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第3話【裏切りは優しく囁く】 その1「海月の審判」

第二章の第3話、始まります。例によって悪役(インソムニア)会議から始まりますが、前回のように長くはありません。

「はあい、報告書読んだよ~。お疲れさん、E・トゥルシー」


「本当にあと少しだったのですが…、せっかくサブローだかって強い中学生もいなかったのに…クッ!」


「ハハ、確かに、最後に来たフェアリーティアーズが、えっと、何だっけ?この臭い葉っぱ」


「パクチーです」


「そう、ソレ。パクチー好きだったのは運が悪かったねぇ」


「せめて、せめてあの役立たず(セッサー)が人質を手に入れてればこんなコトにはぁ~!!」


「ハッハッハ、頭を()(むし)ったって失敗は失敗、事実は変わらんよ」


「くぅーーーーーっ!!」


「ままま、オレはこうやって報告書を提出してくれれば失敗を責めたりせんから。キミが一生懸命なのも知ってるしねぇ」


「でも、このまま失敗続きでは私のプライドが…っ!」


「それは知ったこっちゃないよ。何故(なぜ)だか分かるかい?」


「支部長が放任主義だから、ですよね」


「お、C・ハータックじゃな~い。次の作戦は決まったかな?」


「支部長、オレはE・トゥルシーが侵略に行ってる間もずっと考えていました。どうすればフェアリーティアーズと、あのメチャンコ強い中学生2人を退(しりぞ)けて侵略を達成出来るのかを…」


「ほうほう」


「その結果、オレは一つの結論に辿(たど)り着きました」


「楽しみ楽しみ」


「結論!今のオレ達じゃ絶対無理っす!!」


「ズコーッ!!」


「フン!馬鹿が考え事なんて時間の無駄ね、C・ハータック。貴方にそんな都合良く名案が思い浮かぶはずがないもの。無理でーす、で終わりになるはずだわ」


「侵略に失敗して帰ってきたばかりのお前は黙っとけよ、E・トゥルシー」


「何ですってぇ!?」


「ちゃんとオレの話を聞いてたか?オレは『今のオレ達じゃ無理』って言ったんだぜ?」


「聞いてたわよ!無理って諦めちゃってんじゃない!!」


「オレは侵略を諦める、とは一言も言ってないんだよ!支部長!この前報告した通り、ロムとサブローって中学生は一筋縄じゃ行かないんすよ。今まで通り侵略を続けても、それこそ無駄骨っすよ?」


「コ…、コレに関してはC・ハータックの言う通りです、支部長。『インソムハート』の製造もタダじゃ無いのに、このままアイツらにインソムジャーをぶつけても無意味です」


「う~ん、じゃあその2人がいない時を見計らって、フェアリーティアーズの3人を倒すことを優先してよ」


「もちろんオレもそうするつもりっすよ!でも、あの2人の存在を無視出来ない以上、此方(こちら)も何かしらの手を打つ必要はあるっす!」


「何々、具体的に何が欲しいの?もったいぶらずにハッキリ言ってちょうだいな」


「具体的に言うなら、『戦力の強化』っす!」


「ほうほう?」


「今まで使ってた『インソムハート』はMサイズっすよね?でも、フェアリーティアーズよりも強い人間が2人いるんすよ?そもそも、今回のE・トゥルシーの侵略でもそうでしたけど、Mサイズじゃフェアリーティアーズ一人にすら歯が立たないじゃないっすか!完全に力不足っす!Lサイズを所望するっす!」


「あぁ~、そう来るか~」


「ぶっちゃけ『TK12741281(ココ)』が、他の平行世界の侵略を行う上で必須になる世界なら、それ相応の予算は貰ってるハズっすよね?」


「ぶっちゃけ、そうだよ」


「なら、Lサイズでの出撃くらいワケないハズっす!何も4Lサイズとか5Lサイズを欲してるワケじゃないんすから!」


「そこまで行くと全面戦争レベルじゃなーい。でもま、実際この世界のフェアリーティアーズは平均レベルより強いみたいだしねぇ。OK、許可しましょ」


「ひゃっほぅ!あざっす支部長!」


「どういたしまして。ただねぇ、あんまり無駄遣いされても困るからね?もし変な使い方をしたら、しばらくは支給されないと思って」


「うす、了解っす!」


「あ~らあらあら、意外にもスムーズな交渉をするのねC・ハータック。単なるお馬鹿さんだと見くびってたわ」


「そうやって人を見下してると痛い目見るんだよ、E・トゥルシー」


「素直に()めたら、そうやってつけ上がる!馬鹿はすぐ増長するから見苦しいわね」


「人の忠告を聞けないオンナだぜ。まあいいや。この戦力(Lサイズ)でどこまで行けっか、いっちょ試しに行くとしますかねぇ!」






 週が明けて月曜日。学校へと向かうオレの内心は不安でいっぱいだった。

 スペシャルパクチーバーガーを素体にしたインソムニアとの戦いの後に開かれた宴は、確かに、和やかなムードで幕を下ろした。しかし、ロムの未来来(みらくる)を怒らせる実験にオレも参加していたことは()るぎの無い事実だった。

 あの後、実験の内容を何度も振り返って考えてみた。オレがあの実験に付き合ったのは、本当に正しいことだっただのだろうか?

 …何度考えても、未来来を傷つけたことにはならないという結論に至ってしまう。ロムの行った実験の内容は、どれも未来来の体や心を直接傷つけるような行動では無く、空気が読めない行動、もしくはチョットしたイタズラの範疇(はんちゅう)を超えないものだったとオレは思っている。無論、実験をされていたと知った時の未来来はショックを受けただろうが、その点に関してもロムは責任を取ってフォローしていた。パクチーの件については当日思った通り、彼女がパクチーを食べられるか(いな)かは実際に食すまで分からないことであり、彼女に挑戦(チャレンジ)をさせただけだと(とら)えている。

 が、今までの考えは全て「そんなの、罪から逃れたいが為に自己弁護を重ねてるだけじゃん」と言われてしまえばそれまでの、自分にとって都合の良い解釈であるのも否定できない。

 オレは海月ほど品行方正な人間では無い。時にはイタズラをしてみたくもなるし、時には自分に甘くもなるし、時にはズルもしてしまう、一般的な男子中学生なのだ。(ゆえ)に、どうしても自分に有利な判断をしてしまう。

 ではどうするべきか。簡単な話だ。オレと同じ生徒会役員であり、未来来の友達でもある海月に、罪の有無を判断して貰えば良い。自分で公平な判断を下せないなら、それしか方法は無いのだ。例え彼女の判断で、如何(いか)なる罰を背負うことになろうとも…。


 学校に到着したオレは、生徒会室に向かい目安箱を確認する。今日の投書は何も無し。もしかしたらこの確認が、生徒会庶務としてオレがする最後の仕事になるのかもしれないな…。


「おはようございます、塔岡君」


 なんて感傷に浸る猶予(ゆうよ)は無かった。後ろから声をかけてきた人物に、オレは挨拶を返す。


「…おはよう、海月」


 海月の表情をオレは観察する。その表情からも、先の挨拶からも、彼女の「怒り」の感情は(うかが)えなかった。まあコレも、都合の良い思い込みなのかもしれないが…。


「海月、今日は一つお願いがあるんだ」


 ウジウジ悩んではいられない。早速、彼女に依頼をする。


「な、何でしょうか…?」


「ロムがやった『未来来を怒らせる実験』に協力したオレに、審判を下して欲しいんだ」


「審判、ですか…?」


 イマイチ事情を飲み込めないでいる海月に、オレは考えていたことを委細(いさい)()らさず打ち明けた。


「…そういう理由で、オレだけじゃ自分の罪の有無を判断できない。だから海月に判断して欲しいんだ。オレのやったことは善なのか、悪なのか?オレは生徒会メンバーとして、ココにいて良いのか?その判断を…」


「…なるほど、事情は分かりました」


 海月はそう言って目を閉じる。

 そして数秒の後、目を開けた彼女はオレの顔を見つめながら口を開いた。


「私の答えといたしましては、塔岡君が実験に付き合ったことは、決して善とは呼べない行いです」


「………」


「しかし、生徒会メンバーとしての立場を失うような悪行かと問われたら、そうとは言えないと思います。従って、塔岡君が多少なりとも罪悪感を持って下さったなら、それで十分だと、私は判断いたしました」

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