第2話【未来来希の謎】 その9「援軍到着!!」
「ああぁっ!!」
インソムジャーのパンチで吹き飛ばされたミラクルが、地面に叩きつけられる!
「ミラクル!」
オレはミラクルの名前を叫びつつ、ロムの方を振り返る。
「お、おいロム!ミラクルがピンチだぞ!助けに行かなくて良いのか!?」
「バカだなぁ、カズ太くんは」
鼻をつまみながらロムが言い返す。カズ太くんって誰だよ!
「オレがすぐ助けに行ったらソコでハイ終了!になっちまうだろ?そんなの面白くも何ともねえじゃんか。オレの出陣はホントに世界が終わりかねんタイミングくらいで丁度良いのよ」
「でも…」
言い返そうとしたところで、脳内に海月の言葉が浮かび上がってきた。
『私達が負けても他の人が…、なんて考えで戦いを進めて、何か得があるでしょうか?いいえ、逆にそのような考えは油断や慢心を招き、取り返しの付かない敗北に繋がりかねません。「初心の人、二つの矢を持つことなかれ。」です』
なるほど、彼女と同じ考えがロムにもあると、そういうことなのか?
「あ、でもオレが面白そうだと思ったらピンチじゃなくても出てくけどな?」
オレの考えを否定するかの如く、ロムがそう付け加えてきた。やっぱりコイツの行動基準は「面白いか、面白くないか」の一点だけにあるらしい。
「ホーホッホッホ!良いわよインソムジャー!」
E・トゥルシーが高笑いする。よく見るとアイツも自分の鼻をつまんでいた。
「E・トゥルシーさん、今調べて分かったのですが、あの強烈な臭いを持つ緑の葉はパクチーという名前なのだそうです」
情報端末を手にしながら上司に報告する情報担当も、鼻をつまんでいた。
「うーん…、しっかしミラクルってのは他2人と違ってどうにもシックリ来んね」
一方でロムが、ミラクルをそう評する。
「シックリって?」
「海月や有原と違って戦いの基盤がなってない、ってコト!やっぱり怒りの感情が無いってのはアカンねえ」
このロムの言葉を受け、先程オレが辿り着いた答えは正解だったことが分かったのである。
「さあインソムジャー!トドメを刺しに行きなさい!」
「イ゛イ゛イ゛!」
しかし、その答え合わせをしている時間は無いらしい。鼻をつまみながらの命令を受けたインソムジャーが、倒れてるミラクルの方に歩みを進める。
と、その時だった!
「そこまでです!」
眩しい光が差し、オレが心の中で待ち望んでいた声が聞こえた!!
「そ、その声は…」
「ドロップ!!」
E・トゥルシーとオレが光の差した方に目を向けると、そこに魔法少女ティアードロップが立っていた。原理は不明だが、ポンイーソーが呼んでくれたのは間違いないだろう。
「ありゃりゃ変身済みなのね。残念だったわねカズ」
「べ、別に残念とかじゃねえし!!」
慌ててロムに言い返す。彼の指摘通り、ドロップは既に海月から変身を遂げた後の姿だった。いや、エッチな変身シーン見れなくて残念とかホントに思ってねーし!さっきミラクルの変身見たから今日はソレで十分だし?
「うぅっ!」
突如、ドロップが苦しげな声をあげる。
「な、何です?この異様な臭いは…」
ああ、そうなのか。ドロップもまた、パクチーがダメな人間なのか。
よく見たら、ドロップが今いる場所は最初のパクチー弾が炸裂した所のすぐ近くじゃないか!臭いがキツくて当然だ。
「チャンスよインソムジャー、パクチー攻撃!!」
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!」
「ああうっ!!」
インソムジャーの放った緑色のエナジーが、怯んでいたドロップに直撃してしまった!
「うう…、ぅぷっ」
パクチーの濃縮弾を受けたドロップが膝を付いてえずき始めてしまう。リバースする最悪の事態には至ってないが、あんな様子を見せる彼女を見たのは初めてだ!
「ドロップ!!」
「塔、岡君…」
オレの呼びかけに、体を震わせながら振り返るドロップ。その目には薄ら涙を浮かべていた。
「見ないで…、見ないで、下さい…」
「…っ!」
涙目で懇願され、オレは堪らずドロップから目を背ける。普段淑女として振る舞ってる彼女にとって、吐き気を堪えている姿を見られるのは耐え難い屈辱だろう。
「おいおい、何目を背けちゃってるのカズくん。吐き気と戦ってる海月の勇姿、しっかり見ててやらないとダメでしょう?」
ニヤニヤしながらロムがオレに言葉をかける。コイツはホントに…!
「ドロップが見ないでと言ってるだろ!」
「『見るな見るなも見ろの内』って言葉知らないの?」
「そんな言葉が無いコトは知ってるし、仮にあったとしても今は当てはまらないコトも知っとるわ!!」
いい加減にしろよコイツマジで…!ミラクルと違い怒りの感情を持つオレの心に、それこそふつふつと怒りが込み上げてきた。
「ホーホッホッホ!やっぱり私の素体選びは間違ってなかったようね」
一方のE・トゥルシーは機嫌が頗る良いようだ。
「インソムジャー!ミラクルは後で良いわ!いつも私をイラつかせるドロップから先に…」
E・トゥルシーが目標の変更を指示しようとしたその時、またしても強烈な光が差し込んだ!
「遅れてゴメン!!」
光の中から現われたのは無論、ティアーファインだった!
「チィッ!次から次へと…!」
度重なる援軍に、E・トゥルシーの顔が引きつる。
「あれ?ドロップ、どうしたの?大丈夫?」
一方のファインは、苦しそうにしているドロップの側に駆け寄る。平然としてる…ってことはもしかして?
「お、ひょっとして有原、パクチー平気なクチか?」
ロムもオレと同じ考えに至ったらしい。
「インソムジャー!ファインにもパクチー弾よ!」
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛…」
インソムジャーが緑色のエナジーを溜め始めた。
「有原!相手の攻撃は気にせず特攻しろ!!」
ロムがオレの横から指示を下す。だ、大丈夫なのか…?
「うん、ロム君!フェアリーティアーズウェポン・チェンジ!!」
ファインはロムの指示に従い、武器を準備しながらインソムジャーに突撃する。
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!」
「ファイン・サンダーブロー!」
敵の放ったパクチー弾がファインの雷ブロー直撃し、破裂する!
「はああああ!もう一発!」
しかし、ファインには効果が無かった!!
「ファイン・サンダーブロー!!」
「イ゛イ゛イ゛イ゛ッ…!!」
必殺の雷パンチを受けたインソムジャーが吹っ飛ばされた。
「はぁっ!?貴女、パクチーが効かないの!?」
驚愕するE・トゥルシーに対し、ファインはアッケラカンとした調子で返答する。
「ファイン、パクチーは大好きだよ!」
おおお!フェアリーティアーズ最後の一人がパクチー好きで助かった!
「ナイスだぜ、有原!」
「えへへ、ロム君に褒められるなんて嬉しいな…」
サムズアップするロムを見ながら、ファインが照れくさそうに頭を掻く。あ、可愛いなコイツ…。
「イ゛イ゛イ゛イ゛…」
ってそんなこと思ってる場合じゃ無かった!インソムジャーが起き上がろうとしてる!
「ファイン!油断しちゃダメだ!!」
「任せて、塔岡君!」
ファインがインソムジャーの頭上に向けてジャンプする。
「さっきの敵の攻撃を見て、良いアイデアが浮かんだんだ!」
そう言いながらファインは両手を合わせ、二つの雷ポンポンを一つにする。
「ファイン・サンダーボム!!」
技名と共に、雷ポンポンのエネルギーを球状にして相手に振り落とす!
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!!」
強烈な雷弾の爆撃を受け、インソムジャーが悲鳴をあげる。
「ヒイイ!し、しっかりしなさいインソムジャー!」
E・トゥルシーの叱咤も空しく、スペシャルパクチーバーガーを素体にしたインソムジャーはグロッキーとなってしまった。
「トドメだ有原ぁ!!」
「ロム君!ファインがトドメを刺す所、しっかり見ててね!!」
そう言いながら、ロムから指示を受けたファインが、ステッキに光を溜めていた。
「フェアリーティアーズ・シャイニングウェーブ・フォルテ!!!」
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛………」
ステッキから発射された黄色の浄化光線により、インソムジャーは無事消滅した。
「くそぉっ!世界偵察局が仕事をしていればこんなコトには…!」
「世界偵察局?」
聞き覚えの無い単語に反応するロムを尻目に、E・トゥルシーは気絶してるセッサーの服を掴む。
「いつまで寝てるの役立たず!撤退よ!!」
「うう…」
呻き声を上げる肉体労働担当を呆れた顔で眺める情報担当と共に、E・トゥルシーは姿を消した。
紫色の空は元の色に戻り、辺りに蔓延していたパクチーの臭いも消え去った。
パクチー好きのファインの健闘により、魔法少女は逆転勝ちを収めたのだった。




