第2話【未来来希の謎】 その10「ポンイーソーのワープ」
「つーワケで皆さん、お疲れちゃーん!!」
昔のオッサン上司のような挨拶で、ロムがメロンソーダの入った紙コップを掲げる。
インソムニアとの戦いを終えたオレ達は今、未来来のアパートに来て勝利の宴を行っていた。
宴と称するからには食事もしっかり用意されている。ズバリ、件のバーガーショップのテイクアウトだ。「オレの奢りだ!」とロムが全員に一セットずつ用意してくれたのだ。ロムの両親は仕事で家を空けることが多く、その分小遣いを多く渡しているのだという。
「今日は三佳ちゃんのお陰で勝つことが出来たよ!ホントにありがとう!」
未来来が真っ先に有原への礼を言う。彼女が頼んだのはチーズバーガーのセット。パクチーは懲りたらしい。
「おう!今回のMVPは間違いなくお前だな有原!」
そう同調するロムの前にはメロンソーダしか置かれてない。曰く「主催者は客以上のモノを用意しない」とのことだが…。
「そんなに褒められると照れちゃうよぉ、エヘヘヘヘヘヘヘ…」
好意を抱いてる相手に褒められ、有原のニヤケが止まらない。ちなみにスペシャルバクチーバーガーのセットを持ち帰ったのは彼女だけである。
「本当に、三佳さんには感謝の言葉もありません。私が不甲斐ないばかりに…」
未来来やオレと同じくチーズバーガーのセットを持ち帰った海月が、そこまで言いかけたのだが、
「ああん!そんなこと言わないで!三佳が雪花ちゃんに助けられるコトだってあるんだから!!」
と有原が最後まで言わせなかった。
「ありがとうございます、三佳さん」
「感謝の言葉もありません、じゃなかったのかよ?」
ロムの余計な指摘に海月がムッとする。そこは好きに言わせとけよ…。
「ところでさ、一点だけ確認させてくれやポンイーソー」
ロムは指を一本立てて、オレンジジュースをストローで啜っているポンイーソーに目を向けた。
「今日、海月と有原が急に現われたアレ、どういう新システムなん?」
「新システムだなんて、そんな大仰なモノじゃないポン」
ストローから口を離してポンイーソーが答える。
「以前、ロム達と一緒にやったワープを、離れている場所のフェアリーティアーズに対しても出来るってだけポン」
「インソムニアのいる場所と元いた場所に限定したワープね」
「そう、ソレだポン。一応言っておくけど、呼べるのはフェアリーティアーズだけだポン。ロムやサブローは呼べないポン」
「フェアリーティアーズにだけテレパシー出来るのと一緒ね」
「知ってたポン?」
「そこら辺は未来来から情報収集済みよ旦那」
なるほど、オレが海月に聞いたのと同じ事をロムも未来来から聞き出してたのか。…サブローは情報収集しないんだろうなあ。
「まあ、なんとなく予想はしてたんだけど、変身した状態で現われたのについてはどうなん?ワープ中に変身できるとか?」
「いやいや、それなら学校からのワープでもしてたハズだポン」
「だよねぇ」
「今回は既に戦いが始まってたから、ワープをする前に変身を済ませてもらっただけの話ポン」
そう答えて、ポンイーソーは海月と有原に視線を向けた。
「はい。私は家で今週の復習をしてたので、家族が周りにいないことを確認し、変身を済ませました」
「あ、オレと同じだ」
週末の家での行動が同じだったことにシンパシーを感じて思わず発してしまった言葉を、ロムは逃さなかった。
「カズは変身してないでしょ?」
「いや、変身じゃなくて勉強の方で…」
「分かってるって!海月と一緒だったのがそんなに嬉しかったのね、カァズ君!」
「ああ、もう…!」
言い返そうとしたが、面倒くさくなって止めてしまう。まあ、完全に身から出た錆だし、からかいを甘んじて受けるとしよう。
「でも、ソレにしては来るのが遅かったんじゃないんかい?」
ロムが今度は海月に質問を投げかける。
「そうでしたか?私としてはすぐ駆けつけたつもりでしたが…」
「海月は悪くないポン」
ポンイーソーが海月を庇った上で説明をする。
「フェアリーティアーズを呼び出すワープは、途中でインソムニアの妨害を受けると失敗してしまうポン。だから、ヤツらの確実な隙を見つけないと呼び出せないんだポン」
「あ~、言われてみれば、ポンイーソーのワープには溜め時間ぽいモンがありましたねぇ」
確かに、学校からのワープの時も、ポンイーソーのワープ開始までには溜め時間があった。アレがあったからこそ、フェアリーティアーズが現場に向かう前にロムとサブローは乱入に成功したのだった。
「今日はロムがセッサーにバーガー投げをしてくれたお陰で、隙を突くことが出来たポン」
「バーガー投げ!?」
海月が驚きの声をあげる。品行方正な彼女からすれば、食べ物を投げつけるなんて信じられない行為だろう。が…
「おいおい副会長さんよぉ。まさか『食べ物を投げつけるなんて許せません!』とか抜かすんじゃあるまいね?オレの行動は世界を救ってるってコトを忘れて貰っちゃ困るぜ?」
コレばかりはロムが正しいだろうなぁ。
「む…、無論です!そこまで目くじらを立てるつもりはありませんよ!」
海月が慌てた口調で言葉を返した。
「んで、有原はその後コッチに来たわけだけど…?」
続けてロムは有原に目を向ける。
「あー、三佳はね、パパとママと駅前に買い物に来てたの!だからトイレに行くフリして抜け出して来たんだ」
「え?じゃあ、早く戻った方が良いんじゃ…」
オレがそう言うと、彼女は「大丈夫!」と言葉を返した。
「たまたま友達に会って一緒に行動することにした、って連絡しといたから!」
「ああ、そうなんだ」
「ロム君がバーガー食べさせてくれるって言うから、戻りたくなくなっちゃったの!」
「ハハハハハ!オレに呼び出された未来来みたいなコト言ってんじゃねえか!」
「え!?」
有原が口にポテトを運ぼうとしてた手を止める。
「ロム君、希ちゃんをランチに誘ってたの!?」
そうロムに問いかける。ヤ、ヤバいな…。魔法少女同士でロムの取り合いとか見たくないぞ、オレは。
「おう、ちゃんとした目的が有ってな」
「目的って何?」
「ズバリ、未来来を怒らせる実験!」
「え!?」
今度は海月がロムに詰め寄った。
「希さんを怒らせる実験って、何を考えてるんですか貴方!?」
「おいおい、そう怒りなさんな副会長さん。オレだってちゃんと考えがあってやったコトなんだぞ?」
「考えって何です?」
詰め寄る姿勢を崩さない海月の横で、ポンイーソーが溜息をつく。そう言えばコイツは、ぬいぐるみのフリをしながら一部始終を見聞きしてたハズだ。ロムの実験についてどう思ってたんだろうか?
「海月さぁ、変だと思わなかった?サブローから延髄斬りされたってのに、未来来が一切怒ってないのを、さ」
オレがポンイーソーに気を回してる中、ロムは海月にそう尋ね返していた。
「それは希さんが優しいから…」
「そんじゃインソムニアに対する態度はどう?未来来、アイツらに自分の故郷を侵略されてるんだぜ?」
「それは…」
海月の言葉が止まる。やはり、同じフェアリーティアーズであっても、ココの違和感は無視出来ないのだろう。
「変だろ?だからオレは未来来を怒らせる実験をすることにしたのさ」
「でも、そんな実験なんてしなくても、希さんに直接尋ねれば良いではないですか?」
「じゃあ海月さぁ…」
「ちょっと待ってくれロム!」
オレはロムにストップをかける。
「そこから先はオレに言わせてくれ」
また「ぽめみ」の単語が出てくるのも馬鹿馬鹿しいし、それに…。
「今日一日、お前の実験に付き合ってやったんだ。一番オイシイ部分を持って行っても良いだろ?」
「ほうほう、自信満々じゃないっすか」
ロムがニヤニヤしながらオレの顔を眺める。
「そんじゃ、名探偵カズンに席を譲りましょうかね」
「ありがとう…って、名探偵カズンって誰だよ!」
そうツッコミをしつつ、オレは未来来に視線を向け、ズバリ真相を突きつけた。
「未来来、君は『怒りの感情が無い世界』から来た人間なんだね?」




