、ロム君の家が最初!」
「三佳も近いうちに家に招待しようとしてたんだけど、ロム君に先越されちゃった」
「ねえ、この世界の人間は友だちの家で何してんの?」
「別に変わったことはしないよ?お菓子食べながら色んなコト話したり、ゲームしたり…」
そう答えてはみたが、ぶっちゃけコレは男子が友だちの家でやることだ。女子がどうしてるのかまでは知らない。
「ふーん、そうなんだ。私のいた世界とあまり変わらないね!」
そんな話をしてる内に、ロムの家へと到着した。
アイボリーカラーの外壁に、紺色の屋根。サブローの言う通り、何の変哲も無いフツーの一軒家だ。そんな彼の自宅のインターホンを押す。
ピーンポーン
「ロムー?来たぞー!」
『ピーンポーン』
「いや、お前までインターホンしなくて良いんだよ!」
オレはツッコミを入れる。オレがツッコミを入れたというコトは、中に入っても良いというコトだ。遠慮無くドアを開ける。
「「「おじゃましまーす」」」
行儀良く挨拶する女子3人を尻目に、サブローは玄関に靴を脱ぎ捨ててズカズカと進んでしまう。まあ、いつもこんな感じだから気にするようなコトでも無い。
「いらっしゃーい!」
お茶の間でオレ達を待ち構えていたのは、戦隊レッドだった…。
「アハハ!ロム君なにそれ~!!」
妙ちくりんな姿の住人を見て有原が笑い声をあげる一方、
「な、何がしたいんですか?貴方は…」
と海月が本気で困惑している。
「コレがこの世界での、もてなしの服装なんだね。へぇ…」
未来来に至っては、間違った知識を仕入れようとする始末だ。
「いやいや、違うから!アイツのジョークだから!」
オレは急いで訂正を入れる。
「カズ、間違った知識は訂正しない方が後々面白いことになるモンだぞ?」
そう言いながら、戦隊レッドのマスクをロムが脱ぎ捨てた。
「ダメだろ!真に受けたまま有原や海月以外の女子を招待したとき、なんて言われるのさ」
全く…、相変わらず行動が読めない男だ。こういう所が彼の面白い部分なんだが、海月には不信感を持たれる原因になってるんだよなぁ…。
まあ、大量のゴキブリのオモチャが降ってくるみたいな、下品な歓迎ジョークで無かっただけ良しとしよう。
「さささ、遠慮無く入ってくれよ。お菓子もゲームも用意してっからよ」
ロムの言葉通り、大部屋にはチョコレートやポテチが乗った大皿と、人数分の「ゲームItti」が置かれていた。
ゲームIttiとは、世界的ゲームメーカー「軟雀道」から発売された携帯型ゲーム機だ。左右で色が別れたツートンカラーが特徴的なゲーム機で、赤&青、緑&オレンジ、黄&黒、ピンク&ライムグリーン、クリアレッド&クリアブルーの5種類が販売されている。
「ロム、誘われたから来てあげたけど、話って何ポンか?」
外では未来来のキーホルダーのフリをしていたポンイーソーが、宙に浮きながらロムに話しかける。
「お、ポンイーソーもちゃんと来たな?」
「来たポンよ。それより、隠し撮りとかしてないポンね?」
ポンイーソーは怪訝な面持ちでロムに問いかける。疑ってる様子を隠そうともしない。
「当たり前だろぉ?んなコトしねえって!」
「そんなこと言って、オイラの様子を隠し撮りした動画を、ロム吉だかって従兄弟に送ろうとか考えてるワケじゃないポンか?」
「しないしない!んなコトして、ポンイーソーが持つ隠された力とかでバレでもしたら、お前ら今後一切オレとの関わりを持ってくれなくなるじゃんよ!リスキー過ぎるんよぉ」
「そんな発想がよく出てくるポンね」
「え、普通じゃね?感情エネルギーを使えば、様々な機能を持つネガーフィールドを作れたり、そこらのモノを兵器に変えたり、普通の少女をバケモノと戦える体に強化したり、色々出来るんだぜ?感情をエネルギーにしてる世界出身のポンイーソーにカメラを探し出す力があるかも、くらい考えるのって普通じゃね?」
「なるほど、スジは通っているポンね…」
ポンイーソーは、この説明に納得したようだ。
オレも正直、ロムが魔法少女一行を家に招待した目的は盗撮のためなんじゃないか、と少し疑っていた。
だが確かに、ポンイーソーがどんな力を持っているのか分からない以上、下手な行動に出るのは自らの首を絞める結果に繋がりかねない。ロムは何としても魔法少女との関係性を壊したくないだろうから、下手に信用を失うマネはしないのだ。こう考えるとやはり、ロムは普段からフザケてるように見える一方で、頭の中では結構深く物事を考えている。海月の言う通り、一筋縄ではいかない男だ…。
と思ったが、そもそもポンイーソーから疑われる原因となった「ロム吉兄さん」の話題を出したのもロム自身じゃないか!やっぱり、そこまで深く考えていないのではないだろうか?いずれにせよ、一筋縄ではいかないコトは確かなのだろうが…。
「ま、堅い話は後回しにして、乱闘しようぜ!乱闘!」
そう言いながら、ロムは両手にゲームIttiを持つ。
「「乱闘!?」」
未来来とポンイーソーが驚きの声をあげたので、オレは急いで説明をする。
「あ、違う違う!『乱闘』ってのは『乱闘ファイターズ』って格闘ゲームの名前だから!」
「あ、そうだったの」
「紛らわしいポンね…」
「楽しいぞぉ、乱闘。やろうぜ、乱闘!」
「で、でも、私このゲーム機触るの初めてだよ?」
ゲームに誘うロムの前で、未来来がゲームIttiを触りながら不安を口にする。
「おいロム、コイツに一から操作方法教えなきゃならんのか?オレはゴメンだぞ」
サブローが続けて不満を漏らした
「そもそもこのゲーム、ロムの一強すぎるんだよ。女の子達相手に無双する気か?」
オレも乗じて不満を漏らす。
ロムは「自分が楽しくないから」という理由で、どんな対戦相手でもわざと負けるようなマネはしてくれない。精々、使うキャラを相手に選ばせてあげるくらいだ。と言ってもコイツはどのキャラもそれなりに使いこなすことが出来るので、少なくともゲームを始めて触る初心者と対戦が成立するような相手じゃ無い。
「そっかぁ…。じゃあ『遊びの世界辞典』やろうぜ!」
ロムが別のゲームを勧めてくる。『遊びの世界辞典』は麻雀、花札、トランプ等々、様々なゲームがコレ一本で遊べるというソフトで、一つソフトがあればダウンロードプレイで近くの友達複数人と遊べるという、暇潰しにはもってこいのソフトなのだ。難しい操作も一切無いので、始めてゲームIttiを触る未来来でも遊べるだろう。
ああ、そうか。「未来来を怒らせる実験」をした時、丁寧にトランプと花札のルールを説明してたもんな。ロムは最初からこのゲームを皆でプレイするつもりだったんだな。ちゃんと考えてあるじゃないか!




