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第2話【未来来希の謎】 その12「実験の結末、そしてもう一つの推理」

「ブラボー!!」


 オレの推理を聞き終えたロムが、賞賛(しょうさん)の言葉と共に拍手を送る。


流石(さすが)オレの見込んだ男だ!かっこよかったぜカズ!」


「えっと…」


 そう言われると、黙っていられなくなってしまう。


「なんだかカッコヨク推理しちゃったけど、未来来(みらくる)が怒りの感情が無い世界の出身だって発想は、元々ロムのモノだったんだよ。オレはコイツからヒントを(もら)って、そこから色々考えを広げただけなんだよね…」


「ありゃりゃりゃりゃ言っちゃったねぇ、黙っときゃ良かったのに」


「こういう損な性格なんだよ、オレは」


 黙ってれば名探偵だったのに、何となく罪悪感を覚えて他人の功績を横取りできない性分(しょうぶん)なのだ。完全に自分一人で()げた功績なら遠慮無く自慢するんだけどね。


「そうなんだ!スゴいねロム君」


「おいおい、まだ判決を下すのは早いぜ有原」


 有原の賞賛を軽く受け流しつつ、ロムは未来来に視線を向ける。


「どうなんだ未来来?オレ達の推理は正しかったのか?」


「えっと…、何て言ったら良いのか分からないけど…」


 文字通り言葉に悩んだ様子で、未来来が答えた。


「この世界の人達が持つ『怒り』の感情が限りなく薄いって話は、ポンちゃんから聞いてたよ?」


 オレ達の視線がポンイーソーに移る。


「ロムはヒドいヤツだポン。希に怒りの感情が無いか知りたい、だなんて理由でわざわざ希を怒らせる実験をするなんて…」


「スマンねぇ。試せるモンは試したくなっちゃう性分なんでね」


「希が楽しそうにしてたから、止めようにも止められなかったポンよ」


 ポンイーソーは溜息(ためいき)を吐きつつ言葉を続ける。


「確かに、希の生まれた世界は『怒りの感情が無い世界』だったポン。でも、希は怒りの感情を全く持ってないワケじゃないポンよ?」


「ありゃ、そうなのか?」


 ロムだけで無く、オレもビックリする。完全に「未来来には怒りの感情が無い」路線だと思ってたのに…。


「『怒りの感情が無い世界』で生まれた身でありながら、希は突然変異種(とつぜんへんいしゅ)として、怒りの感情を持てる人間だったんだポン」


「突然変異種って、何だか言い方がヒドくない?ポンちゃん」


 そう有原が口を(はさ)んだが、


「三佳さん、突然変異種という単語は決して悪い意味ではありませんよ」


と海月が返して説明を加えた。


「分かりやすく説明すると、生き物が子孫を作る際、本来の子孫では持ち得ない特徴を持つ個体が作られてしまうことが、(まれ)にあるのです。この現象を突然変異(とつぜんへんい)と呼ぶんです。生物の進化も、そのような突然変異によって起こるんですよ」


「ふーん…」


 有原が納得したような様子を見せる。


「ありがとうだポン、雪花。ともかく希は、怒りの感情を持つ希少な存在だったからこそ、あの世界で唯一、フェアリーティアーズになれる少女だったんだポン」


「で、でもよポンイーソー!」


 ロムが珍しく、(あせ)ったような口調でポンイーソーに反論する。


「未来来は今日、オレの実験で一切怒る素振(そぶ)りを見せなかったじゃねえか!まさか、心の奥底では怒ってて、それをオレが見抜けないくらい上手く隠してたってことなのか!?」


「そ、そんなこと無いよロム君!」


 そう否定する未来来は、ロム以上に焦っていた。


「怒りの感情についてはよく分からないんだけど…、私は今日、ロム君とホントに楽しく過ごせたんだよ?ソレはホントだよっ!!」


「希の主張は嘘じゃないと思うポン」


 ポンイーソーは、その場を収めるように説明を続ける。


「希は確かに怒りの感情を持っているポン。でも、他人から『持ってない』と言われても反論出来ないくらい薄~く、ほのかなエネルギーだポン。だから、今日ロムがやった実験程度の軽い行動で、希を怒らせることは不可能だポンよ!」


「…っ!じ、じゃあ、オレの実験は説を立証させることも出来ず、唯々(ただただ)意味が無い行動を繰り返してただけだった、ってワケか…」


 ガックリと肩を落としたロムは、未来来の方に顔を向けた。


「未来来、オレが悪かった、許してくれ」


 珍しい!ロムが他人に謝るなんて中々無いことだ。それだけ実験の無意味さを痛感したということなのだろう。


「謝らないでいいよ、ロム君。私は全然気にしてないから」


そう言葉を返す未来来が少し悲しそうな顔をしてるのは…気のせいじゃ無いよな?


「ねえロム君、一つ()いても良いかな?」


「何だ?」


「今日ロム君が私をランチに(さそ)ってくれたのは、実験がしたかったから…ってコト?」


「ああ、すまなかったな…」


「じゃあ…、そういうことでも無ければもう、私をランチに誘ったりなんてしな…」


「悲しいこと言うんじゃねえよ!!」


 ロムが大声で未来来の言葉をかき消した。


「オレのやりたい実験が終わったからお前の事なんて後は知りませんってか!?んな面白くねえコト、オレが言うわけねえだろうがぁ!!」


「ロム君…」


「未来来、確かにオレはお前で実験しようとして、今日お前を呼んだ。それは事実だ。だがな、それが済んだからってお前を捨てるほど、オレは畜生(クソヤロウ)じゃねえよ!これからもお前をランチに誘ってやる!またお前を楽しませてやる!今度は下心無しでな!!」


「ホントに!?」


「ああ、約束するさ!」


 そう言ってサムズアップするロム。

 ロムの言ってることは本当だ。オレはそう確信する。今回の実験が原因で未来来が悲しんだまま終わったら、ロム自身も楽しめなくなってしまう。心の底から、実験を後悔してしまう。そんなのは楽しくない。だからこそ、コイツはこれからも未来来を楽しませてやると約束するのだろう。


「ありがとう!嬉しいな、エヘヘ…」


「よせやい!お礼を言われるようなこと、オレはしてねぇぞ!」


 さっきの悲しそうな表情はドコへやら、満面の笑みを浮かべる未来来。そんな彼女に笑顔を返すロム。

 有原も空気を読んでか「三佳は!?」と乗り込むことはしなかった。

 海月は、ロムに不審そうな表情を向けている。まあ、ここでアイツを信じられないのは当たり前だろう。そこは擁護(ようご)出来ない。

 だが彼女もその不信感を口に出すことはせず、その後の(うたげ)は終始(なご)やかなムードで幕を下ろしたのだった。






 魔法少女3人とポンイーソーを残し、オレとロムは先に未来来のアパートを後にした。女子3人が楽しそうにお(しゃべ)りを始めたので、男子であるオレ達の居場所が無いと感じたからだ。


「カズ、今日はスマンかったな」


 帰る道すがら、ロムがオレに()びを言った。


「オレの(たくら)んだ実験に巻き込んじまって、しかもソレが全くの無意味だったなんてよ…」


「別に謝らなくてイイよ。怒ってるわけじゃないしね」


 そう言葉を返す。この言葉は本心だった。

 が、ココでロムに一泡吹かせてやろうという気持ちがムクムクと()き上がってきた。魔法少女達が(そば)にいない今、タイミングはベストであろう。


「謝罪の言葉は()らないから、もう一つ、オレの推理ショーに付き合ってくれないか、ロム?」


「推理ショーって…、もうオレが残した謎は無いハズだぜ?」


 と、一度は怪訝(けげん)な様子を見せたロムだったが、その顔は()ぐさま楽しそうな表情に変わった。


「いや、イイねぇカズ。まだオレの予想もしてない何かがあるってコトか?そういうのは大好物だぞ!」


「だろ?」


「おう!何でも来いよ、聞いてやる」


「じゃあ早速(さっそく)


 ロムから許可を得たオレはズバリと言い放つ。


「ロム、お前パクチー苦手だろ」


「…!」


 一瞬、ロムの顔に驚きの色が表われたが、それはすぐに不敵な笑みに変わった。


「根拠を聞こうか?」


「証拠は(いく)つもあったよ。まず、インソムジャーのパクチー攻撃に、お前は鼻をつまんでいたよな?パクチー好きの有原…ファインは平気だったのにさ」


「ああ、アレはなぁ、流石にインソムニアの兵器なだけあって臭いが強化されてて…」


「じゃあ、E・トゥルシーが現われた時『これは(はか)らずともナイスタイミング』って言ったのは何故(なぜ)だ?」


「…それはホラ、今日あの場でインソムニアの連中が来るんじゃないかと何となく予想してたからな」


「ホントは、スペシャルパクチーバーガーを食べずに済んだからなんじゃないのか?あの時お前はまだ、自分のバーガーに口を付けてなかったよな?インソムジャーと戦う展開になって、食べずに済むからナイスタイミングだと言ったんだ。そうじゃないのか?」


「…他には?」


「セッサーへの投擲物(とうてきぶつ)にバーガーを選んだのも、どさくさに(まぎ)れて、自分の分のスペシャルパクチーバーガーを処分するためだったんだ。あの場面、アイツを妨害出来るなら投げつけるモノは何でも良かったハズなんだ」


「……」


「更に言うなら、あの宴で自分だけドリンクしか持ち帰らなかったのも、パクチー嫌いを隠すためだ。今日の流れを考えたら、お前が持ち帰るセットはスペシャルバクチーバーガーのセットじゃなきゃ変だもんな?違うか?」


「…ククッ、ハッハッハッハッハッハッハ!!」


 オレの推理を聞き終えたロムは大笑いを始めた。


「参ったな、名探偵カズン。大正解だよ」


そして、オレの推理を正解だと認めたのだった。


「一つ訊かせてくれ、ロム」


「おう、見事推理を的中させた名探偵に分からないことがあるなら、何でもどうぞ?」


「あの時、E・トゥルシーが来なかったら、お前はスペシャルパクチーバーガーをどうするつもりだったんだ?」


「どうするって、決まってるだろ?食べてたよ。パクチー嫌いがバレないように、平気なフリをしてな」


「どうしてそこまでして…」


「カズ、オレは自分に付けられた『サッカー部の道化師』って二つ名が結構気に入っててねぇ」


 いきなり何の話かと思ったが、コイツの言いたいことはすぐに分かった。


「自分の素顔を隠すのが道化師の真骨頂(しんこっちょう)、そう言いたいのか?」


「そういうこっと。だからカズ、一つ言っとくぞ」


 そう前置きしてロムはオレを真っ直ぐ見据(みす)えた。


「道化師の仮面を、そう無闇に引き()がそうとするんじゃないぜ?その下にどんな表情が広がってるか、分かったモンじゃ無いからな」


 ロムは楽しそうな顔でそう言った。その顔が(しん)()か?仮に偽ならば、仮面の下に広がる表情は何なのか?そこまでは流石に、オレの推理は(およ)ばないのであった。

第二章の第2話【未来来希の謎】 これにて終了です。別世界出身の魔法少女、未来来(みらくる)(のぞみ)の謎にフォーカスを当てた話でした。推理要素も入れてみましたが、上手く出来ていたでしょうか…(あまり自信がありません)。


次回、第二章の第3話は、和野(わの)宏武(ひろむ)に敵の魔の手が…!?お楽しみに!




 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。気に入っていただけた方は是非、ブックマーク、評価、リアクションの方よろしくお願いいたします(既にして下さった方はありがとうございます)。今後の執筆活動の大きな原動力になります。

 特に、評価をしていただくと、ポイントが大きく加算されて他の人の目に止まる可能性も高くなるので非常にありがたいです。

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